富士スピードウェイの敷地内でスバル「レヴォーグ 1.6STI Sport EyeSight」を受け取って、細い上り坂を行く。
ところどころ、継ぎを当てたような粗い舗装。それなりに凸凹があるのですが、レヴォーグ STI Sportのステアリングホイールを握っていて「オオッ!」と感動しました。実にスムーズじゃありませんか!
もちろん、相応に情報は伝わってきますが、サスペンションが精細に仕事をして、細かい入力の角をキレイに丸めてくれる。レヴォーグ STI Sportのアシが小さな突起を滑らかにいなしていく様は、ちょっと古臭い表現になりますが、まるでビロードをなぞるよう。
といっても、単にソフトな、安楽指向の足まわりでないことは、少し速度を上げてコーナリングしてみると分かります。穏やかにロールしながら、しかし腰くだけになることがない。絶妙なセッティングです。
その上、日常的な速度域で走っていても、ステアリングを切るたびに「ん? オレ、運転、うまくなった!?」と錯覚します。新しいレヴォーグが、思いどおりのラインを描いてくれるから。ステアリングフィールもすっきりしていて、爽快。“STI”という単語からは意外に思われるかもしれませんが、とても「品のいい走り」ですね。
■STIの技術とノウハウを走りの質感向上に注いだ
レヴォーグ STI Sportはその名のとおり、スバルと、STIことスバルテクニカインターナショナルとのコラボレーションで生み出されたモデル。スバルのモータースポーツ活動を請け負うSTIから“走り”のエンジニアが参加して、量販車種であるレヴォーグの、GTツアラーとしての資質をさらに磨き上げました。
STIといえば、ご存知のように数々のチューニングパーツを開発、市販し、また、同社がまるっと仕上げたコンプリートカーを送り出してきました。STIの名を冠した限定モデルは、“コアなスバリスト”に限らず、世のクルマ好きから高い支持を得ています。メディアが詳細を報じる頃には「すでに売り切れ」となったモデルも珍しくありません。
そんなSTIモデルが、このたび、レヴォーグのいちグレードとして加わることになったのです。エンジン、トランスミッションといったドライブトレーンはそのままに、内外装をスペシャルに仕上げ、足まわりをじっくり煮詰めたモデルです。これで「売り切れ」の不安にさいなまれることなく、じっくり検討できますね!?
ラインナップは、2リッター直噴ターボ(300馬力)を積む2.0STI Sport EyeSightと、ダウンサイジングターボユニットである1.6リッター直噴ターボ(170馬力)を積む1.6STI Sport EyeSight。
スバル自慢のボクサーユニットには、いずれもCVT(2リッターは“スポーツリニアトロニック”、1.6リッターは“リニアトロニック”)が組み合わされます。価格は、394万2000円と348万8400円。それぞれの排気量で、堂々たるトップグレードです。
レヴォーグ STI Sportの面白いところは、いかにもSTIらしい“尖ったスポーティさ”…を封印し、同社が持つノウハウを、いわゆる“質感の向上”に注いだ点です。
そのひとつが、乗り心地の良さ。前:ストラット、後:ダブルウィッシュボーン形式のサスペンションは、もちろん専用チューニングが施され、動的な質感を向上させます。スプリングは、STIのイメージカラーであるチェリーレッドにペイントされ、前後とも、スバルとビルシュタインが共同開発したイエローダンパーがおごられます。特にフロントのそれは、コンフォートバルブを備える“DampMatic Ⅱ”に進化しました。
DampMatic Ⅱは、路面からの細かい入力を、筒内に設けられた小部屋内のピストンを動かすことで吸収。より大きな入力を受けると、筒内のピストンが小部屋の底にあるバイパス経路をふさぎ、メインのダンパー機構が本格的に働いてロール速度をコントロールする仕組み。「硬」「軟」2段階のダンピングを、機械的に切り替えるわけです。凝ったメカニズムですね。
また、ステアリングギヤボックスには、専用の“クランプスティフナー”が与えられ、左右からしっかり固定します。
ステアリング操作に対する応答性がアップするだけでなく、ハードなコーナリングを敢行しても、ステアリングギヤボックス自体の揺れが最小限に抑えられるので、ハンドルを切っていった時に違和感が生じないのです。すっきりとしたステアリングフィールの秘密が、こんなところにありました。
■大人にふさわしい1台だけに安全性も最先端
レヴォーグ STI Sportは、エクステリアも質感高く“大人のイメージ”でまとめています。専用グリル、フォグランプまわりが特別なデザインとなった専用フロントバンパーが装着され、リアビューでは、STIの文字が入ったやや大径のマフラーエンドが、さりげなくSTI Sportであることを主張します。そして足もとは、切削光輝仕様の18インチ“ダークグレー”ホイールで渋めにキメます。
そのままでも品よくスポーティですが「もう少しスパイスを利かせたいな」という向きには、視覚的な相性がパーフェクトなSTIパーツが用意されます。今回の試乗車には、STIフロントアンダースポイラーやSTIリアアンダースポイラーなどが追加装着され、静かにすごみを増していました。
ドアを開けると、チェリーレッド…ではなく、ボルドーカラーの本革内装が待っています。スポーツシートのヘッドレスト、ステアリングホイール、そしてメーター内などにSTIの文字が躍り、全体にボルドー&ブラックのイメージで統一されます。各部の黒革に赤のステッチが走るのも洒落ています。
飽きが来ない、かといって退屈ではなく、落ち着いてロングツーリングに浸れるインテリア。これまでシックでスパルタンな印象の強かったスバル車の内装ですが、レヴォーグ STI Sportの登場によってひと皮剥けた印象です。
安全性の高さも、トップ・オブ・レヴォーグの自慢。“ぶつからないクルマ”として安全技術をリードしているスバルですから、STI Sportにも最新の“アイサイト(ver.3)”が搭載されました。リアビューミラー左右のステレオカメラが、周囲のクルマ、二輪車、歩行者、そして車線(白線)を監視、発進から走行、クルーズコントロール中の安全性を確保してくれます。さらに万一の際には、自動ブレーキを含めて、被害を最小限にとどめる機能を発揮。スバルの調査では、これらによりクルマへの追突事故が約8割も減ったのだとか! すごいですね。
それだけではありません。走行中に死角に入った斜め後方の他車を警告する“スバルリヤビークルディテクション”、夜間走行時にはハイビームを基本として、自動でハイ/ロウを切り替える“ハイビームアシスト”、助手席側ドアミラー下部に内蔵されたカメラでクルマ側方下の様子を確認できる“サイドビューモニター”などを組み合わせた“アドバンスドセイフティパッケージ”も、なんと標準(!)で装備します。安全面でも頼りになるSTI Sportです。
スバルのレヴォーグは、ご存知のように、北米向けに体格がよくなった「レガシィ」に代わり、国内市場でのメイン車種として開発されたクルマです。視界が良く取り回しのいいボディ。ツーリングワゴンとしての高い実用性。高性能な本格4WDシステム。それらの美点は、日本市場に留まらず、欧州、豪州でも高い評価を得ています。
BMWの「M」やアウディの「S line」もいいけれど、モノづくり大国である日本のメーカーのこだわりが詰まったスペシャルグレードに目を向けないのは、もったいない。ロレックスやオメガも素敵だけれど、あえてグランドセイコーを身につける…。そんなアプローチを楽しんでもいいかもしれませんね。
■レヴォーグSTI Sport公式サイトはこちら
■レヴォーグSTI Sport発表イベントの様子はこちら
<SPECIFICATIONS>
☆1.6STI Sport EyeSight
ボディサイズ:L4690×W1780×H1490mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:1599cc 水平対向4気筒 DOHC 直噴ターボ
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
最高出力:170馬力/4800〜5600回転
最大トルク:25.5kgf・m/1800〜4800回転
価格:348万8400円(税込)
(文&写真/ダン・アオキ)