ミリタリーモデルのウェザリングは"やりすぎない"が大事【達人のプラモ術<タイガーⅠ編>】

■ウェザリング(weathering)って何?

戦車や軍用機などのミリタリーモデルにおいては、塗装は質感を再現するためのものですが、さらにもう1歩踏み込んで、使い込まれた汚れや劣化(例えば排気の汚れやオイルの匂い)を感じさせるような臨場感を塗装で表現することで、より完成度が高まります。

ウェザリングは、AFVモデルにおいては、単なる立体塗り絵ではなく、戦場の匂いを感じさせるリアルな質感を再現する技法です。具体的に言えば、雨風に晒されることで生じる雨だれの痕や錆、排気のスス焼け、オイル汚れ、不整地を走行したことによる車体の泥土汚れ、さらには戦闘による装甲へのダメージ、傷や塗装の剥がれといった劣化を再現するための塗装です。

■ウエザリングアイテム

ウェザリング塗装といっても、泥や錆、排気の汚れ、さらにはダメージ表現等々、シチュエーションに応じた再現をしなくてはいけません。近年では、国内外のメーカーからウェザリング専用のテクスチャ(塗料)が数多く発売されており(海外ではAK、MIGなど海外メーカーのウェザリング用品が有名)、泥や錆をはじめ、さまざまな質感をリアルに仕上げられます。今回は、入手しやすさを考慮してタミヤ、Mr.ホビーといった国内メーカーから発売されているウェザリング用品のみで仕上げていきます。

▼タミヤ「スミ入れ塗料」

▲凹モールドに塗装色よりも暗い塗料を流しこんで立体感を強調する「スミ入れ」に使用するエナメル塗料。今回は、「ダークブラウン」と「オレンジブラウン」でディテールの汚れや錆の表現する

▼タミヤ「情景テクスチャーペイント」

▲情景作品の土の表現に使用するセラミック粒子を配合したペースト状の水性塗料。今回は、履帯の泥汚れ再現に使用。硬めのペースト状なので、希釈はタミヤアクリル溶剤を使う

▼Mr.ホビー「Mr.ウェザリングペースト」

▲泥などの立体的な汚れを再現するため、ペースト状塗料で盛り上げも可能。「Mr.ウェザリングカラー」各色との混色、もしくは専用うすめ液での希釈もできる。今回はテクスチャーペイントと併せて履帯の泥汚れの再現に使用

▼Mr.ホビー「ウエザリングパステルセット1・2」

▲車体の埃っぽい汚れや泥の表現に最適な粉末状のパステルのセット。そのまま筆でこすりつけて使用可能。

▼Mr.ホビー「Mr.ウェザリングカラー」

▲タミヤのスミ入れ塗料はエナメル塗料だが、「Mr.ウェザリングカラー」は油彩をベースにした伸びのよいウェザリング用塗料。マルチブラックで排気管まわりのススけた質感を再現。ステインブラウンは履帯の泥汚れに使用

 

POINT1:雨で流れる錆は筆で再現

「Mr.ウェザリングカラー」を使って排気管まわりのススけた汚れを塗装していきます。また、溶接痕や装甲板のモールドに、明るい色のタミヤスミ入れ塗料「ダークブラウン」と「オレンジブラウン」を使い、リベットやボルトなどの周囲に塗布することで、錆の質感を再現していきます。汚れや雨で流れた錆を表現する際は、筆を使い側面なら上から下へ、上面は前から後ろへといった具合に、方向を意識して塗布していくのがコツです。

▲「Mr.ウェザリングカラー」で排気管まわりのススけた汚れを筆塗りで再現

▲フェンダーのヒンジ部分のディテールをダークブラウンで強調

▲筆を使い、雨の汚れ感をダークブラウンで描いていく

 

POINT2:ジオラマに使うペイントで足回りの泥汚れを再現

不整地を走るタイガーⅠの履帯と転輪は泥まみれになります。今回作例では、タミヤ製「テクスチャーペイント(土ダークアース)」を薄めたものと、「Mr.ウェザリングカラー」を筆塗りで塗布することで泥汚れを再現しています。テクスチャーペイントは、本来ジオラマの地面などの製作に使用するものですが、希釈することで汚れの再現にも使用できます。

▲「Mr.ウェザリングカラー」のステイブラウンで履帯全体を塗装して暗い泥色を入れていく

▲ステイブラウンが乾いたらMr.カラーのライトグレーで履帯にドライブラシをかけ、エッジの擦れた感じを出す

▲最後にタミヤアクリル溶剤で希釈した情景テクスチャーペイントのダークアースを履帯やフェンダー、車体の下回りに塗布していく

 

POINT3:ドライブラシで塗装のカスレを表現

装甲板のエッジやモールド(彫刻)の凸部分に明るい色でドライブラシをかけて、ディテールの際立ちと、乗員に踏まれることで塗装がはげた状態を再現していきます。

塗装が剥げて下地の銀色地肌が露出することから、シルバーを塗ることがありますが、それだと際が立ちすぎて逆に不自然になってしまうのでライトグレーを使います。

▲モールドの凸部分や装甲板のエッジ部分にライトグレーでドライブラシを入れた状態。擦れて塗装が剥がれた硬質な感じが再現できる

 

■ドライブラシの使い方

今回、ドライブラシは平筆の先端を切りつめた筆を使っています。コツは塗料を塗るのではなく、筆につけた塗料をティッシュ等で拭き取り、ほとんど乾いた筆先(だからドライブラシ!)でこすりつけるようにディテールのエッジにのみに色をのせていきます。

▲ドライブラシで使用する筆は毛質が硬めのものを使うのがベスト。今回は手持ちのナイロン平筆の先端を3mm程度カットしたものを使用

Mr.カラーの蓋にモールドされている文字にライトグレーを含ませた筆をこすりつけると、凸部分のエッジ部分に塗料が付着してディテールが浮き出てきます。コツは、塗装の際に筆の塗料を良く拭きとっておくことです。

 

POINT4:タッチマーカーでチッピング塗装を再現

チッピングとは、硬いものにぶつかるなどして、塗装が欠け落ちてハゲた状態を言います。塗装が欠けて下地の鉄地肌がむき出しになると表面が酸化して黒くなるので、これを塗装で再現します。筆塗りでもよいのですが、リアルタッチマーカーを使うことで、より簡単にチッピング塗装を再現できます。

GSIクレオスの「リアルタッチマーカー リアルタッチグレー3」を使うと楽にチッピングが入れられます。装甲板のエッジやフェンダーの蝶番部分、手すりなどに黒を塗るというよりチョンチョンと、のせていく感じで塗装のハゲを描いていきます。丸い点ではなく不定形な形でランダムに描くのがコツです。

 

POINT5:小物を使って臨場感を演出!

今回製作したボーダーモデルのタイガーⅠには、丸太をはじめヘルメットや工具箱、果ては生ハムの足といったアクセサリーが付属しています。しかし、タイガーⅠではアメリカ軍のシャーマン戦車のように、車体に弾薬や装備品を満載することは稀でした。そこで今回は、付属品の中から砲塔に積まれた折り畳まれた旗(味方の航空機からの誤爆を防ぐために砲塔上面に広げていた)、さらに車体後部にバケツを追加してみました。

▲キット付属のくしゃくしゃに畳まれた旗のパーツを使用

▲赤で塗装後。描かれているハーケンクロイツは、飛行機用のデカールを流用して再現

▲赤色ということもあり、迷彩の砲塔に乗せることで際立つワンポイントに

▲バケツは持ち手をしんちゅう線で自作。Mr.カラー「C52 フィールドグレー」で塗装し、中には同じくキットに付属していたオイルを入れるための漏斗を突っ込んだ

さらに、今回チョイスした503戦車大隊の323号車が装備していた車体側面の敵兵除けの有刺鉄線(敵兵が車体に登って火炎瓶や手りゅう弾をハッチから投げ込むのを防ぐ)を、キット付属のエッチングパーツで再現してみました。こうした小物がタイガーⅠの臨場感を盛り上げてくれます。

▲キット付属のエッチングパーツで有刺鉄線を再現

▲タルプライマーを塗布して切り離したのち、ペンなどに巻き付けて束ねた形状に形を整える

▲黒鉄色で塗装したのち、箱絵などを参考に車体の側面に瞬間接着剤で取り付けていく

▲1/35サイズだが、チクチクととげが指に刺さってくるのがリアル!

 

■完成!長谷川迷人流「AFVモデル 1/35 タイガーⅠ初期型」

 

【達人流!ウェザリングのポイント】

ウェザリングはどんなシチュエーションなのかをイメージするのが大事。例えば、砂漠で戦う戦車に、泥や水垢汚れを入れたら不自然ですよね。履帯が巻き上げる泥がどんなふうにフェンダーにこびりつくのか、当時の写真のリサーチなども大事です。

また、ウェザリングをリアルに仕上げるコツがもうひとつあります。それはやりすぎないこと。ウェザリングを施すと作品の表情がどんどん変わっていくので、ついついやりすぎてオーバーな表現になりがちなのです。常に全体のバランスを考えながら、“ほどほどに”がウェザリングをリアルに見せるポイントです。

*  *  *

今回で「1/35タイガー1初期型」の製作は終了です。次回からは、タミヤから発売され人気を博している「1/24 NISSAN フェアレディ240ZG」を缶スプレーで仕上げる編を予定しています。お楽しみに!

>> 達人のプラモ術

<写真・文/長谷川迷人>

 

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