■新たなブランドになることを期待して
塩尻には、メルローの栽培で有名な「桔梗ヶ原」(ききょうがはら)があります。1989年にスロベニアで開催された第35回リュブリャーナ国際ワインコンクールで、「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー1985」が、日本のワインとして初めて大賞金賞を受賞しました。これは日本ワインが国際レベルの高さにあることを知らしめた出来事で、以来、塩尻はメルローの銘醸地となりました。
その「桔梗ヶ原」の北東にある片丘地区が、今回メルシャンが新たなブドウ畑として選んだ場所です。JR塩尻駅から約15分、バスで山の斜面を縫うように進んでいくと、駅周辺では終わりかけの桜が、ここ片丘では満開の状態で迎えてくれました。
メルシャンは片丘地区の北熊井、南内田という2つのエリアに合計9haの土地を確保し、2015年から造成を始めました。2017年度は、北熊井の2ha、南内田の1ha、合計3haに、約9000本の苗木(メルローとカベルネ・フラン)を植えていくといいます。
植樹式が行われたのは北熊井にある畑で、標高800mの西向きのゆるやかな斜面にありました。写真の奥に見えるのは、槍ヶ岳や穂高といった北アルプスの山々です。
畑は耕されて穴が掘られ、苗木を支える棒が1mの等間隔に立てられていました。この棒に寄りかからせるように、ブドウの苗木を植えていきます。
植樹の方法を説明してくれたのは、メルシャンヴィティコール塩尻株式会社の代表取締役、勝野泰明さんです。
畑と同じ高さまで土を盛り、1本につき、3~4リットルの水を注いだら完了です。
これを1本ずつ繰り返します。1日に植えることができるのは、約400本だとか。
植樹の手順を学んだところで、いよいよ関係各社の代表による植樹式です。
「醸造用ブドウ不足を補うため、2年前に新たにブドウ畑を拓くことを決めた。片丘は、見晴らしがよく、風通しがよく、水はけがよく、日照もたっぷり。桔梗ヶ原に続くブランドになることを期待している」と、メルシャン株式会社の代野照幸社長。
その後は、式典に出席された、塩尻ワイン醸造組合長をはじめとした関係者の方々も植樹を行ないました。
植樹を終え、水をかけられた苗木です。細くて、小さくて、頼りない枝切れですが、これが枝や蔓を伸ばし、葉を茂らせ、実を付けていくのですから、不思議なものです。
片丘地区の背後には、標高1660mの高ボッチ山があります。片丘より50m低い場所になる桔梗ヶ原は、梓川の扇状地にあり、盆地特有の底冷えがあります。片丘はゆるやかな傾斜地であるため、冷気が溜まらず、桔梗ヶ原より最低気温が0.2℃高く、最高気温が0.2℃低くなるそうです。
よって、桔梗ヶ原では収穫は10月12~17日頃が例年並みですが、片丘は真夏が涼しいので、収穫は1週間ほど遅くなることを想定しています。
「2014年7月24日、ここに立った時に、ここならうまくいく!と確信しました」と、シャトー・メルシャンの松尾弘則ジェネラルマネージャーは言います。
西に開けた傾斜地で、日照が豊富で、風通しも水はけもいい、ときていますからね。しかも、この周辺にはブドウ畑は元々ないので、ブドウの病気は少ないだろう、ということも非常に良い条件でした。
片丘地区の新ヴィンヤードは、3年計画で9haに植樹を行なっていきます。2017年に植えたブドウは2020年に初収穫を迎えますが、ワイン用のブドウとして使える品質になるのは、2023年頃になります。収穫し、仕込んだブドウがワインとしてリリースされるのは2025年です。今からまだ8年も先とは、ワイン造りは本当に時間がかかります。
片丘地区では、メルローやカベルネ・フランだけでなく、新たな個性を見極めるため、色々な品種を試してみる予定だそうです。特に、標高800m以上の高い場所には、ピノ・グリやゲヴュルツトラミネール等の白ブドウ品種を植えたいのだとか。白品種も楽しみです。
ブドウ畑のすぐ近くは、ちょっとした見晴らし台のようになっていて、こんなパネルが置かれていました。日本アルプスの山々が連なり、眺望の素晴らしい場所でした。
シャトー・メルシャンでは、塩尻南部の平出地区に台木畑の圃場を持っています。台木のバリエーションを増やすため、自分たちに必要な台木を育てていると言っていました。