■セリカGT-FOUR以来となる本格4WDスポーツモデル
GRヤリスに冠された“GR”とは、“GAZOO Racing(ガズー・レーシング)”の頭文字から名づけられたトヨタのスポーツカーブランドの名称で、モータースポーツ活動やスポーツカーの企画・開発などを担うトヨタの社内カンパニー“GRカンパニー”がプロデュースしています。
母体となったGAZOO Racingは、2007年のドイツ・ニュルブルクリンク24時間耐久レースに初参戦。以来、モータースポーツへの挑戦を通じて人とマシンを鍛えながらさまざまなノウハウを吸収し、市販車開発の分野でも、もっといいクルマ作りにトライしてきました。
そんなGRブランドから、間もなく発売予定のGRヤリスは、トヨタにとってあの「セリカGT-FOUR」以来となる本格4WDスポーツモデル。“偉大なる先人”と同様、WRC(世界ラリー選手権)制覇を目指す大役も担っています。
ちなみに、偉大なる先人であるセリカGT-FOURは1986年に誕生。1988年からWRCの舞台へ実戦投入され、1990年にはトヨタにとって初となる(日本車としても初めて!)、WRCドライバーズタイトル獲得に貢献します。その後、1993年と1994年には、2年連続でWRCマニュファクチャラーズタイトルを獲得。セリカGT-FOURは3世代に渡ってトヨタのWRCマシンとして数々の栄光を勝ち取るとともに、“ラリーの世界にトヨタあり”という印象を確固たるものとしました。
そんな名車GT-FOURへのリスペクトなのでしょうか。新たに誕生するGRヤリスは別名“GR-FOUR”と呼ばれています。また、GRヤリスのために開発された4WDシステムにも、GR-FOURの名称が与えられています。
■プラットフォームからしてヤリスとは全くの別物
さて、そんなGRヤリスでまず注目したいのは、なんといっても“クルマの作り方”でしょう。これまでトヨタのWRCチャレンジャーは、一般の人向けに開発された市販車をベースに、過酷なシーンで戦うための改造を施したマシンでした。しかし、次期ワークスマシンとして実戦投入されるGRヤリスでは、そうしたクルマの作り方を一新。まずはWRCで勝てるマシンを開発した上で、それを一般ユーザーが乗る市販車へ落とし込むという、逆転の発想を採り入れたのです。
とはいえそれは、トヨタにとって初の試みであり、開発現場は苦労の連続だったとか。しかも本格4WDスポーツカーを手掛けるのは、セリカGT-FOUR以来、実に20年振りの挑戦です。トヨタの社内には、すでに速い4WDカーを生み出すためのノウハウなどなく、また、セリカGT-FOURに携わっていた技術者たちも残っていないとあって、まさに手探り状態からのスタートになったようです。
そのためか、最初に作られた試作車は、曲がらない上にいきなりスピン。しかも、テスト走行を終えてピットに戻ってみれば、エンジンオイルが逆流して煙がモクモク上がるなど、トラブルの連続だったといいます。それでも、エンジニア、テストドライバー、プロドライバー、首脳陣らが一体となって試行錯誤した結果、従来のトヨタ車では考えられなかった“スーパーホットハッチ”が結実したのです。
続いて注目したいポイントは、プラットフォームとボディです。GRヤリスは一応、ヤリスの名を冠してはいるものの、実は土台となるプラットフォームは完全なる別物。ヤリスのそれが、“TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)”に基づき開発されたGA-Bプラットフォームであるのに対し、GRヤリスでは、フロント部にGA-Bを、リア部には「カローラ」やレクサス「UX」に使われる、ひとクラス上のGA-Cを使ったハイブリッド版が採用されています。これにより前後サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット式、リアがダブルウイッシュボーン式というGRヤリス専用の組み合わせに。またリアのトレッドは、FRスポーツカーである「86」よりもワイドに設定されています。
一方のボディは、ベースとなったヤリスが5ドアであるのに対し、GRヤリスは3ドアというのが最大の特徴。しかも、単にドアの枚数を減らしただけでなく、ルーフラインやリアフェンダーといった大半のボディパネルが、GRヤリス専用のデザインとなっています。その結果ボディサイズは、全長3995mm(ヤリス比プラス55mm)、全幅1805mm(同プラス110mm)、全高1460mm(同マイナス40mm)となり、ヤリスと比べると格段にワイド&ローのシルエットに。
さらに、サイド&リアのディフューザーやリアスポイラーを装着することで、空力性能も徹底追求しています。もちろんスポーツカーだけに、軽量化も抜かりはありません。ボンネット、ドア、トランクリッドはアルミ合金製ですし、ルーフはカーボン製とするなど、非常に贅沢な作りとなっています。