提供:セイコーウオッチ
「セイコー プレザージュ」× 伝統工芸「有田焼」
琺瑯・漆・七宝という伝統工芸をダイヤルに採用してきたプレザージュ。そして新たに加わった“有田焼”モデルが生まれた物語を知るため、佐賀県有田に向かった。磁器ダイヤルを完成させるための高いハードル、そして難題を突破せんと繰り返された試行錯誤の末、ほのかに青白く輝く新プレザージュは誕生する。それは陶工たちによる飽くなき挑戦と、セイコーという時計メーカーのプライドの結晶だった。
■機能性を重視した多針モデル
セイコー プレザージュ
有田焼ダイヤルモデル
SARW049
20万円
なめらかな表情を持つダイヤルは、窪んだ部分にカレンダーとパワーリザーブ表示機能を持ち、一体成型で作られている。12 時方向のインデックスのみ国産初の腕時計「ローレル」を意識した赤を配色。自動巻き。ケース径40.6㎜。10 気圧防水。SSケース。クロコダイルストラップ。
■新素材の開発に成功したのが有田焼ダイヤル実現へのカギ
開発が始まったのは2015年9月。それから約4年間の歳月をかけて作り上げられたセイコー プレザージュ「有田焼モデル」は、1830年に創業された老舗の窯元「しん窯」と、佐賀県の研究開発施設「窯業技術センター」による共同作業のもと、ついに実現に至った。
しん窯の専務取締役・伝統工芸士の橋口博之氏は、セイコーから有田焼ダイヤルの依頼を受けたときの気持ちをこう話す。
「世界的な時計ブランド・セイコー プレザージュの顔として、文字板に有田焼磁器が生かせるならば、後世に残る焼き物を創るという弊社の理念と合致するだろうと。そして、佐賀県には『佐賀県窯業技術センター』という先見性のある公設機関がある。常に先進的な挑戦を続け、400年の歴史と伝統を維持している。民と官がチームとなってメイドインジャパンの新モデルに挑戦する気概があれば、必ず実現できると確信しました」(橋口氏)
しかし、その道程は決して平坦ではなかった。腕時計のダイヤルという、磁器に比べて小さく薄いものを高精度で量産した経験はなく、ダイヤルほどのサイズの磁器を焼き上げれば、歪みやひび割れの原因になってしまうのだ。
「開発から約1年。たまたま、先ほど話した同センターが従来の4~5倍の強度を持つ強化磁器用の陶土の開発に成功したんです」(橋口氏)
この素材が生まれたことにより、最初のハードルはクリアされた。
■職人とメーカーのプライドが革新的な挑戦を成功へ導く!
有田焼ダイヤルができるまでの大きな流れは、まず新開発の陶土を準備し、水を混ぜた泥漿(しょう)と呼ばれる液体を調合。鋳込み成形するためのタンクに流し込み、型へと注入していく。乾燥させたのち、型から取り出し、ダイヤルとしての精度を高めるためバリ取りを行い、焼き固める「締焼き」工程へと移る。この焼成では、どうしても陶器が収縮し歪みも出るため、均一にするための工夫が必要だった。
「どうしてもダイヤルが反ったり、割れたりすることもあり、少しでも歪みが出ないやり方を見つけるまでが大変でした」(橋口氏)
最初に素焼きをして、収縮率を数ミクロン単位で操る。これはもはや神業といっても過言ではない作業だ。そのカギは温度コントロールで、計3回の焼成を経て出来上がる。その間に行われる「施釉」という有田焼ならではの色を出すための塗装にも、職人技が生きている。
「初期の有田焼に用いられていた柞灰(いすばい)釉の淡く青みがかった白を再現するため、スプレーガンを使い均一に釉薬を塗布します。この作業は熟練の職人による手作業で行われ、塗られた表面は傷や歪みを見つけるためにも一役買っています」(橋口氏)
橋口氏はそう語るが、この釉薬を塗った状態で再度焼成することにより、含まれるガラス成分が溶けて有田焼ならではの美しい淡い青みが現れる。この塗布→乾燥という作業は、必ずひとりの職人によってスピーディに行われるというから驚きだ。こうして、あらゆる工程で高い精度を実現しようとしたため、実は予定よりも工期が伸びてしまった。
「セイコーさんは辛抱強く、『よりよいものを作るためなら』とおっしゃってくださり、一緒になって有田焼ダイヤル実現への情熱を注いでくれました。このスクラムが成り立ったからこそ、作り上げられたダイヤルなのです」(橋口氏)
時を越えて出会ったそれぞれの挑戦こそ後世に残る銘品の証となるのだろう。
■シンプルな中にも凛とした顔立ちが光る3針モデル
セイコー プレザージュ
有田焼ダイヤルモデル
SARX061
18万円
先に紹介した「SARW049」に比べてシンプルな3針モデル(カレンダー表示あり)。しかし、ダイヤルが薄い分、よりデリケートな製造工程が求められた。自動巻き。ケース径40.5 ㎜。10 気圧防水。SSケース。クロコダイルストラップ。
■インデックスに「初代モデル」を採用
■有田焼ダイヤル製造工程
<材料準備>
時計ダイヤルに求められる強度を実現できる素材を開発。まず強化磁器の陶土に水を加え泥漿(しょう)をつくる。適切な粘性を保つために水分量をコントロールしている。
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<材料調合>
作られた泥漿(しょう)は攪拌するための機械に入れられる。この後、気泡を抜く作業に。材料の適切な調合量と同じく、仕上がりを左右する最初の重要なステップだ。
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<鋳込み成形>
ブロックから削り出された、ダイヤル用の「型」が用意されており、精度を保つために、使用制限回数が決められている。ひとつの型で一度に16枚をつくることができる。
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<型へ流し込み>
撹拌された材料を、この型に流し込むことで充填させる。均等に流れるよう、材料の流動性バランスを重視。左上の穴から各部に次々と流れ込んでいく。
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<乾燥>
型に流れた材料は、石膏が泥漿(しょう)から水分を自然と吸うことで、乾燥していく。さらに取り上げられるようになったら、続いて自然乾燥させ次の工程へ移る。
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<バリ取り>
乾燥の工程が終われば、精度を上げるために「バリ取り」と呼ばれる作業へと移行する。真円を得るため、ダイヤルの縁や表面を丁寧にこすり、仕上げていく。
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<締焼き>
一度に約500 枚近く焼き上げられる電気窯を使い、1300℃の高温で焼き固める。中の温度をムラなく一定に保つため、置く場所や温度の上げ方で熱量をコントロールしている。
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<施釉>
施釉を複数回に分けてすることで、有田焼ならではの柞灰(いすばい)釉という色味が現れる。スプレーガンを使い、塗布→乾燥をひとりの職人が流れ作業的に行う。
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<釉焼成>
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<仕上げ焼き>
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<寸法・外観検査>
2度目の焼成後、マシンによる寸法検査を終えると、レーザーによって針穴を空け、1000℃で仕上げ焼きに。最後は、職人の手による入念なチェックを経て完成へと至る。
(取材・文/三宅隆<&GP> 写真/江藤義典)