提供:シチズン
世界最大規模のeコマース企業・Amazon.com, Inc.のCEOジェフ・ベゾス、そして日本でも起業家の前澤友作氏が宇宙に飛び立ったのは記憶に新しいのではないでしょうか。民間人が宇宙を気軽に旅する時代を迎えようとする昨今、宇宙事業の歴史は常に技術革新の繰り返しでもありました。
同じく、今年35周年を迎えるシチズンの技術力を結集した「ATTESA(アテッサ)」も、革新的な技術の探求を常に続けてきました。“チタニウム”は、1960年初頭、人類初の月への有人宇宙飛行計画として「アポロ計画」の宇宙船に採用された経緯もある新素材。そんなチタニウムを軸としたアイコニックなモデルが、これまでアテッサから数多く誕生してきたのです。
そこでアテッサの軌跡を紐解くため、さまざまな方にお話を伺いつつ誕生ヒストリーと、いま再び注目されつつある宇宙事業との関係性を探っていきます。
■1987年――人にやさしいチタニウムウオッチ初代「アテッサ」完成!
昭和62年、あと少しで平成に切り替わるタイミング。バブル景気が始まりマドンナやマイケル・ジャクソンが来日したり、ビックリマンシールが大ブームになったりと活気にあふれた時代でした。
当時、腕時計といえば外出先で時間を知るための必需品であり、時刻がわかるという以上の付加価値をつけるため各社が切磋琢磨しており、その中にあってメタルアレルギーを起こしにくい“チタニウム”を素材に誕生したのが「アテッサ」ファーストモデルです。
ステンレス素材が時計の主流だった1987年当時、経済的に大きな盛り上りをみせていた日本で、“軽くて、錆びにくく、肌に優しい時計を作ろう”というコンセプトに基づき、ユーザーや時計業界に革新的な価値をもたらしたと話してくれるのが、シチズン商品企画を担当する杵鞭さん。
「発売当時はチタニウム製の時計は多くなく、現在では当たり前のように言われている“肌に優しい”などは、先人の社員がアテッサを展開している中で、病院での臨床試験を経て解明されてきた事実です。そういった意味でも、現在は当たり前にチタニウム製の時計が世に出回っていることを見ても、腕時計の在り方自体にも一石を投じてきたブランドではないかと思います」と、アテッサの持つ先見性を熱く話してくれました。
そもそも1960年代には、アポロ計画の宇宙船にチタニウムを素材として使用。1970年に誕生したシチズンの「X-8(エックスエイト) クロノメーター」は、ケースに“純度99.6%チタニウム”を採用した、すでに世界初のチタニウム外装を持つ時計として産声を上げていたという経緯があります。
■2000年――チタンって柔らかい?問題を解決する「デュラテクト」技術とは
「これらアテッサに使われてきたチタニウムは柔らかく、当初は型打ちという製造方法でしか加工出来ず、全体的に丸みを帯びたスタイルがメインでした」
そう話すのは、チーフデザインマネージャー井塚崇吏さん。
当初は研磨加工も上手くできず、真鍮材を使用し別部品として鏡面仕上げを表現していました。しかし、チタンの加工精度を向上させる為に材料面、加工器具の改良開発を続け、切削加工を可能にしたことで形状表現の幅が向上したそうです。
「今ではステンレス材と同程度に加工出来るまでになりました。結果デザインする際の制約は、ほぼなくなったと言えます」(井塚さん)
さらに、無垢のチタニウムは指紋が付くと取れなくなってしまうため、表面を保護する技術もアテッサ誕生当初から開発されていました。それは表面をガラスで覆うGMC(GlassMulti-layerCoating)に始まり、2000年にはシチズン独自の表面硬化技術「デュラテクト」が登場。軽く、堅牢で人にやさしく傷がつきにくい時計が完成します。
■2019年――「スーパーチタニウム™ 」で本当に宇宙事業へ参加!
そしてシチズンのチタニウム加工技術と、表面加工技術のデュラテクトが合わさることにより、チタニウムは「スーパーチタニウム™」へと進化。ステンレスの5倍以上の表面硬度を持ちながら、軽量かつ傷にも強い特性を活かし、なんと本当に宇宙事業へと参入することが決まったのです。
シチズンは、日本発の宇宙スタートアップ企業ispaceと、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のコーポレートパートナー契約を締結。腕時計のために作られた「スーパーチタニウム™」の技術を提供することで、宇宙へと飛び立とうとしています。
そこで、株式会社ispace Founder & CEOの袴田武史さんにお話を聞きました。
「世界初のロボット月面探査レース『Google Lunar XPRIZE』に、ispaceの運営するチーム『HAKUTO』が出場する際、『HAKUTO』のサポーティングカンパニーになっていただいたのが、シチズン様とのお付き合いのはじまりです。
その後、民間開発の月着陸船および月面探査車による“月面着陸”と“月面探査”の2つのミッションを行うプログラム『HAKUTO-R』が立ち上がり、軽くて強度のある『スーパーチタニウム™』は月着陸船の素材として活用できそうだということで打ち合わせを重ねた結果、コーポレートパートナー契約が実現しました。
双方の開発者が協同するかたちで、ランダー(月着陸船)フライトモデルへ『スーパーチタニウム™』を活かした部品が実装されたのです」(袴田さん)
実際、「スーパーチタニウム™」はランダーの着陸脚部の回転軸および連結部分に使用されるとのこと。表面硬度と軽さが採用の理由である上、摩擦が少ないなめらかな素材であることも重要だと袴田さんは言います。
「ランダーは、着陸時には折りたたまれていた着陸脚部が展開します。その時に、問題なく展開するためには出来るだけ摩擦の少ない素材が必要でした。その点においてもシチズンのデュラテクトDLCを施した『スーパーチタニウム™』は必要な要件を満たしていました」とのことで、いかに相性が良かったかが伺えます。
■2022年――時代が求める機能を備え、さらなる飛躍を
また、シチズンにおいて「HAKUTO-R」部品開発に関わる、表面処理開発課 伊藤智さんは、
「普段はダミー作りから量産品といった流れで、同じ物を同じ品質で作ることを念頭に仕事をしているのですが、『HAKUTO-R』では完全に1点物の製作となりました。そのため、失敗の許されない非常に緊張感ある仕事でしたし、いよいよ“ミッション1”の実現も近いと聞き、私たちの加工した部品が宇宙、そして月に到達していくことを非常に楽しみにしています」と、開発にかける並々ならぬ想いを話してくれました。
そして最後に前述の袴田さんにシチズンとの協業についてたずねたところ、
「時計と宇宙機は全く違うものですが、いずれも精巧に作られています。時計はエンジニアリングの完成形のようなもので、それが長年どんどん洗練されていき、美しい形になっていると思います。
今後は、宇宙機でもエンジニアリングに美しさがより求められてくるのではないでしょうか。将来的にはスター・ウォーズなどの映画に出てくるような格好いい宇宙船が飛び交う世界であってほしいし、我々もエンジニアリングを通じて近づいていくことができたらいいですね」とデザインの未来について話してくれました。
たしかに“カッコいい”は誰が見ても受け入れやすいし、そこに機能性が加われば完璧。アテッサ35周年モデルとして新たに登場した「『シチズン アテッサ』ACT Line エコ・ドライブ電波時計 ダイレクトフライト 日産フェアレディZ コラボレーションモデル」(16万5000円)も、シチズンの技術力を結集した光発電・電波受信・デュラテクトDLCを備え、スーパーチタニウム™製のケースとバンドを採用した究極の一本です。
そこで、高校生のころに初めてアテッサに触れたという、時計ジャーナリストの篠田哲生さんにも新製品の魅力とシチズンの印象をうかがいました。
時計ジャーナリスト・篠田哲生
篠田哲生|男性誌の編集者を経て独立。コンプリケーションウォッチからカジュアルモデルまで、多彩なジャンルに造詣が深く、専門誌からファッション誌まで幅広い媒体で執筆。時計学校を修了した実践派でもあり、時計関連の講演も行う。
「当時、友人がアテッサを所有しており、つけさせてもらいましたが、チタニウム素材の軽さに驚きました。それ以来、アテッサ=チタニウムで軽いという印象のメーカーです。最近は、新技術を積極的に取り入れていますよね。CITIZENという名前が示す通り、市民のための時計を作ってきただけあって、エコ・ドライブも電波時計もスーパーチタニウム™も、実用性を強く意識した技術であり、そこは評価したい。
また本機のように車とのコラボレーションは、時計界における常套手段。だからこそ、世界観を深く共鳴させることが求められる。このモデルの場合は、印象的なカラーリングがポイント。ブラックの中で目を引くタキメーターリングのイエローはまさにクルマのイカズチイエローそのもの。カラーリングで遊ぶのは昨今の時計のトレンドですが、そこを“Z”とうまく融合させています。これはいい感じですね」
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月面ビジネス、自動車ブランドとのコラボレーションなど、さまざまなチャレンジを続けるシチズンの技術力が詰まったアテッサブランドは、今後も時代の求める機能を実現しながら進化していくでしょう。
※シチズンお客様時計相談室 0120 78 4807
>> シチズン「アテッサ」
<取材・文/三宅隆(&GP) 写真/江藤義典、シチズン時計提供>