「奈良」といえば、歴女・歴男ならずとも心躍らせる悠久の都。飛鳥、藤原、平城と、日本の礎を築いた都は神々しいパワースポットのインパクトが強い反面、土地の名産品や食に関する情報・インパクトはやや弱めである。「ときのもり」は、そんな地元に埋もれ気味な奈良県の「食」まわりの魅力を情報発信することを目的にしたアンテナショップである。

インテリアショップのような美しいたたずまい。建築家の西森陸雄氏が総合プロデュースを担当した
吉野杉の太いフレームが印象的なエントランスをくぐると、白を基調にしたカフェ&ショップ「LIVRER(リヴレ)」が広がる。このフロア(1F)で展開する食材やプロダクトのセレクトを手がけるのは、「奈良に“くるみの木”ありき」と言わしめる地元の有名店「くるみの木」「秋篠の森」オーナーの石村由起子氏だ。

吉野檜の棚に並べられた商品は、観光で訪れただけではなかなか出会えない奈良の秘められた魅力を感じさせてくれる
石村氏は1984年の「くるみの木」創業以来、大和野菜をはじめとする奈良県食材を積極的にメニューに取り入れ、近年は商品開発や街おこしプロジェクトなど幅広い分野で活躍する人物。その彼女が選び抜いた上質な食材や食まわりのプロダクトはどれも目に新鮮で、いわゆる“観光土産”とは一線を画した洗練された面立ちが印象的だ。

古希、和三盆、本和香、琥珀、亜麻、5種がパズルのように並ぶ、Natural brownの葛菓子。「そして、訪れ(葛菓子)」1080円

奈良県産のトマトを使用したジュース。「トマトジュース」993円

垣谷繊維の使い勝手のよい白雪ふきん。奈良特産の蚊帳生地を使用。くるみの木オリジナルの鹿の刺繍入り。「白雪ふきん(綿)」486円
カフェスペースでは「大和茶とほうせき」がいただける。
「ほうせき」とは、奈良の古い言葉で“おやつ”のこと。こちらでは、奈良の古式ゆかしい食材や土地に由来する旬のお菓子とともに、弘法大師(空海)が唐から持ち帰った茶の種がはじまりとされる「大和茶」の粋な組み合わせが楽しめるのだ。
ちなみに、画像が無くて申し訳ないのだが、ほうせきは「鹿の舟」オリジナルパウンドケーキ各種や、白味噌と胡桃、奈良漬、大和茶クッキーと葛菓子などがそれぞれ330円(税別)前後の手頃な値段で賞味できる。
2階にはフランス料理をベースにしたレストラン「CIEL ET SOL(シエル エ ソル)」。レストランのプロデュースを手がけるのは、フランスの片田舎で三ツ星を築いた名シェフ、アラン・シャペルに師事した初の日本人シェフ、音羽和紀氏。

床材は吉野杉のウッドブロックを使用。格子状の建具にもふんだんに吉野産の檜や杉を使用し、伝統工芸である福西和紙本舗の草木染の和紙がはめこまれている。椅子はプロダクトデザイナー藤森泰司氏がデザインした「RINN(リン)」。座面には奈良県産の鹿革を使用する準備を進めている。「ミナ ペルホネン」皆川明氏がテキスタイルで森をイメージした作品が壁を彩る
栃木県宇都宮「オトワレストラン」を率いる和紀氏と、次男の創(そう)氏がシェフを務める同店では、“LA CUISINE NATURELLE(自然体の料理)”をコンセプトに、奈良の厳選食材を駆使したコース料理を提供する。

活〆真鱈のヴァプール 大和野菜のグリーンソース

アスカルビーのウッフ・ア・ラ・ネージュ
大和野菜をはじめ、あふるるほどの魅力的な食材を巧みに調和させながら提案する料理の数々を、凛としたたたずまいで心を捉える美しい空間との融合で味わうことができる。
【ときのもり】
東京都港区白金台5-17-10
1階:カフェ&ショップ「LIVRER(リヴレ)」
11:00~18:00 月・火休
03-6277-2606
2階:レストラン「CIEL ET SOL(シエル エ ソル)」
ランチ 12:00~13:30 L.O. / 3000円・6000円・9000円(税サ別)
ディナー 18:00~20:30 L.O. / 6000円・9000円(税サ別)
月休・火ランチ休
03-6721-7110
(文/松浦 明)

まつうらあかり/エディター、ライター
英国・ロンドン「Sotheby's Institute of Art」で西洋美術史を学び、帰国後は美術図録の編集に携わる。ギャップ出版入社後、ライフスタイルマガジン『gap』や数々の書籍の企画・編集を手がけ2003年に独立。現在は雑誌・ウェブマガジンでの記事執筆、食ブランドや企業のフリーペーパーなどの企画・編集等を手がけている。
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