料理が美味しくて、居心地も快適。そういう店が “良店” だとすれば、“名店”とは何か? それは、細部にも手を抜かずにこだわる姿勢を感じる店のことではないでしょうか。
西巣鴨の住宅街で、丸18年の月日を重ねた『寿司 一』も、そんな名店のひとつ。気持ちの良い空間、ここでしか味わえない料理と時間を求めて、今宵も多くの常連が集います。
■隠れ家のように路地に佇む、住宅街の寿司店
『寿司 一』があるのは住宅街。大通りから入る路地に目立つランドマークはなく、少し行くとマンションの1階に現れる、坪庭と犬矢来(いぬやらい)、鼈甲色(べっこういろ)の暖簾がこの店の目印。引き戸から中へ入ると、室内は白木を基調としており、カウンターのほか、座敷もあって、落ち着ける雰囲気。
2001年のオープンから丸18年を経たとは、にわかに信じられないほど、店は清潔感に溢れています。隠れ家のようにひっそりとある、この立地を選んだ理由は何か。尋ねると、生成り色の着流しで粋に振る舞う店主の佐野公俊さんは力強く、こう答えます。
「ウチを目指して、来て頂けるような店にしたかったんです」
そんな思いがあったからこそ、繁華街での出店は考えていませんでした。実際に、訪れるゲストは常連ばかりで、遠方からわざわざこの店を訪れるために足を運ぶ人が多いとのこと。
「今日は、仙台からいらっしゃる常連の方のご予約を頂戴しています」
もちろん、『寿司 一』を目指したくなる理由は、居心地の良い空間だけではありません。例えば、この日の酒肴で登場した「稚鮎の天ぷら」(以下料理はすべて「おまかせ」1万円~の一例)。カリッとした食感の中から鮎の凝縮した旨みと香りがほとばしり、夏の始まりを実感します。寿司店で、天ぷらとはなかなか他ではお目にかかれません。