ザ・ノース・フェイス「ホットショット」復刻モデルが表す90年代“ノース”の空気感

ザ・ノース・フェイスのバックパックと聞いて思い浮かべるものといえば、大きなロゴが印象的な学生に人気の「ヒューズボックス」、ビジネスパーソンに支持されるシンプルで機能的な「シャトルデイパック」、そして忘れてはならないロングセラー「ホットショット」。

「シングルショット」「ビッグショット」のベースモデルである「ホットショット」は、なんと今年30周年。何度かリニューアルが施され、現在のカタチになったのですが、昔のザ・ノース・フェイスを知る世代にとっては懐かしくもあり、そして若きザ・ノース・フェイスファンには新鮮に映るかもしれない初代「ホットショット」が限定で復刻されました。

高校時代の憧れのパックでした。でも近所に売っているところがなくて、電車に乗り継いでわざわざ買いに行ったのがいい思い出です(40代・営業)

初代「ホットショット」が発売された頃のザ・ノース・フェイスは、今のように街でよく見かけるブランドではなく、高機能な登山系ブランドというイメージが強かったですね。だから「ホットショット」を街で見かけた時に、タウンユースもいいなと思ったことが強く印象に残っています(50代・企画)

このように多くの人を魅了し、いま見ても古さを感じさせない初代「ホットショット」ですが、発売されたのは1995年。「社内で当時のモノを探したんですが、なかなか見つからなくて…」と、復刻モデルの開発に携わった東 大輔さんが話すように、やはり30年という時間は長いものがあります。

「作っている段階で、社内から『絶対買います』って声がかなり届いてたんです。しかも年代に関係なく。それだけ今でも色褪せない魅力があるパックだと思います」(東さん)

株式会社ゴールドウイン
ザ・ノース・フェイス事業本部
東 大輔さん
バッグやキャンプギアなどを手掛けるハードグッズ事業部のライフスタイルギアを担当。以前はスポーツ・アウトドア系の大手セレクトショップで長くバイヤーを努めていて、その頃からザ・ノース・フェイスを取り扱っていた。

 

■まったく古さを感じさせない1995年発売の初代「ホットショット」

――初代「ホットショット」を復刻するにあたって当時の設計書や仕様書みたいなものは残っていたんですか?

東さん これがなくてですね。社内のベテランの方々に聞いてみたり、実は弊社の社長が当時企画をやっていて「ホットショット」にも携わっていたので聞いてみたりしたんですが、やっぱり見つからず…。そこでちょっと、あの中古市場を探してみまして(苦笑)。

――見つかりました?

東さん あったんですよ。結構すぐ見つかって。

▲左が中古で入手した発売当時の「ホットショット」。右が今回復刻された30周年記念モデルの「ホットショット」

――当時たくさん売れたからですよね、それって。

東さん そうですね。助かりました。

――復刻させるにあたってなにか意識したことはありますか。

東さん 最初のモデルから何度かモデルチェンジをしていて、2016年に現行モデルになるんですが、これだけ長く販売していると、やっぱり広く浸透していると思うんです。でも現行モデルになるまでに30年の歴史があり、アップデートを繰り返してきたわけで。だから現行モデルもしっかりクロースアップできるようなカタチにしないと、復刻させる意味や意義はないなと。

▲新旧「ホットショット」。左が現行モデルで右が復刻モデル

――となると、ディテールは当時とは少し違ったり?

東さん いや、でもほぼ一緒なんです。ただし、切りっぱなしになっている部分などがどうしても今のザ・ノース・フェイスの基準に合わないので、テープを当てるなど見えない部分でしっかり補強しています。とはいえ、パーツだったりは同じものを使っていたりするんですよね。

――それはすごい!

東さん あとは、入手した当時のモノが時間が経っていることもあり、結構くたびれているので、肌感というか、極力肌触りが同じになるような生地を使うようにしました。それこそ、当時のカタログを引っ張り出してきて確認したり。

▲1990年代「ザ・ノース・フェイス」カタログ

――雰囲気は変えないように、ってことですね。

東さん 結構忠実に再現できたんじゃなかと思っています。色味も、当時ラインナップしていたものにして。

――ちなみに今回、3色(黒、赤、緑)にした理由はあるんですか?

東さん 赤はやっぱりブランドのアイコンカラーということもあり外せない。緑は一番発色が良くてキレイだったのと、当時のカタログにもよく出ていた色だったので。黒はやはり人気だからです。

――当時もやっぱり黒が一番売れたんですか?

東さん いや、当時のカタログってあまり黒がクローズアップされることってなかったんですよ。ジャケットとかもそうなんですが。ザ・ノース・フェイスって昔は本当にカラフルなモノが多くて、赤とか明るい色が人気だったんです。

――たしかに昔は赤とか青というイメージが強かったかも。ちなみに、昔のモノを背負ってみていかがですか?

東さん 意外と使いやすいんですよ。元々は山岳用パックとして作られていまして。実際、「ホットショット」を背負って6000m級の山を登っている写真とかもあるんです。

――そうなんですか!? 正直、そこまでのテクニカルパックだとは思ってませんでした。

東さん 下部のベルトにシュラフやジャケットを挟んで使っていたと思うんです。あとは前面ポケットにボトルや長いものを入れたりとか。これ、現代に置き換えた時にも、やっぱり同じ場所にボトルを入れると思うんですよね。もう片方にはガジェットを入れたり。そう考えるとすごく使い勝手がいい。とくに前面ポケット内の仕切りは今でも理にかなっていますよね。

▲中央に仕切りがある前面収納部

――この仕切りは本当にいいですよね。

東さん そうですね。そして背負い心地が悪くない。今とは違いショルダーハーネスがストレートになっているんですが、ちゃんと体に沿ってくれる。しかも結構厚いじゃないですか。この厚みは最近のバックパックでは使わないんです。でもフィッティングが良い。よく考えられてるなと感じました。

▲曲線で構成されている現行モデルのショルダーハーネスと違い、シンプルなデザイン(右)

――そもそも、この中古で入手したという当時の「ホットショット」、めっちゃ状態いいですね。

東さん そうなんですよ。普通、30年経てば内側とか加水分解しちゃんですが、そうなっておらずすごくキレイ。ただ、色だけはやっぱり少々くたびれた感じがある。だから、復刻モデルも30年経ったらこんな風合いになるというのを想定しながら生地や色を決めました。

――その使い込んだ感って大事ですよね。

▲東さんが手にしている当時のモデルはたしかに使い込まれた風合いだが、それが"味"となっている

東さん そうですね。この手のロングセラーって、本当に好きな人もいるので、そういう人たちにちゃんと評価されたいなとも思ってまして。「全然違うじゃないか」って言われることもあるので。

――ちなみに「ホットショット」が現行モデルに切り替わったのはいつなんですか?

東さん 2016年です。初代は1995年にアメリカ企画で発売され、その後、何度かモデルチェンジが行われていまして。そして2016年に日本企画で現行モデルが発売されました。

――では派生モデルである「ビッグショット」や「シングルショット」はいつから?

東さん 「シングルショット」は日本企画なんですよ。初代「ホットショット」が発売された翌年に「ビッグショット」がリリースされて、この2モデルはアメリカ企画です。そしてしばらく経った2009年に日本企画で「シングルショット」がリリースされました。

▲現行モデル。左から「シングルショット」「ホットショット」「ビッグショット」

――最も小さい「シングルショット」が日本企画なのは、なんとなくわかります。

東さん 初代「ホットショット」自体、ライフスタイルの要素もありましたが、元々は山岳用で、アメリカではやはりハイキングやトレッキングで使われていました。ただ、当時から日本ではライフスタイルで人気があったようです。

――たしかに90年代後半のザ・ノース・フェイスは山のイメージが強かった。

東さん あと時代のトレンド的にハイテクという流れがありました。“95マックス”が話題になったりとか。

――あ~!

東さん ヴィンテージや古着からハイテクな流れになり、それらがミックスしたみたいな時代だったので。いわゆる変革の時代ではありましたよね。

 

■初代と同じパーツも使われている!

――現在のザ・ノース・フェイスはさまざまなバックパックがラインナップしていますが、その中で「ホットショット」というモデルはどういう存在なのでしょうか。

東さん ライフスタイルの中では「ヒューズボックス」と並んで二大看板という感じです。学生さんに人気の「ヒューズボックス」と比べて、「ホットショット」は本当に幅広く、性別も問わず、あらゆる人に使いやすい。さらに高尾山など低山のハイクなら問題なく使える。本当に用途が多岐にわたるモデルです。機能的ですし。

――そんな看板モデルのルーツとなる初代ですが、よく見ていくとすごくシンプルですよね。

▲(左)復刻モデル「ホットショット30th」、(右)現行モデル「ホットショット」

東さん そうなんです。シンプルすぎて逆に特徴がないというか(笑)

――そういえば今のバックパックでは定番のサイドポケットがないですね。

東さん 当時はまだボトルを日常で持ち歩くっていうカルチャーもあまりなかったんじゃないかと思います。ペットボトル自体もまだまだ少なかったですし。

――復刻モデルであることがわかる何かってありますか?

東さん 今回、復刻させるにあたって、記念であることがわかるものをどこかに入れたいなとは思ったんです。最初は外観に入れようかみたいな話もあったんですが、せっかくここまで忠実に再現しているのにもったいないよね、ってなって。最終的には内側に主張しない感じで入れました。

▲メイン収納部背面側には復刻モデルの証である「30 YEARS OF EXPLORATION」がプリントされている

――本当に、ほとんど初代と変わらないガチ復刻モデルなんですね。

東さん バックルなどのパーツも当時と同じものを使っていたりするんですよ。工場にあったんです、同じやつが。僕らも「あるんだ!」ってびっくりしました。

▲初代発売当時と同じバックル

――シンプルだけど機能的。クラシカルだけど古さを感じない。なんだか今の時代にちょうどいい気がします。

東さん そうですね。ちょっとこういうクラシックな雰囲気のものがムード的に欲しいという流れもあり、かつ当時を知っている人には懐かしい。それに女性でも背負って違和感のないサイズでもあるので、ぜひ一度、お店で背負ってみてください。

*  *  *

今回発売された復刻モデル「ホットショット30th」ですが、記念モデルなので、今回限りの発売とのこと。

現在、東京・渋谷のMIYASHITA PARK 1階に期間限定(2025年5月6日まで)で設置されているポップアップストア「THE NORTH FACE RAYARD MIYASHITA PARK POPUP STORE」では、”30 YEARS OF EXPLORATION”(探検の30年)と題し「ホットショット30th」が展示されています。

THE NORTH FACE RAYARD MIYASHITA PARK POPUP STORE
住:東京都渋谷区神宮前6-20 ミヤシタPARK 1F N109区画
電:080-7436-4099
※2025年5月6日まで

30年前に作られたバックパックと何も変わらないのに、いまの時代にも何ら違和感のないデザインを、ぜひその目で確かめてみてはいかがでしょうか。

>> THE NORTH FACE RAYARD MIYASHITA PARK POPUP STORE

>> THE NORTH FACE

<取材・文/円道秀和(&GP) 写真/逢坂 聡>

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