■実用性とデザイン性を高次元で両立したグランクーペ
車格とキャラクターを3ケタの数字で示すというBMWのネーミングポリシーは、とても分かりやすい。先頭に来る数字が大きくなると車格が上がるのが基本。その上で、1、3、5、7の奇数シリーズはオーソドックスなモデル群、2、4、6、8の偶数シリーズは個性派モデル群、それに続く下2ケタ数字がエンジン出力を示す。この法則さえ覚えておけば、「M340i」より「523i」の方が車格は上だが動力性能は控えめ、というように、価格表やスペックを見なくてもだいたいの立ち位置が分かる。
しかし、2シリーズだけは別だ。偶数シリーズ=個性派BMWのエントリーモデルであることは分かるが、いざ調べ始めると、ラインナップの複雑さに頭を抱えることになる。というのも、後輪駆動のクーペとカブリオレというマニアックなモデルがある一方、「アクティブツアラー」と「グランツアラー」というファミリーテイストのハイト系FFミニバンも用意しているからだ。これほど対照的なモデルに、2シリーズという同じネーミングを与えるのは、分かりやすさからいってもブランドの整合性からいっても、決して得策ではないと思う。
そんな中、新たに誕生したのが2シリーズ グランクーペだ。成り立ちはいたってシンプル。ひと足先にモデルチェンジしFF化した「1シリーズ」に独立したトランクルームを付けた、と説明すれば分かりやすいだろう。もちろん、実際には単にトランクを付けただけではない。“グランクーペ”というサブネームが意味するのは、実用性とデザイン性の高次元での両立だが、事実、美しい弧を描いたルーフラインと、リアの短めのノッチが生みだす伸びやかなプロポーションは、誰もがBMWに対して抱く「都会的でスポーティなブランド」というイメージをはっきりと視覚化している。
アクティブツアラーやグランツアラー、1シリーズを見ると「BMWのデザイナーはFF車のデザインにまだ慣れてないな」と感じるが、最新のグランクーペに来てようやく、BMWもFFデザインの勘所を会得したようだ。
欲をいえば、ルーフをあと数㎝低くすれば、さらにクーペ的スタイリッシュさが出たと思う。しかし、大柄な大人が乗り込んでも窮屈さを感じさせない後席頭上スペースを持っていることを考えれば、納得しないわけにはいかないだろう。
全長は「3シリーズ」のセダンより175㎜短いものの、それでも後席の膝元スペースを十分に確保できているのはFF化の恩恵だ。
■シャープな身のこなしと上質かつ濃密な走り味はBMW流
ポルトガルで開催された海外試乗会で乗ったのは、2リッターの直4ターボ(306馬力)を搭載する「M235i xドライブ」(ホワイト)と、同ディーゼル(189馬力)を積む「220d」(グレー/日本未導入)の2台。
駆動方式は、前者が4WDで後者はFFだ。生粋のBMWファンにしてみれば「FFのBMWなんて」となるかもしれないが、実際にステアリングを握ってみて「これほどの動的クオリティを実現しているならFRじゃなくても全然OKだな」と思った。
まず、ステアリングフィールが素晴らしい。エンジンの振動をほぼ完璧に遮断する一方で路面フィールはきちんと伝えてくる。この上質さ、濃密さはまさにBMW流だ。また、ステアリングを切り込んだ状態でアクセルペダルを踏んでも、トルクステア(ハンドルがとられる動き)が出ない。濡れた路面でフルパワーをかけるような状況では、さすがにトラクションコントロールが作動してエンジン出力を絞ってくるが、普通に乗っている限りはそこも問題なし。とりわけ4WDを採用するM235i xドライブのトラクションは強大で、高い安定感を保ったまま300馬力オーバーの出力を余すところなく路面に伝え、着実に車速へと変えていく。
ワインディングロードでは、シャープな身のこなしが楽しい。220dはややマイルドだが、それでも十分“スポーツできる”し、引き締まった足とハイグリップタイヤで武装したM235i xドライブの走りにいたっては、生粋のスポーツセダンと表現できるほど。少ないハンドル操作で面白いようにノーズがグイグイ内側へと入っていくのに全く神経質じゃない。この辺りの絶妙な味つけは、さすがBMWである。
なお、日本に導入される「218i」は、220dと同じくFFだが、1.5リッターの3気筒ターボを搭載していることもあり220dより鼻先が軽い。その分、走りはかなり期待できそうだ。
■旧3シリーズからの乗り換えにはベターな1台
そんな2シリーズ グランクーペは乗り心地もいい。ボディがガッチリしているから、鋭い段差を通過しても不快な振動が残らない。決してソフトではないが、気持ちのいい硬さを味わえる。2019年のランニングチェンジでかなり改善されたものの、現行3シリーズの初期モノと比べたら、むしろ2シリーズグラングーペの方が快適なくらいだ。
開発担当者によると「BMWのバッジを付けるからには、例えFFであってもBMWらしさを絶対に失ってはいけない」という思いで開発したという。具体的には、滑らかで正確なステアリングフィール、洗練された乗り心地、スポーティなハンドリングの3点を徹底的に磨き込んだ。実際、2シリーズ グランクーペは「なるほどこいつは正真正銘のBMWだな」と納得できる走り味を備えている。
価格は369万円〜。「現行3シリーズは価格も高くなったし、ボディサイズもちょっと大きすぎるんだよな」と思っている人にとって、先々代3シリーズとほぼ同サイズの2シリーズ グランクーペは、おあつらえ向きのモデルだと思う。今後、2シリーズの中心モデルは、このグランクーペになりそうだ。
(文/岡崎五朗 写真/ビー・エム・ダブリュー)
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