世界初の携帯電話を生み出し、常に時代をリードする端末で多くのユーザーを魅了してきたモトローラ。時代が移り、スマートフォン全盛となった今も、“Moto Mods”というオプションを合体させて機能を強化できる「Moto Z」シリーズや、高性能カメラを搭載した「Moto X4」など、最先端を行くラインナップを展開している。
これらの端末からも伝わるモトローラの先進性は、どのように受け継がれてきたのか。昔も今も、世界中に熱心なファンを持つ理由はどこにあるのか。1980年代から国内外の携帯電話業界の動向をウォッチし、1000台を超える携帯電話のコレクションを保有する青森公立大学准教授の木暮祐一氏に熱く語ってもらった。
■1983_世界初の携帯電話「ダイナタック」を開発
アメリカで1928年に設立されたモトローラは、無線機や半導体を手がけるメーカーで、かつてはラジオやテレビも製造し、アップル・コンピュータ社のMacのCPUを製造していた時期もある。トランシーバーでも性能が高く評価され、携帯電話の前身となる自動車電話においても世界をリードする技術を持っていた。
移動式電話のルーツは自動車電話だったのですが、それを車から切り離して持ち歩けるようにしたのが肩掛式のショルダーフォンです。さらに無線機とハンドセットを一体化してハンディタイプにしたものが携帯電話になります。そのハンディタイプの最初のモデルがモトローラの「ダイナタック」。初号機は1983年に発売されましたが、日本でハンディタイプの携帯電話が発売されたのはそれから3年後の1987年なので、モトローラがいかに先進的だったかがわかりますよね
当時、携帯電話は高値の花で、まだ誰でも使えるというものではなかった。アメリカでも、高所得の経営者や政治家などVIPと呼ばれる人が使うものだった。
携帯電話そのものがステータスで、モトローラは世界をリードするメーカーでしたから、ものすごく憧れでしたね。当時の携帯電話ユーザーは男性が中心でしたし、モトローラは “男性が使うかっこいい物” を作るというイメージでした
■1989_日本の携帯市場に大きな影響を与えた「マイクロタック」
ロングセラーとなった「ダイナタック」の流れを汲むモデルとして、1989年に発表されたのが「マイクロタック」だ。
ポケットに入るサイズの携帯電話として、世界に衝撃を与えたモデルです。当時の携帯電話は通話しかできなかったので、小型化・軽量化で技術を競っていましたが、このサイズには日本の携帯電話関係者も驚いたようです
当時、日本では、電話会社が商品企画を行い、メーカーに作らせるという仕組みだった。そのため、デザインや機能が同じ端末を複数のメーカーが作るということもあったらしい。その慣習を変えるきっかけとなったのもモトローラだった。
マイクロタックに驚いたNTTの幹部が、これを競合キャリア(IDO、セルラー)に出されたら大変だと感じたそうです。実際、1989年10月にセルラーがマイクロタックを発売したのですが、NTTはマイクロタックよりも小さい携帯電話の開発に着手。そして、誕生したのが「ムーバ」なんです
「ムーバ」とは、NTTが第1世代(アナログ)に開始し、第2世代(デジタルPDC)に移ってからも使われていた携帯電話の総称だ。
マイクロタックは体積211cc、重量303g。それを見てムーバは体積150ccを目標に開発が進められました。しかし発売は1991年。大急ぎで抜かそうとしたが、2年かかったわけです。またムーバ以降、NTTは端末メーカーによる機種の差別化を図り、型番にN(NEC)、P(松下通信工業/現パナソニック
モバイルコミュニケーションズ)、D(三菱電機)、F(富士通)と付けて、メーカー間の競争が始まりました。これもマイクロタックの影響です。モトローラは携帯電話業界の仕組みにも影響を与えたメーカーなんです
■1996_デジタル移行期に注目を集めたアナログ名機「スタータック」
マイクロタックをさらに小型化し、世界的なヒットを記録したのが「スタータック」だ。
スタータックが日本で発売されたのは1996年。すでにデジタル方式への移行が進み、アナログ方式の携帯電話がタダ同然で投げ売りされていたのですが、そんな中、アナログ方式であるにもかかわらず、15万円くらいの値が付いていました。「誰が買うの?」という価格ですが、このデザインにハマる人が多く、僕も何台も買いました(笑)
マイクロタックがフリップ式であったのに対し、スタータックは折りたたみ式。日本メーカーも折りたたみ式の携帯電話を出していたが、スタータックはデザインのコンセプトが全く異なるものだった。
日本の携帯電話の場合、開いたときにアンテナが上側にあるのですが、スタータックはヒンジ部分から伸ばすんです。そして開いたときの下側、ダイヤルボタンの上に液晶を搭載していて、上側は受話口とバッテリーだけという潔さ。それだけで 、なぜか“アメリカ” っていう感じがしたんですよ(笑)
■2003_世界的な大ヒットを記録した「RAZR」は日本でも話題に
携帯電話の通信方式が第2世代に移り、海外ではGSMが主流だったのに対し、日本ではPDCというローカル規格が採用されたことから、海外メーカーにとっては日本は参入が難しい市場となった。1999年に始まったiモードや、2004年から提供されたおサイフケータイなど、日本独自仕様が増えたこともあり、モトローラの携帯電話は事実上、日本から撤退する形となった。
そんな中、モトローラが2003年に発売し、海外で爆発的な人気を呼んでいたのが「Motorola RAZR(レーザー)」シリーズだ。
スタータックのコンセプトを受け継ぎつつ、この「RAZR」でも当時の世界最薄・最軽量を実現し、大ヒットを記録しました。当初は2Gモデルから発売されたのですが、3Gになり日本では2006年にNTTドコモから「M702iS」と「M702iG」という型番で発売されました。発売記念イベントに、CMに起用されたデビッド・ベッカム氏が登場したことも話題になりましたね
■2005_スマホの先駆け「M1000」もモトローラ製だった
スマートフォンへのシフトチェンジが遅れたと思われがちなモトローラだが、実はiPhoneが発売される以前からスマホを手がけていた。2005年にNTTドコモから発売された「FOMA M1000」もモトローラ製だ。
M1000は、2004年に発売された「A1000」というグローバルモデルを日本仕様にしたモデルです。タッチディスプレイを搭載し、スタイラスペンも入っていて、パソコンとも連携。もちろん携帯電話としての機能も備えていました。iPhoneの初代モデルが発売されたのは2007年ですが、その3年前にこんなにすごい端末を作っていたんです
FOMA M1000は、主に法人向けにフォーカスした端末でもあり、残念ながら大きなヒットにつながらなかった。日本向けのスマホとしてはその後、2011年にau(KDDI)から「Motorola Photon ISW11M」、2012年にau(KDDI)から「Motorola RAZR IS12」、ソフトバンクから「MOTOROLA RAZR M」がリリースされた。
モトローラはグローバルでは実績のあるメーカーなので、スマートフォンに移ってからも海外では人気でした。しかし日本では、しばらくの間、端末が発売されず、知名度が下がっていたことや日本仕様に対応させるために本来の性能が生かせなかったりと、不遇な時代がありました
■地球全体を通話エリアにしたイリジウム
時代は前後するが、モトローラの携帯電話事業を語るうえで、忘れてはならないものとして木暮氏が挙げたのが「イリジウム」だ。
イリジウムは、モトローラ社が主導して開発した衛星電話サービスだ。京セラやDDI(現KDDI)などが出資した「日本イリジウム」も出資し、1998年11月にアメリカと同時にサービスを開始した。
イリジウムは「通話エリアは地球です」をキャッチコピーに、地球上どこでも通話できるようにするという、すごい構想のもとにサービスが開始されました。実は衛星携帯電話は、それ以前から「インマルサット」がありましたが、静止衛星で使い勝手がいいとは言えませんでした。イリジウムは地球からさほど離れていない距離で、66個もの衛星を周回させるという大掛かりなプロジェクト。予備の衛星もあったようなので、さらに多くの衛星を打ち上げていたはずです。その衛星を打ち上げるロケットにもモトローラの“M”のマークが描かれていたんですよ
イリジウムは2000年に経営破綻により、サービスが停止。その後、別の資本が投入されてサービスが再開し日本でも再びKDDIが取り扱いを行っている。
■2016_合体スマホ「Moto Z」シリーズの源流はマイクロタック
2016年7月にSIMフリースマートフォン「Moto G4 Plus」を発売したのを機に、日本市場に本格的な再参入を果たしたモトローラ。Moto G4 Plusは、他メーカーに先駆けてデュアルSIMデュアルスタンバイ(DSDS)に対応させ、ビジネスマン層を中心に人気を集めた。
同年10月には、フラッグシップに位置付けられる「Moto Z」「Moto Z Play」を発売。これらは、「Moto Mods」という別売パーツを、背面パネルに取り付けることで、機能を拡張できる画期的な端末だ。
これ、いいですよね。このコンセプトって実はマイクロタックやスタータックの頃にもあったんですよ。例えばマイクロタックシリーズは、マイクロタック2、マイクロタックエリートなど、いろいろなモデルが発売されましたが、機種は進化してもバッテリーの仕様は同じだったんです。なので、サードパーティーからもいろいろな外付けバッテリーが発売され、しかもバッテリー+αの付加機能を持たせたアクセサリなどが発売されていました
Moto Zファミリーには、2017年6月から新モデル「Moto Z2 Play」が加わった。前モデルのMoro Z Playよりパフォーマンスを向上させつつ、薄型・軽量化を図ったモデルだ。
また、スウェーデンの老舗カメラメーカー・ハッセルブラッドとコラボした光学10倍ズームで撮影可能な「Hasselblad True Zoom」や、高音質ステレオサウンドで聴ける「JBL SoundBoost | Speaker」など、発売当初から多彩なラインナップを揃えていたMoto Modsに、今年はさらに5アイテムが加わった。モトローラは、Moto Modsの仕様をデベロッパーに公開しているので、今後サードパーティによるMoto Modsの開発も期待される。
スマホは基本的には似た形状で、差別化が難しい。そういう意味でも、同じ形のモデルを長く使い続けるようになっていくと思います。そんな中で、このようなオプションを取り付けて使うという発想は、長く使い続けるファンを増やすことにつながるでしょう。次にどんなMoto Modsが出てくるのかが楽しみですし『お願いだから、モデルチェンジしないでくれ』と思いますね
ちなみにモトローラは、Moto Modsの仕様を少なくとも3世代は継続することを公約している。なので、買ったモデルがすぐに型落ちしてしまう心配はない。すでにMoro Zシリーズを使っている人が、欲しいMoto Modsを買い増して機能拡張を楽しむことができ、今後発売されるであろう新しいMoto Zを買っても、これまでに買ったMoto Modsを使い続けられるのだから安心だ。
■モトローラの端末には、昔も今も“M”マークが刻まれている。
私の中で、この“M”マークは『バッドマン』や『スーパーマン』と並ぶもので、ものすごく憧れました。現行のスマホにもこのロゴが生きているのはうれしいですね。メーカー名のロゴは、かつての「MOTOROLA」から「moto」へと変わり、より幅広いユーザー層をターゲットにしていると感じますが、フラッグシップでは、歴代の名機と同じく、世界中の男性ユーザーを魅了するかっこよさが受け継がれていて、その質実剛健のイメージがライトなモデルにも継承されています
携帯電話の技術面でも世界をリードしてきたモトローラ。その「最先端」は、決して一過性のものではなく、常にユーザーのニーズに応えて進化してきた歴史の結果であり、“M”マークは高品質の証ともいえるだろう。
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(取材・文/村元正剛<ゴーズ> 写真/湯浅立志<Y2>)