最近、「VR(Virtual Reality:仮想現実)」に対する注目が高まっている。米Oculusの「Oculus Rift」が2016年3月に発売されたのを始め、他メーカーからもゲーム機の登場が予定されている。Oculusは以前からVRに対応するゴーグルを発売しているが、いよいよ2016年が「VR元年」になりそうな雰囲気だ。
今すぐ楽しめるVRとして、サムスン電子ジャパンが2015年12月に発売した「Gear VR」(実勢価格1万4800円前後)をご存じだろうか。スマートフォン「Galaxy S6 | S6 edge」と、5月19日に発売される「Galaxy S7 edge」を装着するだけでVRを楽しめるというもの。他のVR機器がPCやゲーム機と接続して使う必要があるが、「Gear VR」は単体で動作するのが大きな特徴となっている。Galaxyユーザーであればかなり手軽に使えそうだ。ではその使い勝手や没入感はどうなのか、試してみることにしよう。
拍子抜けするほどシンプルな作りで、装着も簡単
早速、Gear VRにGalaxy S6 | S6 edgeを装着して使ってみることにしよう。Gear VRの作りはとてもシンプルで、重さは約318gと軽い。装着するGalaxy S6(重さ約138g)もしくはGalaxy S6 edge(同約132〜133g、キャリアによって異なる)の分だけ重くなるのだが、Gear VR自体はかなり軽く感じる。
本体右側面には十字ボタンのような形をしたタッチ対応操作インターフェースを搭載しており、ジャイロセンサーや加速度センサー、近接センサーも内蔵しているとのことだ。
まずはGalaxy S6 edge(今回はこちらを使用した)をGear VRに装着する。Gear VRを正面から見て左側に接続端子部分があるので、それを手前に起こしてGalaxyのマイクロUSB端子に接続し、右側もはめ込めば最初の準備が完了する。
ここからセットアップに移る。Gear VRに装着するとGear VRのセットアップモードになるので、画面の指示の通りにセットアップを進めていく。
必要なアプリのセットアップが終了したら、いよいよ再度Gear VRに装着する。先ほどはセットアップのための“前哨戦”といった趣だったが、今回こそが“本番”だ。
ホーム画面の時点で没入感がすごい!
Gear VRはサムスン電子とOculusが共同開発したもので、200以上のタイトルがそろう「Oculus Store」から無料・有料の多彩なコンテンツをダウンロードできるようになっている。
まずはGear VRを装着して、Oculus Storeをのぞいてみることにしよう。
Gear VRを装着すると、暗い部屋の中に「Oculus Home」の大スクリーンが表示される。頭を左に動かすとスクリーンは右側に見え、右に動かすと左側に見える。要するに頭をどのように動かしても、スクリーンは微動だにしないように感じられる。もちろん、それこそがVRなのだが。こういうと何だが、ゴーグルにGalaxyを装着しただけのシンプルな作りの割には、本格的なVRゴーグルに仕上がっているという印象を受ける。
初回はホーム画面の使い方を一から教えてくれるチュートリアルが起動する。十字ボタンのようになっている右側のタッチパッドや上部のバックボタンの使い方を丁寧に教えてくれる。十字ボタンのように見えるのだが、上下左右にスライドするとスクロールできるなど、直感的にはなかなか見つけ出しにくい使い方を逐一説明してくれるので、迷わずにすむ。
ホーム画面から「Store」を選ぶとアプリやゲームなど数多くのコンテンツが一覧表示される。コンテンツは無料のものもあれば有料のものもある。まず試したいのが、Netflixの定額制動画配信サービス「Netflix」や、Webブラウザー「Samsung Internet」あたりだろう。
映画を“山荘の大スクリーン”で見られるのは楽しい
Netflixを開くと、まるでお金持ちが所有する別荘のような、アメリカンな山荘の大きなリビングルームが現れる。前方には150インチほどはありそうな大スクリーンが広がり、その手前には雑誌などが置かれたテーブルがある。自分は赤いソファーに座っており、見回すと右にはロフト、左にはロッキー山脈のような壮大な山々が大きな窓の外に一望できる。これだけで気分はアゲアゲ↑↑だ。
筆者はNetflixのサービスに登録していなかったのだが、Gear VRから問題なく登録を進められた。頭を上下左右に動かしながらカーソルをバーチャルキーボードに合わせて名前やメールアドレス、クレジットカード番号を入力していく。テレビやBDレコーダーなどのリモコンを使ってVOD(ビデオ・オンデマンド)サービスの登録を進めていくのに比べて、驚くほど楽に進められる。
Netflixを視聴するのなら、Bluetoothヘッドホンもぜひ一緒にオススメしたい。Bluetoothヘッドホンを装着した瞬間、ロッキー山脈を見渡せる山荘にこもって好きな映画を堪能できる、アーリーリタイアの“金持ち父さん”になった気分になれる。人気ドラマの「グリー」など、音楽をテーマにした映画などは特に魅力的だ。
ひとつ気になった点というか、注意したい点は、「寝転がって見るスタイルではない」ということ。Netflixを起動すると……というかGear VRを起動すると、その位置がホームポジションになって、起動した位置の前にスクリーンが表示される。寝転がって起動しても真上にスクリーンが表示されるわけではなく、起き上がった目の前にあるといえば理解してもらえるだろうか。足を北、頭を南にして寝転がって起動した場合、北の方にスクリーンが表示されるという寸法だ。完全に横になって視聴するというより、ソファーなどにもたれて視聴するという感じをイメージしてもらえるといい。
“ジュラ紀”も“シルク”も味わえる
『Jurassic World : Apatosaurus』なども圧巻だ。起動すると目の前にはアパトサウルス(巨大な草食恐竜)が寝そべっているだけで、プレーヤーは動き回ることはできない。しかししばらくするとアパトサウルスが目を覚まし、長い首をしならせて顔を自分の眼前まで寄せてくる。上を見上げるとプテラノドンが飛翔する様子が見られるなど、動き回ることはできなくても没入感がすごい。素早く顔を近づけてくるような仕草のときには、思わず声を上げてしまうような迫力を感じた。
テレビで楽しめる3D映像の場合、どうしても“書き割り”感が出てしまうのだが、Gear VRで見る3D映像は全くそういう不自然さを感じさせない。3Dテレビはスクリーンが固定されているため、頭をほとんど動かせないということも要因としてあるのかもしれない。
『Cirque du Soleil's Zarkana』もVRらしいコンテンツになっている。起動するとシルク・ド・ソレイユのキャストたちが自分の左右に陣取り始める。自分は客席の最前列よりもさらに前、というよりステージの最も手前にいるようだ。キャストたちが見守るなか、前方から男性2人が登場し、天井からぶら下がったロープを使ったアクロバットを繰り広げる。横にいるキャストが「ワーオ」みたいな声を上げるのを聞きつつ、前を向いたり真上を向いたりと、忙しく頭を動かしながら演技を観るのに没頭してしまう。
映画館で映画を観ているのであれば、ちょっと前過ぎて首も疲れるし全体も見渡せない、外れの席かもしれない。しかしシルク・ド・ソレイユの演技を観られるのであれば特等席中の特等席という感じがする。
「Samsung Internet」経由でYouTube動画などを楽しめる
Gear VRを入手したら、必ずインストールしておきたいのがWebブラウザアプリの
「Samsung Internet」だ。映画やドラマを楽しみたいのであれば「Netflix」が必須だが、それ以外のVR動画などを無料で手軽に楽しみたい場合、ブラウザ経由でアクセスする必要がある。
Samsung Internetを開くと、FacebookやInstagramのほか、YouTubeなどにもアクセスできる。YouTubeには360°VR対応の動画もアップされているので、こちらもぜひチェックしたい。
YouTubeを起動してから、キーワードに「VR Video」などと入力するとVR動画を検索できる。動画の再生をスタートしたときには2Dモードになっているので、スクリーン左上にある「モード」から「360 2D」を選ぶとVRモードに変更できる。
コンテンツは遊園地のジェットコースター、スカイダイビング、スキージャンプなどの映像のほか、ホラー系の映像も充実している。下着の女性が歩き回る映像も悪くないが、ホラー映像の没入感と、背筋が寒くなるようなイヤ〜な雰囲気は絶品だった。
Galaxyユーザーなら買って損なし!
一点だけ気になったのは、しばらくGear VRを楽しんでいると熱を持ってしまい、Galaxyの本体が冷めるまで使えなくなってしまう点だ。Netflixの視聴では問題なかったが、3D映像の世界に入り込めるようなコンテンツの場合は映像処理の負担が大きいこともあり、しばらく観ていると熱くなりやすいように思えた。ただしVRコンテンツ自体、長時間視聴すると目に負担をかけやすいので、熱によるアラートメッセージが出たときには一端休憩するくらいの気持ちでいるといいかもしれない。
それよりも、やはりVRを身近に、とても手軽に、しかもどこでも楽しめるメリットの方が大きいように感じた。何しろ頭に装着するだけで、ワイヤレスでVRの世界を味わえるのだから、その魅力はすごい。実勢価格も1万4800円前後と決して高くはない。「Galaxy S6 | S6 edge」ユーザーはもちろん、5月19日に発売される「Galaxy S7 edge」には必須のアイテムとなりそうだ。
(文/安蔵靖志)