「最近の若者って本当に腕時計をしないんだな」
久しぶりに会う父から、そんなことを言われた。国産はもちろん、海外の名作リストウオッチも“着こなして”きた父にとって、どうも「男が身に着けられる数少ないアクセサリー」をコーデ出来ない息子が歯がゆいらしい。
そこで、「古い音楽や家具が好きなお前ならコイツが気に入るはず」と勧めてくれたのが、シチズンの「RECORD LABEL(レコードレーベル)」。思えばその一言が、ミッドセンチュリー好きな自分が腕時計にハマるきっかけだった。
■そもそも「RECORD LABEL(レコードレーベル)」って何?
音楽なら国内外のロックやジャズ、ダンスミュージックまで大好物の雑食派だけど、一番しっくりくるのは60〜70年代のサウンド。とくに好きなのはアナログ盤で、なぜなら音質はもちろん、目で見て楽しめるジャケットのアートワークも素敵だから。
家具はミッドセンチュリーのテイスト。身の回りをいわゆるレトロなアイテムに囲まれることで、心がより自由になれる気がするんだ。
「CITIZEN COLLECTION RECORD LABEL」は、シチズンの多彩な個性を記録(Record)し続ける「インディーズスピリットを持ったウオッチ」を目指しているのだとか。
父によるとレコードレーベルはラインナップが多彩なので、カルチャー感度が高めな生活シーンにも自然と溶け込む時計コーデができるらしい。
■ファースト・シチズンはレトロモダンな「ANA-DIGI TEMP」
そんなわけで一週間前、父からレコメンドされた「レコードレーベル」の時計たちを眺めに時計店まで出かけてみた。なるほど、どのモデルもレトロでスタイリッシュ。しかもプライスはアンダー3万円とお手頃。さすが親父殿、息子の趣味も懐具合もお見通しってわけだ。
家に連れて帰ることにしたのは、スクエアなゴールドのケースにクロノグラフやカレンダー、デュアルタイムなどの機能を詰め込んだ「ANA-DIGI TEMP」。アナログ成分とデジタルを融合させた“アナデジ”ってやつ。
ドリップコーヒーとホットサンドが美味いお気に入りのカフェで、ブランチしながらゆっくり時計のディテールを眺めることにした。
コンビネーションウオッチの先駆け的な存在らしく、時刻のほか、カレンダー、アラーム、クロノグラフ、デュアルタイムをコンパクトなフェイスで一望できるデザインは、発売から40年近く経ったいまも、見る者に大きなインパクトを与えてくれる。
友達にも自慢したいので、スケボーを持っていつもの遊び場へGo! ファッションやカルチャーに高感度な人間ほど「その時計どこのブランド?」って聞いてくるので、してやったりな気分になる。
時代が一周りして未来すら感じさせるデザイン。初めて時計をつけた時のワクワク感を思い出させてくれる「ANA-DIGI TEMP」。大人だからこそ成り立つ佇まいは、デート使いでも楽しそうだ。
■成熟した男として着こなしたい3針モデル「CITIZEN C7」
そして今日、もう一本のレコードレーベルを手に入れてしまった。しかも人生で初めての機械式だ。
社会人になってはや5年以上。腕時計を付ける習慣はなかったけど、アナデジにハマったせいで「やっぱりフォーマルな腕時計も必要だよね」と思っていた矢先に、3針のシンプルなフェイスと、ステンレススチール製のメッシュベルトの佇まいにヤラれてしまったのだ。
さっそく父に自慢したら「おお! 国内で初めてクリスタルガラスを採用し1960年代に発売された、『クリスタルセブン』をリスペクトしたモデルじゃないか」と濃いめのウンチクが返ってきた。
なんでも当時、日付・曜日表示付き男性用腕時計として世界最薄モデルだったのだそう。何そのカッコいいストーリー。もっと教えて! さすが100年を超えるレコード(歴史)を刻んできたシチズン。伝説的エピソードを引き継ぐモデルと知って惚れ直した。
大きなコマではなく、細いワイヤを編み込んだブレスレットもお気に入りポイント。
若い頃には網目模様って「ちょいエロで色気ありすぎ」なんて思っていた。でも、自分の腕に乗せた瞬間、いい具合のこなれ感と吸い付くような肌触りに一目惚れ。「これいいじゃん」って思わずつぶやいた。
フィット感は高くても、メッシュ構造で通気性は高いので、汗ばむ季節になっても快適さはそのままなのもポイント高いよね。
極めてシンプルなデザインだけど、デイト表示の窓のデザインにニュアンスを持たせるなど、シチズンらしさの主張もチラリ。
仕事のある平日は、シャワーを浴びてタイを結び、この「CITIZEN C7」を腕に付けてからコーヒーをゆっくり落とすのがモーニングルーティンになった。
機械式ムーブメントのパワーリザーブは約40時間。適度な重量感が心地よく、しっかり時を刻んでくれる。居住まいを正した時計を身に付けると、時間のことをより深く考えるようになり、仕事へのモチベーションも湧いてくるから不思議だ。
尊敬する職場の上司からは「最近仕事にメリハリがついてきた」なんて褒められた。よく見ているなぁ。
■往年の時計ファンをもざわつかせる伝説的名機の復活
レコードレーベルを身に着けてから、父と時計の話で盛り上がるようになった。そんな父も自分に刺激されたせいか、「『TSUNO CHRONO』(ツノクロノ)が気になっている」のだそう。
「TSUNO CHRONO」は、その名の通りケース上部のプッシュボタンが動物の角(ツノ)のように見えることからついたニックネームで、初代が発表された1970年代にはブームを起こしたとのこと。誕生日にサプライズプレゼントしてもいいかも。
じつは自分も、次に買うモデルを「Eco-Drive PROTO」に決めている。研究開発がスタートして半世紀以上となる光発電システムの「エコ・ドライブ」を搭載したモデルで、1974年に発表されたデザインスタディ用のプロトタイプを、最新技術でアップデートしたもの。
シチズンに残されていた当時の手書き図面をもとに、最新のエコ・ドライブ技術を搭載しているという。所有欲を高めてくれる由緒正しきストーリーは、長い歴史を誇るシチズンならでは。
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時間を知る方法は様々。レコードレーベルの時計を腕に着けたいと思ったのは、懐かしいデザインだけれど、決して時代遅れではないから。
どのモデルも個性的だけど、シチズンのデザインリソースと遊び心が緩やかに同居して、現代でも通用するデザインには破綻がない。ドレッシーからカジュアル、レトロまで、レーベル独自のグルーヴ感が統一されているのってすごいことだよね。
>> CITIZEN COLLECTION RECORD LABEL
(文/杉山元洋 写真/下城英悟 スタイリスト/宇田川雄一)