時間を知るためだけならスマホで十分だ、という人は少なくないだろう。しかしながら、腕時計それ自体は衰えるどころか近年ますます盛り上がりを見せている。そこで、あえて問いたい。「なぜ、我々は腕時計が好きなのだろうか」と。
■“1秒”へのあくなき追求。シチズンの電波時計はロマンで溢れている
シチズンの創業は1918年に遡る。前身となる「尚工舎時計研究所」が、1924年に製造した第一号懐中時計に「シチズン(市民)」と名付けたのが由来だ。その後、1956年に国産初の耐震装置付き腕時計「パラショック」を発表。そして、1976年には世界初のアナログ式太陽電池時計「クリストロンソーラーセル」を発表するなど、創業から一貫して使い勝手に優れる新機構の開発に取り組んでいる。
数ある名品を手掛けるシチズンだが、今回とりわけ注目したいのが電波時計。機械やクオーツで知られるムーブメントは、どれほど高水準なモノであっても月に数秒、あるいは年に数秒程度誤差が生じてしまう。しかしながら、シチズンが取り組むのは“10万年に1秒”の世界。もはや「一生ズレない時計」といっても過言ではないだろう。
とはいえ、言うは易し行うは難し。我々は常に完成形だけを手にしているが、そこに行き着くまでにさまざまな困難があったことは想像に難くない。そう、シチズンの電波時計は、ロマンで溢れているのだ。
■世界初“多局受信型”の電波時計を発売したシチズンの歩み
そんなシチズンの電波時計は、2023年でめでたく30周年を迎える。そこで、シチズンがオリジナルPR動画「ピストン西沢の突撃⚡電波RADIO!」を制作。本稿ではそれを元に、メインMCのピストン西沢さん、時計ジャーナリストの篠田哲生さん、そしてシチズンで時計開発を担当している髙田顕斉さんの3人が織りなす、電波時計の深さと面白さを一部ご紹介しよう。
ピストン西沢さん(以下ピストンさん) シチズンの電波時計って、そもそもどういう仕組みなんですか?
髙田顕斉さん(以下髙田さん) 電波時計自体はクオーツ時計と一緒で、月差±15秒くらいのズレがある時計が基本です。そこに、コンピューターを内蔵したアンテナが正しい時刻を受信し、モーターが針を調整する…という仕組みです。
ピストンさん 簡単に言っていただいたんですけど、そんな簡単な話じゃないですよね(笑)
篠田哲生さん(以下篠田さん) こちらは、1993年に発売した世界初の多局受信型の電波時計です。見てください、センターにドカンとアンテナが入ってます!
髙田さん 当時は感度の関係から、どうしてもケースの外にアンテナを出さなきゃいけないことになっていました。どうせ出すなら、中心にドーンとデザインして、電波時計ですっていうのをアピールしようと。
篠田さん このモデル、実は国立科学博物館が選定する、重要科学技術史資料の未来技術遺産に登録されているんですよね。
ピストンさん 今これを持っている人は本当に宝物だと思います。
篠田さん シチズンって数多くの“世界初”があるんですけど、1996年に発売された「光発電エコ・ドライブ」を搭載したコチラもそのひとつです。何を隠そう、髙田さんが開発したモノなんですよ!
ピストンさん えー! ごめんなさい。そんなに偉い人だと思わなかった(笑)
髙田さん いえいえそんなことないです(笑)
篠田さん わずかな光で発電するので、当然時計は止まりません。しかも電波時計だから時間も正確。やっぱり時計がさらに便利になっているというところが非常にエポックメイキングだと思います。さらに、そこに輪をかけて進化したのがこの2003年のフルメタルモデル!
篠田さん 高級時計といえば“フルメタルケース”というイメージがありますので、ここはもう行かなきゃいけない壁だったところですよね。
髙田さん いかにして普通の時計に近づけるかっていうところが最大のポイントでしたね。
篠田さん もちろんこれも世界初です。
ピストンさん 開発されたときに、時計好きや時計業界からの反響はどうでしたか?
髙田さん かなりビックリしていましたね。“してやったり”という感じでした。
篠田さん そもそも、アンテナは金属と非常に相性が悪いというか、感度が下がってしまうんですよね? それをどう克服したのか知りたいですね。
髙田さん フルメタルにするためには、受信の感度も何倍も上げなきゃいけないっていうところがありました。そのため、受信に関わるすべての素材を刷新することで解決しました。
篠田さん ここに電波時計の受信アンテナの変遷というのがあるんですけど、93年のときから比べるとすごく小さくなっているのが分かります。
ピストンさん 2008年のサイズで止まってますが、現行型もこれくらいの大きさなんですか?
髙田さん そうですね。女性モデル向けのアンテナでして、さまざまなサイズの腕時計を選べるような形で開発してきました。このアンテナのお陰で、時計の駆動部分を司るムーブメントは1円玉より小さいサイズを実現しています。
篠田さん シチズンの電波時計は、いろいろな世界初の技術が詰め込まれた集大成なんですね。技術をどんどん積み重ねて、電波時計の技術をブラッシュアップしてきた。で、今に至るということなんですね。
ピストンさん 歴史もさることながら、他のメーカーが見てなかったところを狙ってきている、というのもひとつ興味がありますね。
篠田さん だから今でも、電波時計のリーディングカンパニーとしてシチズンは時計業界で一目置かれている存在なんだと思います。
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シチズン電波時計のこれまでの歩みを、ピストン西沢さん、時計ジャーナリストの篠田さん、そしてシチズンの腕時計開発に携わる髙田さんの3人でお送りしてきた。
なお、本編では普段はなかなか入れない、標準電波を作っているNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)への取材シーンが見られるなど、時計好きにはたまらない内容が盛りだくさん。「なぜ、我々は腕時計が好きなのだろうか」という問いの答えも自ずと分かるはず。
■過去から現在へ。“今買える”珠玉の電波時計
時計ジャーナリストの篠田さんがいうように、シチズンは電波時計のリーディングカンパニーとして、数多くのラインナップを誇っている。ということで、“今買える”おすすめの電波時計を厳選。外出への機運が高まる今、常に正確な時を刻む、頼れる1本を備えてみてはいかがだろうか。
モデル1:精悍かつ洗練された佇まいにグッとくる「AT8185-62E」
多様化するファッションやライフスタイルに合わせやすいデザインが人気の「シチズン アテッサ ACT Line」。メリハリのあるインデックスに、そぎ落とされたケースライン、ワールドタイムの都市表記をベゼル部分に配置することで、力強さとアクティブな印象を纏っている。チタニウムを熱間鍛造(ねっかんたんぞう)する工程で見られる、オレンジ色に発光するチタニウムをイメージした挿し色も実に心地良い。
精度に関しては、“10万年に1秒の誤差”といわれる原子時計をもとにした電波をキャッチし、自動的に時刻やカレンダーを修正。さらに、簡単な操作で現地時刻に合わせられる「ダイレクトフライト」機能を搭載しているので、海外旅行のお供としても最適だ。
素材はステンレスよりも40%軽く、かつ5倍以上の表面硬度を実現するスーパーチタニウムを使用するなど、語りどころ満載の1本に仕上がっている。
モデル2:腕元に馴染む品の良さに惹かれる「AS7150-51L」
“大人のためのドレスウォッチ”をテーマに、高い品質と洗練されたデザインが魅力の「エクシード」。ダークブルー文字板が、品行方正なドレスウオッチに爽やかさをもたらしている。38mmという、過度に主張しない存在は、洋服を上手に引き立ててくれるだろう。それに、ケース厚は6.9mm。電波時計としては薄型に仕上がっており、装着感も上々だ。
また、バンドに使用した素材は、1コマごとに丁寧に磨かれたワンランク上のスーパーチタニウム。細部にもこだわり抜くエクシードは、大人がつけるに相応しい高級感やクラス感を恣にするだろう。まさに、時代に左右されない一生モノが欲しい人にはうってつけの1本だ。
モデル3:あらゆるシーンに対応するハイスペックウオッチ「PMD56-2952」
「シチズン プロマスター」は、1989年に誕生し、過酷な環境下において高い信頼性を誇るプロのためのブランド。中でも、キャンプや釣りといった外遊びにうってつけなのがこちらの「LANDシリーズ」だ。アナログ然とする調和の取れたシンプルなデザインに、デイ&デイト表⽰をあしらうことでいっそうクラシカルな佇まいに。
ちなみに、エコ・ドライブにおいてデイ&デイト表示のあるモデルは珍しく、これまでの2本とはまた違った魅力のある1本に仕上がっている。なお、針とインデックスに夜光を使⽤しているので、暗所での視認性も抜群である点も見逃せない。
日常に寄り添うルックスとタフな機能性を備えた1本は、さまざまなシーンで気兼ねなく連れ出せる相棒となってくれるだろう。
■これまでも、そしてこれからも正確な“時”を刻み続けるシチズンの電波時計
これまでの歴史が物語っているように、シチズンの電波時計は、まさに未来へ受け継がれる腕時計。加速度的に変化する現代においても、その価値や存在感を保ち続けるだろう。時代を超えて愛用できる1本を、ぜひ見つけてほしい。
<取材・文/若澤 創>