初代のNSXは、1990年、卓越した運動性能を誰もが快適に操れるモデルとして登場しました。そのため、エンジンパワーだけを見れば280馬力と、当時の世界のトップレベルにあるスポーツカーと比べると、特筆するほど高い数値ではありませんでした。
しかし、他社のスポーツカーが、速いけれど扱いづらい面があったのに対し、NSXは、誰でも、どんな路面状況でも性能を引き出せることを重視。そのために採用されたのが、3リッターのDOHC自然吸気V6エンジンであり、世界初のオールアルミボディ、そしてコクピットの視界や快適性などにまでこだわった設計でした。
そんな文字どおり“人間中心”のクルマづくりが評価され、NSXはマイナーチェンジを繰り返しながら2006年に販売が終了するまで、世界で1万8000台以上が販売されました。
そして販売終了から10年を経て、生まれ変わった新型NSXにも、初代の思想が脈々と受け継がれています。
新開発の3.5リッターV6直噴ツインターボエンジンの最高出力は507馬力。3つの電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステムの合計出力は581馬力とハイパワーですが、ライバルを圧倒するほど優れているわけではありません。
注目すべきは、エンジンのアシストモーターのほかに、左右の前輪を独立して駆動させる、合計3つのモーターを組み合わせた“SPORT HYBRID SH-AWD”システム。これは、コーナリング時に外側のタイヤへの駆動力を高め、優れた回頭性を実現する“トルクベクタリング”を可能にするもので、NSXでは減速しながらのコーナーでは内側のタイヤを減速させることも可能。あらゆる速度域でオンザレール感覚のコーナリングを味わうことができるんです。そう。誰でも。
このシステムに組み合わせられるトランスミッションは、9速のDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)。奇数ギヤと偶数ギヤのそれぞれに専用のクラッチを装備し、素早く変速ができるDCTは、現代のスポーツカーには必須の装備。NSXではギヤを多段化することで、街中から高速道路、そしてサーキットまで、すべてのシーンで最適なギヤ比を選べるようになっています。
また、走るシーンやドライバーの気分に応じてエンジンやハンドリングなどの特性を「QUIET」「SPORT」「SPORT+」「TRACK」の4つに切り替えられる“Integrated Dynamics System”も搭載。サーキットでの全開走行を「TRACK」モードで楽しみ、帰り道は「SPORT」でクルージング、家に近付いたら静かなEV走行優先の「QUIET」を選ぶなど、TPOに合わせてクルマの特性を切り替えることもできるんです。
ミッドシップに搭載されるエンジンは、オイルを溜めるオイルパンを廃したドライサンプ式で、さらなる低重心化を追求。クランクシャフトにダイレクトに連結したモーターがセルスターターも兼ねるなど、細かい部分まで軽量化とマスの集中化が図られ、スポーツカーとしての基本性能にも妥協がありません。
そして、それらがクルマ単体での性能向上を目指すだけでなく、人が乗った状態で最高の性能を発揮できるように作られているのが、NSXのスゴイところ。ここまでやって2370万円という価格設定は、むしろバーゲンプライスにも思えてしまいます。
アメリカではすでに、納車は2年待ちと言われる新NSX。購入できる人は間違いなく、幸せ者です。
(文/増谷茂樹)
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