Suunto(スント)と言えば、北欧発のスポーツウォッチブランドとして定番ですが、CES 2020に合わせて発表された「Suunto 7」は同ブランドで初めて「Wear OS by Google」を採用したスマートウォッチとなりました。なぜこのタイミングでWear OS搭載モデルを展開するのか、同社のデジタルデザイナーに取材しました。
■スントの歴史と「Suunto 7」の位置付け
そもそもスントは1936年にフィンランドで誕生したブランド。「Suunto(スーント)」という言葉はフィンランド語の「方向」に由来していて、元々はコンパスに由縁のある企業です。アウトドア愛好家のトーマス・ヴォホロネンが溶液を充填したコンパスの大量生産方法を確立したことに端を発しています。
その後、液体充填コンパスが水中でも水圧に負けずに使えると分かり、同社はマリンスポーツやダイビング機材のマーケットで存在感を強めていきます。そして1965年にはダイビングコンパスを発表。1987年にはダイブコンピューターで世界トップシェアを獲得します。
アウトドア向けの腕時計や、高度計、気圧計などを作るようになったのは、その後のこと。こうした歴史を背景に、過酷な環境でも使える製品が人気を得ました。
同社のGPSウォッチは、バッテリー持ちが長く、複数のスポーツに対応するアスリート向けのラインナップが印象的です。例えば、2018年に発売されたハイエンドの「Suunto 9」シリーズなどがこれに相当します。
一方で、都市部で暮らす人に向けて、フィットネスを計測したりライフログを残したりするために使うカジュアルなGPSウォッチもラインナップしてきました。例えば、2019年に発売された「Suunto 5」は、コンパクトなケースサイズにデザインされ、アクティビティだけでなく、日々のストレスレベルや睡眠の質なども計測できます。
そして、今回発表されたのが「Suunto 7」です。アスリート向けの「Sunnto 9」と日々の使用を想定した「Sunnto 5」の中間に位置する製品になります。ここで初めてWear OSを導入してきたわけです。
■新製品がWear OSを搭載した目的は?
同社のデジタルデザイナーであるMIIKO AHLSTRÖM氏は、Suunto 7の開発意図について、以下ように説明してくれました。
「市場にはスポーツ関連の機能を備えたスマートウォッチが多く存在しますが、本気でスポーツをしようと思ったときに、それが十分だとは言えませんでした。『Suunto 7』で目指したのは、スントが持つスポーツの専門知識と、Googleが提供する日常的な機能を組み合わせるということ。適切なスポーツを腕時計に呼び出せるという意味で、最初のスマートウォッチになるのではと考えています」
「Suunto 7」では、ランニングやサイクリングだけでなく、スキーやサーフィンなど70種類以上のエクササイズを計測可能。さらに「Suunto」アプリを使うことで、詳細な分析が行えます。
また、オフラインアウトドアマップを表示でき、スマートフォンを携帯していない場合でも、道順を確認できることも売りのひとつ。位置情報に基づき、周辺の地図を自動でダウンロード可能で、15種類のアクティビティに関しては「ヒートマップ」機能も備わり、ランニングなら多くの人が走っているオススメのルートを表示できます。
MIIKO氏によると「『Suunto 7』のソフトウェアを開発している間に、200人くらいのアスリートに使い続けてもらい、毎週フィードバックをもらってデザインの改良を重ねました」とのこと。
競合メーカーにも、マップが使えるスマートウォッチは他にも存在しますが、ただマップが使えるだけではなく、アウトドア利用におけるユーザー体験を上手くアプリに統合できた点が「Suunto 7」ならではの強みです。
■なぜWear OSモデルを今年出すのか?
バッテリーの持ちは、GPSを有効にした状態で連続12時間まで。GPSを使わずにスマートウォッチとして利用すれば、2日間使えます。さすがにGPSありで120時間使える「Suunto 9」などと比べると見劣りしてしまいますが、日常使用や一般的なワークアウトで使う分には、十分なレベル。
なお「Sunnto 7」では、少しでも省電力性を高めるために、プロセッサーの活用で工夫しているとのこと。
「チップセットには、Snapdragon Wear 3100を使用しており、その低電力機能のひとつとしてコプロセッサーを利用できます。私たちはそのコプロセッサーに、スポーツエンジンとアルゴリズムのコードを組み込みました。本格的に運動を開始した場合には、完全なアプリケーションプロセッサに切り替わりますが、コンテナが何も実行していない場合には、メインプロセッサをシャットダウンし、コプロセッサでエクササイズの分析や記録を行い続けます。これはこれまで競合他社がやってこなかったことだと思います」
なぜ今のタイミングでWear OSを使ったのか——という疑問の答えについても、こうした点が大きく影響していそうです。
「以前はこのような時計を作ることはできませんでしたが、品質や低消費電力の最適化により、Wear OSを活用するのに適切な時期だと判断しました。Wear OSは私たちにとっても良いプラットフォームです。特に2019年の進化は大きかったですし、今後も進化すると信じています」
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「Suunto 7」は、Wear OS by Googleを搭載することで、従来のスントのウォッチとは異なる印象になりました。市場においては後発になりますが、スポーツウォッチとスマートウォッチの両方の良いところを統合したことで、確かにスントらしさを活かしたユニークな製品に仕上がっている印象です。
発売日は1月31日を予定。都市部でカジュアルに暮らしつつ、アウトドアも楽しみたいような人は、チェックしするのをお忘れなく。
>> 「Suunto 7」
(取材・文/井上 晃)