オフロードに強いモデルを多数取りそろえる自動車ブランド・ジープ。そのエントリーモデル「レネゲード」のラインナップに、先頃、PHEV(プラグインハイブリッドカー)の「レネゲード4xe」が追加された。
前回、横浜の市街地をドライブしての印象をお伝えしたが、ジープのメインステージといえばやはりアウトドア。そこで今回は、レネゲード4xeにソロキャンプの道具を積み込んで、東京近郊のオートキャンプ場を目指した。
■ジープ史上最高の燃費データをマーク
圧倒的な悪路走破性や、本物感のあるブランド力を武器に、アメリカ本国はもちろん、ここ日本でも好調なセールスを続けるジープ。レネゲードは、そんな同ブランドのエントリーモデルであり、ジープの中で最もコンパクトなSUVだ。
そのラインナップに先頃追加されたPHEV仕様・レネゲード4xeで注目すべきは、心臓部となるプラグインハイブリッドシステム。1.3リッター4気筒ターボエンジンを中心に、外部からの給電が可能なリチウムイオンバッテリーと、それによって駆動するモーターをフロントとリアに配置している。
レネゲード4xeには、上質な仕立ての「リミテッド4xe」と、タフな見た目と優れた走破性を兼備する「トレイルホーク 4xe」という2グレードが用意されるが、双方のエンジンはチューニングレベルの違いにより、前者が131馬力、後者は179馬力を発生する。そこにプラスされる前後モーターは、フロント側がエンジンをアシストする一方、定格出力60馬力/最高出力128馬力のリア側は、モーター作動時に駆動力を発生させると同時に、減速時やアクセルオフ時の回生ブレーキ用としても機能する。
ちなみにレネゲード4xeの駆動方式は、リアタイヤをモーターだけで駆動させる電気式4WDで、前後輪を結ぶプロペラシャフトは存在しない。
こうしたプラグインハイブリッドシステムの恩恵により、レネゲード4xeはモーターだけで最長48kmの走行が可能。結果、カタログ記載のWLTCモード燃費は、リミテッド4xeで17.3km/L、トレイルホーク 4xeで16.0km/Lという、ジープ史上最高の燃費データをマークする。
ちなみに、レネゲード4xeとベースモデルとの見た目の違いは、左のリアフェンダーに外部からの充電口が備わること、PHEVであることを示す“4xe”のエンブレムが付くこと、そして、「JEEP」や「Renegade」といったレターロゴ部にブルーのアクセントラインが加わる程度と控えめだ。しかし、それぞれのオーナーどうしにとっては、明確な識別点といえるかもしれない。
■モーターだけでの最高速度は130km/h!
そんなレネゲード4xeで、良く晴れた秋の日、東京郊外のオートキャンプ場を目指した。
まず、キャンプ道具を積み込もうとして驚いたのが、ラゲッジスペースの使い勝手の良さだ。PHEVは走行用バッテリーを搭載する影響で、時折、荷室空間が犠牲になっているモデルが見受けられる。だが、レネゲード4xeは走行用バッテリーをリアシート下を含むアンダーフロア全体に収めることで、荷室フロアが極端に高くなる問題をクリア。よくよく見ると、ベースモデルより若干、荷室フロアが高くなっているものの、その差はごくわずかだ。そのためリアシートの背もたれを倒すことなく、いつもの道具を積み込むことができた。
ちなみに今回試乗したトレイルホーク 4xeは、荷室フロア下にフルサイズのスペアタイヤを搭載するためスペースに限りがあるが、リミテッド4xeではフロア下に広いスペースが確保されていて、荷室フロアの高さを2段階に変えられたり、フロアボード下に小物を収納できたりと、より積載能力に優れている。
道具を積み終えたところで、早速、目的地を目指すとする。レネゲード4xeには、状況に応じてモーターとエンジンとを効率良くミックスさせながら走る「HYBRID」、エンジンが一切掛からず、バッテリー充電量がなくなると自動でHYBRIDモードに移行する「ELECTRIC」、バッテリー充電量を減らさないように走りつつ、条件が許せばモーター走行も行う「E-SAVE」という、3つのドライブモードが用意されている。HYBRIDモードでも積極的にモーターだけで走ろうとするのが印象的で、自宅周辺での街乗りでは、モーター駆動ならではの滑らかな乗り味が際立っていた。
バッテリー残量が十分であれば、HYBRIDモードでもエンジンがなかなか始動せず、アクセルペダルを踏んでもモーターだけでスーッと走り始め、滑らかにスピードが乗っていく。しかも、その状態が結構長続きするのがレネゲード4xeの驚くべきところ。エンジンを始動させようと、故意にアクセルペダルを深く踏み込んだりしなければ、モーターだけで粘り続けようとする。
それは高速道路に入っても同様で、スピードが100km/hに達しようというのにモーターだけで走っていく。ちなみにスペックシートによると、モーターだけでの最高速度は130km/hというから、こうした振る舞いも納得だ。
とはいえ、このままでは目的地までバッテリーが持たない恐れも。そこで、E-SAVEモードに切り替えて、バッテリー消費量を抑えながら目的地を目指すことにする。E-SAVEモードは、エンジンを回して駆動力を得ながら、同時に走行用バッテリーにも充電していく仕組み。
エンジンが回るため、モーター走行時のような滑らかさは少々薄れるが、ノイジーだとか振動が気になるといったネガは一切ない。バッテリー消費はほとんどないし、それどころか、目的地直前にあったワインディングの急な下り坂では、ブレーキを掛けるたびに回生ブレーキが作動し、逆に充電量が増えていったのが興味深い。
■モーターだけで走ると大自然の奏でる音が鮮明に
2時間弱のドライブを経て、目的地に到着。ここからは、レネゲード4xeの走行モードをELECTRICに切り替え、モーターだけで場内を進むことにする。
アウトドアをモーターだけで走行していると、当然のことだがエンジン音は聞こえない。そのため、タイヤが路面を踏みしめていく音とともに、川のせせらぎや野鳥の鳴き声、風でなびく木や葉っぱが擦れる音などがいつも以上に鮮明に聞こえ、より自然と一体になれた気がした。PHEVは燃費がいい、というのはもちろん知っているが、このように大自然との一体感を味わえるところも、ピュアガソリン車にはない大きな美点といえるだろう。
ちなみにレネゲード4xeは、モーターのみで走る場合は後輪駆動となるが、整備の行き届いたオートキャンプ場のレベルでは、一切の不安なく移動できる。万一、リアモーターだけでクリアできないシーンに遭遇しても、心配は無用。今回試乗したトレイルホーク 4xeには、路面状況に合わせて最適な駆動力を発生させるトラクションコントロールシステム“セレクテレインシステム”に、「MAD&SAND」や「ROCK」、4WDの「LOCKモード」や「LOWモード」といったオフロード向けモードがしっかり用意されているから安心だ。
アウトドアでリフレッシュした後、家路を目指す。バッテリーにまだ少し余裕があったので、再びHYBRIDモードへ。セレクテレインシステムも、スロットルレスポンスとステアリングフィールがシャープになる「SPORT」モードを選択してみた。トレイルホーク 4xeは、エンジンとモーターを合わせると239馬力とかなり強力で、ワインディングロードでも軽快に駆け抜けていく。また、高速道路での本線への合流も全く苦にならないし、追い越しもラクにこなせるから、疲れたカラダでも運転はストレスフリーだ。
今回、レネゲード4xeでアウトドアへと出掛けてみて、自然の素晴らしさを改めて実感するとともに、クルマの新たな魅力に触れられた気がする。道中、バッテリー残量などに合わせて走行モードを切り替えたり、自然への影響を考慮してELECTRICモードを選んだりといった行為をわずらわしいと感じる向きもあるだろう。しかしレネゲード4xeは、その分、昨今薄れつつある“クルマを操っている感覚”が濃密で、ドライビングという行為自体がいつも以上に楽しく感じられた。“電気仕掛け”のジープは、多彩な可能性を秘めたモデルといえそうだ。
<SPECIFICATIONS>
☆トレイルホーク4xe
ボディサイズ:L4255×W1805×H1725mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD(電気式4WDシステム)
エンジン:1331cc 直列4気筒 SOHC ターボ+モーター
トランスミッション:6速AT
エンジン最高出力:179馬力/5750回転
エンジン最大トルク:27.5kgf-m/1850回転
フロントモーター定格出力:20馬力
フロントモーター最高出力:45馬力
フロントモーター最大トルク:5.4kgf-m
リアモーター定格出力:60馬力
リアモーター最高出力:128馬力
リアモーター最大トルク:25.5kgf-m
価格:503万円
(文&写真/上村浩紀<アップ・ヴィレッジ>)