■溶剤の薄め方こそがエアブラシ塗装のキモ!誰もが悩む塗料の希釈
さて今回の本題に入りましょう!
エアブラシは難しいものじゃありません。前回も書きましたが、模型塗装での必携ツールとなっていると断言してもいいでしょう。なので私の模型教室でも「本格的な塗装を求めるならエアブラシは必要ですよ」と勧めるようにしています。
とは言うものの、エアブラシを購入したその日から素晴らしい塗装が…いやいや、そうはいきません。やはり慣れは必要です。特性を理解しつつ慣熟することでこそ使いこなせるようになるんですね。そして、エアブラシを使い始めて最初にぶち当たる悩みが、そう!塗料の希釈、薄め方です。
エアブラシは、先に解説したように0.3mmとか0.2mmといった極めて細いノズルから塗料を吹きます。基本的に、使用する塗料は必ず希釈しないといけません(希釈せずに吹けると謳っている塗料もありますが…)。口径0.5mmとかであれば、塗料によっては希釈せずとも吹けなくはないですが、キレイな仕上がりは得られません。つまるところ塗料の希釈がエアブラシ塗装の仕上がりを左右するキモでもあるのです。
◎塗料によって溶剤も希釈率も変わる
一般的なプラモ用塗料といえば、ラッカー系、水性に大別できます(あとエナメル系塗料がありますが、エアブラシでの使用が少ないのでここでは省きます)。水性塗料ではファレホなど海外製塗料が広く使われるようになっています。
塗料にはそれぞれ専用溶剤(シンナー・薄め液)があるので、エアブラシでの使用では、塗料に適した溶剤で希釈します。
達人は、いまだにラッカー系塗料(Mr.カラー・タミヤラッカー塗料・ガイアカラー・フィニッシャーズカラー)をメインで使用しているので、希釈はそれぞれの塗料専用溶剤(シンナー)で希釈しています。
で、ここからが大事。
◎実は厳密な決まりがない希釈率
エアブラシ関係のハウツーでは、塗料の希釈は1対1とか、6対4で希釈するとか書かれています(自身の動画や著書でもそう説明しています)。それは間違いではないのですが、実のところ「希釈率は一概に数値化できないよ」というのが本音です。
それじゃあどーすんの? となるワケですが、エアブラシ塗装で使用する塗料の希釈は、塗料の種類、濃度、吹き付けの際の距離、エア圧、そしてどんな仕上がりを得たいか、といった要素を踏まえて塗料の濃度は変わるものと言って良いでしょう。
達人の場合、ラッカー系塗料だと、ミリタリー系のモデルの塗装であれば【塗料3:溶剤7】(Mr.カラー)で希釈しています。一般的によく言われる【塗料1:溶剤1~塗料6:溶剤4】と比較すると、かなり薄めの希釈で拭いています。理由は「シェイド塗装など下地塗装による陰影をなるべく殺さずに塗装面に複雑な色の濃淡(表情)をつけるため」。
抽象的な表現ではありますが、色を塗るのではなく、思うように色を描いて塗装面に表情をつけられる【塗料3:溶剤7】の希釈を多用しています。
ちなみにタミヤラッカーだと【塗料4:溶剤6】、ガイアカラーとフィニッシャーズカラーはやはり【塗料3:溶剤7】といったところです。もちろん艶消し塗装と艶あり塗装によっても希釈率は微妙に変えています。
◎水性塗料の希釈率
近年、進化が著しい水性塗料ですが、やはりメーカーによって特性が異なるため、一概に希釈率が決められません。
近年内容が刷新された新「水性ホビーカラー」の希釈目安は、塗料1に対して水性ホビーカラーうすめ液1とメーカーが指定しています。実際の使用でも1:1がベストです。
同カラーは水でも希釈できると謳っていますが、エアブラシ塗装にしても筆塗りにしてもオススメしません。乾燥が遅くなり、またプラへの塗料の食い付きも悪くなってしまいます。専用の水性ホビーカラーうすめ液の使用がエアブラシでの安定した塗装面を仕上げる大前提となります。またコンプレッサーのエア圧は0.08Mpa前後が良いでしょう。
◎タミヤ アクリル塗料ミニ
国内で販売されている水性塗料(水性アクリル)の定番といってもよく、艶あり、艶消しともに色数も多く、広く愛用されています。
希釈に関しては専用の「アクリル塗料溶剤」を使用。エアブラシでのメーカー推奨の希釈率は、塗料1に対し溶剤1となっています。ただし達人的には【塗料4:溶剤6】とメーカー推奨値よりやや薄めに希釈しています(艶あり塗装では1:1で使用)。ただし水性アクリル塗料は希釈が過ぎるとムラになりやすく、また垂れやすくもなってしまいます。
◎ファレホの希釈に関して
国内でもすっかり定着した感のあるファレホは、スペインで生まれた水性アクリルカラーです。水だけでも希釈できるのですが、専用のシンナー「エアブラシシンナー」が用意されています。
とはいうものの、ファレホはラッカー塗料のような感覚でうすめ液を多めに使うのはNGです。ファレホ1に対してエアブラシシンナー0.5くらいがベスト…のはずなんですが、ファレホ特有の乾燥の速さがアダになって、エアブラシのニードル先端に顔料が固まり、詰まりが発生することが多いのです。また薄めすぎるとムラになり定着性が悪くなります。ファレホをエアブラシ使用する場合は、まず今までの水性塗料の希釈率を忘れてください。
エアブラシの詰まりトラブルを防ぐためには、エアブラシシンナーにフローインプルーバーという液体を添加することで、エアブラシの詰まりを抑えられます。混合率はエアブラシシンナー3に対して1程度の割合です。公式に表記されている精製水は使わなくも大丈夫(筆塗りの場合は精製水のみでもOK)。またコンプレッサーを0.09Mpaと高めに設定することで、より目詰まりを防げます。
* * *
というわけで、エアブラシ塗装のキモは塗料の希釈にあるんですね。
文章にすると難解に感じてしまいますが、そう難しいものでありません。エアブラシの口径、塗料の種類、どんな仕上げを求めるかによっても応じて希釈率を変えていく必要があります。
次回はエアブラシのトラブルレスキューをお送りします。乞うご期待!
>> [連載]達人のプラモ術
<写真・文/長谷川迷人>
長谷川迷人|東京都出身。モーターサイクル専門誌や一般趣味雑誌、模型誌の編集者を経て、模型製作のプロフェッショナルへ。プラモデル製作講座の講師を務めるほか、雑誌やメディア向けの作例製作や原稿執筆を手がける。趣味はバイクとプラモデル作りという根っからの模型人。YouTube「
モデルアート公式チャンネル」などでもレビューを配信中。
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