某日、&GPの記者と編集者の2人がパナソニックの発表会に招待されました。何やら今回は先端技術系媒体や経済誌が主な対象で、発表内容は来てからのお楽しみとのこと…。言わずと知れた総合家電メーカーですから、どんな製品がリリースされるのか期待に胸を膨らませて会場へ向かいました。
到着するやいなや、待ち受けていたのは見たことのない素材や技術の展示、そして&GP “文系” スタッフ2人が初めて耳にする専門用語の数々…。そう、今回はB to B関連事業の発表会。編集長の人選ミスか!?と思いましたが、解説を聞けば文系2人にも身近で、驚きと発見を与えてくれる最先端技術だったのです。
では、ホビーやキャンプを得意とする、ちょっと門外漢な2人を夢中にさせた先端技術の魅力をレポートしましょう。日本の未来、楽しく便利になりそうですよ。
■DIYやキャンプ、模型趣味でも使えそうな「糸」?
案内された会場は近未来の研究所を思わせる広くクリーンなショールーム。といっても、一般に公開されていないスペースで、企業向け最新技術がずらりと展示されています。文系チームの理解を超えるテクノロジーが並ぶなか、最初に驚かされたのが「タングステン極細線」「超高強度タングステン線」という技術のブース。なんとコレ、目に見えないほどの細さなのに、ピアノ線にも勝る強度とのこと。
す、すごい…、のだけど用途の想像もつかないのでタングステン線の技術について質問してみることに。答えてくれたのはパナソニック ライフソリューションズ社のライティング事業部 光源・デバイスビジネスユニット長の坂本敏浩さん。
&GP「このタングステン線、ほぼ見えないレベルの細さですけど、どんな技術なんでしょうか」
坂本さん「タングステン線は身近なところだと白熱電球の発光する部分であるフィラメントに使用されています。金属の中で最も融点が高いので、高温下での使用に適しています。弾性率も鉄系の素材よりはるかに大きく、力が掛かっても変形が小さいという特徴もあるんですよ」
&GP「白熱電球のフィラメントで、強い金属というコトはなんとなく分かりました。そもそも白熱電球も最近では見かけなくなりつつありますが、それが先端技術というのもピンと来ないんですが…。電球以外に用途ってあるんですか?」
坂本さん「あります、あります(笑)。身近なところでは『耐切創手袋』でしょうか。これは建設現場や工場など、鋭利な刃物を扱う作業で手指を切ってしまわないようにする手袋です。
耐切創手袋には、髪の毛より細い、線径20ミクロン(1ミクロン=1/1000ミリ)のタングステン線が編み込まれています。細さ・強さに加えて、しなやかさも兼ね備えているので繊維とともに織り込めます。
タングステン線の仕様は8ミクロン~13ミクロンの極細線から、35ミクロンの超高強度線までいくつかありますが、細さと強度を両立するには特別な技術が必要です」
&GP「おお、ホントだ! かなり本気でカッターを前後させても大丈夫ですね。コレ、仕事用はもちろん、柔軟性もあるので日曜大工やガーデニング、模型作りでも使えそうです」
坂本さん「そういう使い方もできそうですね。工具関連の通販サイトなどでも入手できますよ」
カッターの刃が触れているのに切れない感覚はなんとも不思議。この極細で高強度なタングステン線がメッシュ状に編まれ、ソーラーパネルの電極スクリーン印刷にも使用されているとのこと。
さらに、超高強度タングステン線は半導体のシリコンウェハをインゴット(塊)から切り出すワイヤソー(切断機)のワイヤに用いられているそう。70年近く前から電球用としてタングステン線(フィラメント)の研究や開発を重ねてきたノウハウが、21世紀にカタチを変えて生かされていることにもちょっと感動です。
&GP「いやあ、これだけ細くて強度があると、触れてないのにモノが宙に浮く手品とか、次世代の釣り糸とかにも使えそうですね!」
坂本さん「可能性はありますね…笑」
■気分はルパン三世!? 3次元空間の検知可能なTOFカメラって?
しょっぱなのタングステン線で緊張もほぐれた&GPチームですが、今回の目玉は「TOFカメラ」とのこと。お馴染みLUMIXじゃないの?と思いましたが、こちらもコンシューマー向け製品ではなく、“距離を測るカメラ”とのこと。でもコレ、どうやら今注目のテクノロジーらしいのです。
&GP「なんだかコンデジとか、ドラレコのように見えますが…。不勉強ですいません、そもそもTOFカメラって何ですか?」
坂本さん「TOFとはTime Of Flight、つまり光の飛行時間を計測することで、被写体との距離を測定するカメラを指します。新開発の『NC2』は低コスト化とコンパクト化を実現したほか、汎用の通信規格を採用しているので外部機器との接続も容易です」
&GP「写真ではなくて、物体との距離を測るカメラという感じですね。仕組みは写真とか映像用と違うんですか?」
坂本さん「仕組みは大きく違いますね。TOFカメラは、カメラから照射した赤外光が対象物に反射して戻るまでの時間で距離を測ります。これにはカメラ用ストロボで培った “光を均一に照射する技術” が重要です。また、写真用カメラのように“光を集めてピントを合わせるためのレンズ設計技術”も欠かせません。このふたつの主要技術を保有していることが、大きく役立っています」
&GP「でも、距離を測るカメラってどんな用途があるのかちょっピンとこないんですが。あ、カメラだからピントとピンとを掛けたわけじゃないですよ(笑)」
坂本さん「(…無視して)現時点での用途としては、人の動きを認識することで、セキュリティ用途や、医療や福祉施設での見守り用途に活用できます。また、モノの大きさや位置を把握できるので、工場や倉庫でのコンベア用ピッキングロボットにも使えます。色も認識可能ですから赤く熟したトマトを見つけて、その位置を正確に認識してロボットアームで収穫したり、無人搬送車(AGV)や自律走行搬送ロボット(AMR)の眼としても使ったりと、実にさまざまな応用が考えられます」
&GP「なるほど! なんとなく使い道が見えてきました。とはいえ、そういう技術って以前からあったと思うんですが」
坂本さん「距離を測定したり、エリアを検知する技術は数多くありました。しかし、3次元の目に見えないバーチャル空間への物体侵入を検知しようとすると、一般的なセンサーでは複数が必要になりますし、専用のソフトウェアを開発する必要もありました。新型のエリア検知ユニットを搭載したTOFカメラでは、1台で3次元空間の検知が可能、かつ感知エリアの変更も簡単です。また、ソフトウェアも搭載しているので、導入の手間がグッと削減できます。実際に体験できるように、テスト用の空間を作ってみました」
&GP「おっ、これは面白い。この空中にある立方体のなかに手を入れるとしっかり検知しますね。これ1台のTOFカメラだけで検知してるってスゴいですね。なんか、お宝を盗むルパン三世…、いやルパン三世が捕まった気分です(笑)」
■TOFカメラがサポートする未来の生活
B to B事業や先端技術というと、私たちの生活には無縁と感じてしまいますが、こうして見ると想像より身近な存在なのかもしれません。また、お話を伺っていると、TOFカメラは各種生活インフラへの組み込みにより、日々の暮らしをサポートしてくれそうな気がします。
&GP「トマトの収穫といった用途を聞くと、身近な存在に感じますが、他にも応用できそうな分野や機械ってあるんでしょうか」
坂本さん「いずれもソフトウェア開発が必要ですが、スーパーマーケットでの人の行動を把握することでマーケティング分析に活用したり、人数カウントを行うことで店舗内の座席の空き状況が確認できたり、人のジェスチャーを認識して家電を操作する、といったことにも活用できます。
スマート家電やスマートハウスの実現や普及にも役立つでしょう。また、従来の2眼式3Dカメラに比べるとコンパクトですし、新型では手のひらに収まるほどですから、用途はさらに広がると思います」
&GP「なるほど。工場での人と機械の接触による事故防止などにも使えそうですし、ヴァーチャルリアリティなどと組み合わせたエンタメ系でも活躍しそうですね。これはワクワクが止まらないテクノロジーじゃないですか」
■パナソニック100余年の歴史とノウハウが生きるB to B事業
1918年、松下電気器具製作所として創業したパナソニック。今日では生活家電やAV機器、住宅設備まで手掛ける大手家電メーカーとして知られています。一方、今回の発表会はグループ内に新設された「光源・デバイスビジネスユニット」によるもの。照明事業で培ったユニークな技術を、新たなB to Bデバイスに応用展開しています。
タングステン線やTOFカメラのほか、紫外線を照射することで植物病害を防除してイチゴを健康に育てる蛍光灯など、知られざるユニークな製品の数々も展示されました。
家電イメージが強い同社ゆえ、当初は「こんなモノも作ってるの!?」という印象もありましたが、じっくり観察すると長年培ってきた“光”や“モノ作り”に関するノウハウを活用して、未来に向けた事業を展開していることが分かります。
日常生活で触れることは少ない製品たちですが、こうした先端技術は私たちの生活を側面からも支えてくれそうだ、と感じた発表会でした。
>> Panasonic(もっと詳しく知りたい方はこちらへ)
<取材・文/村田尚之 写真/利根川秀幸、metamorworks(PIXTA)、alexlmx(PIXTA)>