そんなホンダが、3度目のF1復帰を目指すのでは? と囁かれていた2013年。今度は次世代の技術革新を公約する“アース・ドリームス・テクノロジー”の一環として、直噴ガソリンターボエンジン“VTECターボ”を発表しました。直噴システムや小径のターボチャージャー、デュアルVTCなどを投入することで、低回転域からトルクフル、それでいながらクラスをリードする低燃費を目指したパワーユニットです。
そんなVTECターボこそまさに、新しい「ステップワゴン」の心臓部です。くしくも排気量は“あの時のF1”と同じ、1.5リッター。ちなみに、2014年からレギュレーションが変わり、F1エンジンの排気量は2.4リッターから1.6リッターへとサイズダウン。ターボに加えて、ハイブリッドシステムや熱回生システムまで備えており、文字どおりF1=走る実験場と化しています。
ということもあってか、縦にも横にも開くリアドア“わくわくゲート”にホンダらしさを感じるのと同様、ステップワゴンのターボエンジンにも、ホンダイズムを強く感じるのです。もちろん、乗らないわけにはいきません!
今回試乗したグレードは“スパーダ”。いきなり言っちゃいますと、これターボではありません。いや、確かにターボエンジンなのですが、走りに過給器の存在を意識させないのです。賢いCVTが効率の良いエンジン回転数をキープしてくれることもあり、ターボエンジンであるといわれなければ、誰も気づかないかも、というレベルです。
例えば発進加速。俗にいうターボラグの影響で、アクセルを踏んでも頼りない反応しか返ってこなかった、かつてのターボエンジンとは異なり、VTECターボはすみやかにトルクバンドへ乗っかります。そこからは頼もしい加速がスタート。ホンダが“2.4リッター級のトルク”と謳っているのも納得です。これなら人が大勢乗ってもかったるく感じることはないでしょう。
そして、坂道の途中でアクセルを踏み足し、さらなる加速が欲しいというシーン。ここでも、ワンテンポ遅れるようなことなく、素直に加速がついてきます。ミニバンとはいえ、もたもたして交通の流れを淀ませるような状況を作りたくはないもの。そういうセンシティブなドライバーにも支持されるチカラ強さがあります。
また、ハイウェイをクルージングする時も、ドライバーに高速巡航が苦手といった印象を与えません。シッカリと加速してから追い越し車線へレーンチェンジするのも楽チン。ちなみにシャシーは、重心が低くレーンチェンジの際も安定感があり、元気の良いパワーユニットとの相性も良好です。
こうなると、ターボはもはや“縁の下の力持ち”。出しゃばるシーンは皆無です。かつて、TURBO=ターボという語感にさえ憧れを抱いた時代とは異なり、いい意味で存在感は希薄。かぎりなく自然吸気に近い振る舞いが、最新のターボエンジンのトレンドというわけですね。最新のステップワゴンは、非常に優秀なパワートレインを積んでいます。
ホンダとターボのヒストリーには、時代の変遷を感じます。過去に「カウルを脱いだホンダF1マシン エンジンの全貌が目の前に!」にてご紹介したように、8月31日まで、ホンダコレクションホールではターボをテーマとしたF1企画展「1000馬力 ターボ回顧録」を開催中です。この夏休み、ステップワゴンに乗ってホンダドリームを追いかけてみてはいかがでしょうか?
<SPECIFICATIONS>
☆スパーダ(FF)
ボディサイズ:L4735×W1695×H1840mm
車重:1690kg
駆動方式:FF
エンジン:1496cc 直列4気筒DOHC ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:150馬力/5500回転
最大トルク:20.7kg-m/1600〜5000回転
価格:275万5000円
(文&写真/ブンタ)