アウトドアブームの盛り上がりや災害時の非常用電源として、ここ数年でポータブル電源の注目度が増しています。ポータブル電源というのは、簡単に言うと「AC/DC、USB出力などを搭載した大型バッテリー」といった類の機器。
そんなポータブル電源に、5100Whという驚異的な容量を誇るモデルが登場します。それがパワーオークの「BLUETTI EP500」です。
高さは76cm、重さも76kgとさすがにポータブルとは言えないサイズ感ですが、この手の電源としては珍しく本体に大型キャスターが付いていて、女性でもラクに動かせます。
とはいえここまでの大容量、そもそも使いみちがピンとこないという人も多いかもしれません。でも実は、ビジネス用途としてはもちろん一般家庭にだって1台あれば間違いなく活躍してくれるモノなんです。
そんな「BLUETTI EP500」は、そもそもどういうモノなのか。そしてどのような活用法があるのか。家電ジャーナリスト・安蔵靖志さんに解説してもらいました。
安蔵靖志|IT・家電ジャーナリスト 一般財団法人家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー、スマートマスター。AllAbout家電ガイド。ITや家電に関する記事執筆のほか、家電の専門家としてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。
■そもそもポータブル電源とは
一般的なポータブルバッテリーとポータブル電源の違いは、その出力にあります。ポータブルバッテリーはUSB出力しか持ちませんが、ポータブル電源はAC(交流)/DC(直流)出力を搭載することで、外出先でUSB給電が可能な機器(スマートフォンやタブレット、小型家電、一部のパソコンなど)だけでなく、ACコンセントに挿して使う普通の家電製品、車載用機器まで使えるのが特徴となっています。
ポータブル電源とひと口に言っても、定格出力(安定して供給できる出力)100~200Wクラスの小出力モデルから1000Wを超える大出力モデルまでタイプはさまざま。定格出力が大きくて容量の大きいモデルほど、アウトドアから非常用まで幅広く活用できます。
そんなポータブル電源に、新たに登場した注目の製品。それが非常用電源としても使えるパワーオークの「BLUETTI EP500」です。
■停電時に機器を守るUPS(無停電電源装置)として使える
「BLUETTI EP500」の大きな特徴が、UPS(無停電電源装置)としても使える点にあります。UPSとは、停電など電源障害が発生した際にパソコンやサーバーといった機器に内蔵バッテリーから電力を供給することで、電源を停止することなく機器を動かし続けられる機器のことを指します。
元々電源障害時に不具合が生じやすいサーバーなどのIT機器、これを不意の電源切断から守り業務の継続もしくは安全にシャットダウンするための時間を稼いでくれるというものです。バッテリーとAC出力を搭載するという点はポータブル電源と同じですが、通常時と停電時で電源供給方法が切り替わるのが大きな特徴となっています。
「BLUETTI EP500」は4つのAC出力を搭載しており、それらに家電や情報機器などを接続します。そして「BLUETTI EP500」本体をAC電源(コンセント)に接続しUPSモードをオンにすると、「BLUETTI EP500」の内蔵バッテリーが満充電でない場合は内蔵バッテリーを充電すると同時に、コンセントからの電気を「BLUETTI EP500」の4つのACコンセントにスルー出力する。この場合の定格出力は1500Wになります。
そして停電時。コンセントから「BLUETTI EP500」への電源供給がなくなると、瞬時に本体内バッテリーから4つのACコンセントへの電源出力がスタートします。この場合の定格出力は2000Wとなります。
■リビング・ダイニングで生活をサポート
UPSは元々、不意の電源切断に弱いハードディスクを搭載するサーバーやパソコンなどのIT機器を故障やデータ破損から守る機器という位置付けでした。しかし、災害時の非常用電源として考えても魅力的です。
例えば地震などの災害で停電が発生した場合、最も困るのが冷蔵庫です。「BLUETTI EP500」に冷蔵庫や電子レンジなどを接続しておけば、停電時でも冷蔵庫内の食品をしばらく冷蔵・冷凍し続けることができ、冷凍食品を温めて食べたりしながら過ごせます。「BLUETTI EP500」のバッテリー容量は5100Wh(約160万mAh)とかなりの大容量なので、定格出力100Wの機器なら丸2日使えます。451L~500Lの冷蔵庫の消費電力は30W(1時間あたりの消費電力量は30Wh)程度なので、冷蔵庫だけなら1週間程度は維持できる計算になります。
もちろんデスクスタンドなど照明器具も使えます。LED電球なら1個8W程度なので、3灯タイプならリビング全体をしっかりと照らしつつ、24W程度で済む計算です。
また「BLUETTI EP500」は大きなキャスターが付いている点も見逃せません。大容量電源はどうしても大きく重くなってしまいますが、これなら自宅内で移動させつ非常用電源として活用し、必要となったら避難所などに持っていくといった使い方もできます。また、ソーラーパネルを利用しての充電も可能なので、太陽光充電も駆使すればさらに長時間、非常用電源として活用できます。
■DIY(日曜大工)にも活躍
日常的な用途としては、庭やガレージなど電源のない場所でのDIY(日曜大工)にも活躍できますね。電動ドライバー(400~800W)や電動ドリル(400~800W)などはバッテリー対応製品もあるが、木工用丸ノコ(1000~1450W)などの大きな電力が必要な機器も「BLUETTI EP500」なら使えます。
1450Wの大出力でもたっぷり3時間以上作業できるのは、大容量の「BLUETTI EP500」ならではです。そのほか、高圧洗浄機(1000~1400W)を使って自動車やバイク、自転車などを洗うなど、さまざまな使い方が可能です。
■イベントや移動販売車などの商用利用も
5100Whもの大容量バッテリーを積んでいると、用途もかなり広がってきます。例えばイベント会場の出店や移動販売車、キッチンカーなどで用いられる発電機の代替用途もそのひとつです。
燃料にガソリンを用いる発電機は、ガソリンさえ用意すれば長時間の利用が可能ですが、エンジンを用いる発電機は騒音が生じるだけでなく、排気ガスが発生してしまいます。ガソリンの管理も大変なため、安全上の問題で発電機を使用禁止にする場所があるのも現状です。しかしバッテリーを用いるポータブル電源なら、こうした問題は一切ありません。
1000~2000Wh程度のバッテリーだと、最大出力が1000Wを超えることもある調理家電を使った場合、1~2時間程度でバッテリー切れになってしまいます。しかし5100Whなら1000Whフル出力で5時間以上ももちます。例えばIHクッキングヒーター(最大1000~1400W)、電子レンジ(最大500~1000W)、電気ケトル(最大800~1200W)などを組み合わせて使うことも可能です。
出店中にソーラーパネルで充電すればさらに使用可能時間が延びるので、複数の機器を使って調理したり、調理家電以外の家電を接続したり、さまざまな活用法が考えられますね。
■家庭の書斎だけでなくオフィス用途も
本来のUPSの役割としては、家庭内では書斎が最もフィットする場所かもしれません。例えばデスクトップPCと液晶ディスプレイ、ネットワークファイルサーバーなどを接続しておけば、不意の停電にも電源オフになることがないため、安全にパソコンやサーバーをシャットダウンするか、しばらく業務を継続するかを選択できます。
オフィスでの利用にも最適です。停電してもしばらく業務を続けられるだけでなく、機器を安全にシャットダウンし、その後は持ち出してポータブル電源として活用できます。
上部にはUSB-A端子×4のほか、一部のパソコンなどに給電できる最大100WのUSB-C PD(Power Delivery)出力、最大15Wのワイヤレス充電パッド(Qi対応)も2基搭載しており、さまざまな機器に一度に給電できます。オフィスにひとつあれば緊急事態時に活躍してくれそうです。
■非常用の備え、災害時の用途、それ以外の利用法のバランスが重要
ポータブル電源を選ぶ上で重要になるのは、日常的な非常用の備えと、災害時にどれだけ使えるかだけでなく、アウトドアやDIYなどの週末の利用方法のバランスです。
東日本大震災から10年ということもあり、非常用電源としてのポータブル電源が注目されています。災害大国の日本においては非常用の備えはかなり重要なので、災害時に持ち出して電気を使えるだけでなく、冷蔵庫などの日々の生活に不可欠な機器を停電から守ることで生活の一部を持続させられるのは大きな魅力となります。
また、電気代の安い深夜帯に充電しておいて、日中は「BLUETTI EP500」に蓄電した電気を利用するといった使い方も考えられます。これは驚異的なバッテリー容量だからこそです。さらにソーラーパネルから充電できるのは、停電や被災期間が長引いた時の保険として安心感は大きい。
たしかにサイズの大きい「BLUETTI EP500」は、毎週末に気軽に持ち運んで使うといった用途としてはハードルが高いかもしませんが、普段は生活の安心・安全を守る存在として、ときにはアウトドアレジャーやDIYといった屋外で電化製品を使いたい場合の電源として、そして災害時には安心してさまざまな家電を使える電源として、幅広く活躍してくれることは間違いありません。
<文/安蔵靖志 イラスト/栗生ゑゐこ 写真/松山勇樹 構成/&GP編集部>