インプレッサとXVがJNCAPの衝突安全性能評価で高得点をマークした大きな理由が、“歩行者保護エアバッグ”の存在。これは、万一、対人事故を起こしてしまった場合に、ぶつけられた歩行者が硬いピラー部に頭を打ち付けてしまわぬよう膨らむエアバッグです。
SUBARUといえば“ぶつからない”を実現するための“EyeSight(アイサイト)“が有名ですが、ぶつかってしまった後のことも、きちんと考えています。それも、乗員を保護するだけでなく、ぶつかってしまった相手に対しても、エアバッグで被害を最小限に抑えようとしているわけです。
続いては、その歩行者保護エアバッグがきちんと作動するかどうかの実験。まずご覧いただくのは、歩行者保護エアバッグが開く際の動画。普段の生活ではなかなか見ることのできないシーンです。
まさに一瞬で開いていることが分かりますね。歩行者を保護するエアバッグは、輸入車ではボルボなども採用していますが、フロントのボンネットを全く開かさずに作動するシステムを構築できているのは、現状ではSUBARUだけとのこと。ボンネットを動かすための機構が不要なため、システムをシンプルにでき、コストも抑えられたそうです。
続いては、エアバッグの上に雪が積もっている状態を再現した実験。雪が載っていたら作動しない、というのでは、意味がないですからね。SUBARUでは、想定されるあらゆる状態でのテストを繰り返しているのだとか。中でも、最も厳しいのは、積もった雪が凍結しているようなシーンとのこと。しかし、そんな状況でも、歩行者保護エアバッグはきちんと作動しました。
エアバッグが作動した瞬間、舞い散るダミーの雪がきれいですね。実際、歩行者保護エアバッグが作動するような状況では、そんな悠長なことはいっていられないと思いますが…。エアバッグが作動するような状況に遭わないのが一番ですが、万一、そんな状況に陥った場合は、きちんと作動してくれなければ困ります。
とはいえ、人に当たった場合はきちんと作動しなければ困りますが、人ではなく、モノに当たった場合にいちいち歩行者保護エアバッグが開いてしまっては、それはそれで困りものです。続いては、ショッピングカートに衝突してしまった場合、歩行者保護エアバッグが“作動しない”ことを確認するためのテストです。
ショッピングカートの中には、水の入ったペットボトルが入れられ、20kg程度の重さにしているとのことでしたが、見事に歩行者保護エアバッグは作動しませんでした。ちなみに、20kgと聞いて「相手が子どもの場合は開かないの?」と思ったのですが、単純に重さだけでなく、重心の位置なども考慮しているそうで、20kg程度の子どもでもしっかり作動するとのこと。さらに、相手が自転車に乗っている場合でも、きちんと作動することを実験で確認しているそうです。
そこまで細かく対象を検知していると聞き「もしかして、EyeSightのカメラを活用しているの?」と思ってしまいましたが、歩行者保護エアバッグの作動とEyeSightは、全く連動していないのだとか。衝撃を検知するのは、バンパー内部にあるシリコン入りのチューブで、それが潰れる際、内部のシリコンがどれだけ押し出されるのかをセンサーで計測しているそうです。ずいぶんシンプルな機構ですが、できるだけコストを抑え、多くの人に導入してもらいたいというのが、EyeSightにも通じるSUBARUの考え方なのです。
最後は、スピードの乗った状態で、水深20cmの水濠に突入するテスト。ゲリラ豪雨などで遭遇する可能性も高いシーンですが、こうしたシーンでも、エアバッグが“作動しない”ことを検証します。
水しぶきを上げて突入する瞬間は、とても迫力がありますね。速度の乗った状態で水濠に突入した際の衝撃は、衝突時に匹敵するほど大きいとのことですが、エアバッグは開きません。
作動すべきところできちんと作動し、そうでないシーンでは開かない…。簡単なことのようですが、その高い精度は、SUBARU技術陣が繰り返す多くの試験と地道な開発によって支えられているのだと、改めて実感しました。でも一番は、やはり、衝突やエアバッグが開くようなシーンにはなるべく遭遇しないこと。間近で衝突実験を目の当たりにし、その思いを改めて強くしました。
(文/増谷茂樹 写真&動画/増谷茂樹、SUBARU)
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