圧倒的な深剃りを実現し、さらに肌にも優しいパナソニックのメンズシェーバー「5枚刃ラムダッシュ」。実際に試したことがなければ、“他の電気シェーバーとどこが違うの?” という疑問を持つかもしれない。いったい「5枚刃ラムダッシュ」が持つ “違い” とは何なのだろうか。
そのヒミツを探るべく、製造現場である同社の彦根工場を訪問した。そこには、高性能に秘められた、メイドインジャパンならではのモノ作りへのこだわりがあった。
■清潔感あふれる工場
滋賀県彦根市。琵琶湖のほとりに位置し、国宝・彦根城や、最近はご当地キャラのひこにゃんで有名なこの街にパナソニック彦根工場はある。さまざまな電化製品を手掛けるパナソニックの中でもここ彦根工場では、美容・健康分野の製品を数多く生産している。
敷地に一歩足を踏み入れると、屋内外には規律正しい動線が敷かれ、生産効率の高さが垣間見られる。また人の肌に触れる精密機器を製造する現場として、土足禁止のクリーンなエリアがほとんどというのも好感が持てた。
その彦根工場で作られている「5枚刃ラムダッシュ」の最上位モデルが、2016年9月に発売されたばかりの「ES-LV9B」だ。3種類、合計5枚の外刃を装備し、どんなヒゲも確実にキャッチ、効率良く深剃りしてくれる。ヘッドの3Dアクティブサスペンション、山型形状の外刃とその間に配置されたスムースローラーなどにより、肌との摩擦を抑えながら密着度も高めている。
今回、工場を案内しつつ「ラムダッシュ」に秘められた数々の技術について解説してくれたのは、同社パーソナル商品部の上田さんだ。自ら外刃のパターン設計エンジニアなどを経て、現在は「ラムダッシュ」の技術開発を統括している。
同氏の解説も交えつつの工場見学は、驚きの連続だった。そして、日々あたりまえのように行われている作業の一つひとつに、匠のワザが隠されていた。ではさっそく、圧倒的な性能を生み出す工場を見ていこう。
■外刃 -手作業が実現する刃形状-
まずは、“5枚刃”のキャッチフレーズとなっている外刃だ。この外刃は50tのプレス機で型抜きされている。根元から深剃りできる “フィニッシュ刃”、長いヒゲをキャッチする “クイックスリット刃”、アゴ下などの寝たヒゲを起こす “クセヒゲリフト刃” など、外刃の種類によって金型も異なるという。
「ヘッドの外側から、2枚の “フィニッシュ刃”、同じく2枚の “くせヒゲリフト刃”、1枚の “クイックスリット刃” という配置になります。このシステムにより、一度に多くのヒゲを根元から捉えます。刃の接触面積を大きくすることで肌への負担も軽減しています」(上田さん 以下同)
“くせヒゲリフト刃” の特徴は、寝たヒゲを起こすための “逆テーパー” 形状だ。
「外刃は立体的で複雑な形状をプレスで一体成型しています。たとえば “フィニッシュ刃” なら、60μmの厚刃で内刃が肌に当たらないようにしながら、41μmの薄刃でヒゲを根元にもぐりこんで捉えるというように。そこで、どうしても手作業が必要になるのが “くせヒゲリフト刃” の “逆テーパー” なんですよ」
■外刃チェック -熟練の目が支える品質-
随時、画像による検品をしながら工程が進められるが、最終的なチェックは人の目に頼ることになる。熟練職人の出番だ。
「彼女は1分間に100枚の刃をチェックできます。それも複雑で精密に加工された外刃を、なんです。我が彦根工場が誇る “名工” のひとりですね」
■内刃 -日本刀のような切れ味に-
外刃でキャッチしたヒゲを内刃で剃るというのがメンズシェーバーの仕組みだ。彦根工場内で最大の圧力という200tのプレスにより内刃となるシート材を型抜きし、焼きを入れて鍛造する。
素材は、外刃と同様、日本刀にも使用されるステンレススチール “安来鋼” だ。ニッケル電鋳刃よりも耐久性に優れ、切れ味が長持ちする。その特性をいかんなく発揮できるように設計されている。
「ヒゲは銅線と同じくらいの硬さがあります。それを内刃でスパっとカットする上で、最も効率良く耐久性も備えているのが、30度という刃の角度と0.3μmという刃先エッジのアールなんです」
“安来鋼” という素材だけでなく、焼き入れをして鍛造するのも日本刀と同じ。これこそ、ラムダッシュの切れ味が長持ちする秘訣だ。
■機械ライン -自社設計で高効率と高品質を実現-
匠の技術がふんだんに投入されているとはいえ、工業製品である以上、生産効率の向上は切り離せない。
高精度な画像認識システムを導入したオリジナルの機械ラインを自社で設計している。ヘッドに内蔵されたリニアモーターのユニットなども機械ラインで製造される。
「産業用ロボットなどを導入し、可能な限り効率化をしながら、クオリティも維持しています」
■射出成形 -世界最速モーターを支える心臓部-
ラムダッシュ専用に開発されたリニアモーターのパワーをいかに効率良く内刃に伝えるか。そのために採用されたのが、従来の金属製に代わる樹脂製のモーターユニットだ。軽量小型化と薄型化だけでなく、射出成型の工程では無人化による生産体制も確立している。
「1分間に1万4000ストロークというリニアモーター駆動は、家庭用電気シェーバーにおいて世界最速です」
■最終チェック -最後はもちろん人の目と手で-
生産ラインの最終工程はやはりクオリティチェックだ。実際に電源を入れて検品し、問題がなければ製造年月日やロットが刻印されて出荷される。
「ボディの小さなキズを目視したり、電源を入れてモーターの稼働音を耳で確認したり。もちろん、“3Dアクティブサスペンション”の調子なども手で確認します」
■匠のワザ -これぞニッポンが誇る技術力-
ケミカルな処理で製造されるニッケル電鋳刃と違い、“安来鋼” を使用した外刃の製造には金型が必要になる。それこそ、毛ほどのサイズの約1300もの穴を型抜きするために。金型はもちろんのこと、“エンドミル” と呼ばれる金型加工ツールから自社で製造している。人間ワザとは思えないこれらの工程は、ひとりの熟練工によって成し遂げられている。
「彼も彦根工場が誇る匠のひとりです。1/1000mm単位の誤差まで削って“エンドミル”を作成しているんですよ」
この “エンドミル” で加工した “電極” と呼ばれる金型のもとを転写させ、外刃の金型が完成する。日本刀と同じ鍛造工法による “5枚刃” を実現するためには、ここまでやらなければならないのだ。
■「5枚刃ラムダッシュ」の高性能は彦根から世界へ!
長年に渡り美容・健康分野の製品を作り続けているパナソニック彦根工場。そこには、より良い製品を作り出そうと日々開発を続ける技術者と、そんな技術者が考えだした新たな技術を実現できる腕を持つ熟練工、そして最新の機械があった。
工場敷地内にある「HIKONE KIZUNA館」には、これまでに彦根工場が生み出してきたシェーバーやドライヤーをはじめとする美容・健康製品が展示されている。これらを見ていると、時代時代に在籍した熟練工=匠がその腕をふるい、より良い製品をと奮闘してきた彦根工場の歴史と伝統を感じさせられる。
その伝統が引き継がれ、現在も世界に誇る高性能シェーバー「ラムダッシュ」が作り出されている。まだまだニッポンのワザは捨てたものではない。むしろ世界と伍していくためには、このような匠のワザがいかんなく生かされている彦根工場のような存在が重要になってくるのだろう。
そんなことを考えつつ「5枚刃ラムダッシュ」でヒゲを剃ると、いつものヒゲ剃りもちょっと誇らしげになったのは不思議だ。
(文・加藤亮介 写真・田口陽介)