【ホンダS660比較試乗】日常性のスズキ アルトターボRSか、非日常性のS660か?

スズキのアルトワークスは、1980年代にペラッペラ(汗)の軽量ボディにドッカンターボをくっつけたホットモデル。手頃なプライスでも元気のいい、ボーイズレーサーなどと呼ばれたカテゴリーの典型例です。今に続く“軽自動車の64馬力自主規制”を生み出す一端にもなりました。

最新のアルトターボRSは“ワークス”のネーミングこそ冠していませんが、かつてのアルトワークスに対して十分なオマージュを効かせています。しかもその車重は、なんと670kgしかありません。参考までに申し上げますと、ホンダのS660は830kg。実に160kgも軽いんですね! ペラッペラだったかつてのアルトワークスとは違い、高い安全基準もクリアした上での軽さです。技術の進歩って、本当にすごいですね。

アルトターボRSで走り出すと、すぐにその軽さを実感できます。アクセルを踏み込んでビューンとエンジン回転を上げ、パドルシフトでパンとシフトアップ。ビューン、パン。ビューン、パン…。あっという間にクルージングスピードの域へ到達します。トランスミッションは、クラッチのないツーペダルの“AGS”。MTと基本メカニズムは同じながら、ドライバーの代わりにシフトアップ&ダウンしてくれるシステムです。「MTでなければどんなスポーツカーも色あせて見える」なんて公言しているMT原理主義のワタシでさえ、これならば…と思わせるダイレクト感。Goodです!

背の高さは1500mm。ベースが「アルト」であることを実感させられます。限られた全長の中で4名の大人が乗れる居住性を確保するには、高さが必要なのです。この高さを制するのに、アシをガチガチに固めるようなことはしていません。むしろストロークさせてコントロールするイメージ。なので、乗り味はイメージするよりも、ずっとマイルドかつ快適。普段使いでも疲れることはないと思われます。刺激的な走りと優れた居住性。軽自動車界のBMW「M5」とはいい過ぎかもしれませんが、日常を犠牲にしないスポーツカーという意味では、遠くない同じ立ち位置にあります。つまりアルトターボRSは“日常の中のスポーツ”なのです。

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これに対し“日常を超越したスポーツ”が、ホンダのS660です。

荷物を積むスペースがない、というS660への低い評価が聞かれますが、このクルマに荷物など積む必要があるのでしょうか? 誤解を承知の上でいえば、実は荷物を積むところはたっぷりあります。ボンネットフード下の小さなストレージボックスのことではありません。ドライバーの左隣。助手席がそうです。ここにはヘルメットバッグもレーシングスーツも、レーシングシューズも余裕で置けます。

ワタシは自宅の一室を書斎にしています。自家製漫画喫茶とも呼んでいます。広さは4畳ほどですが、間取り図を見ると“洋室”ではなく“納戸”となっています。「へ?」と思いました。何度見返しても納戸なのです。扉も、窓も、収納も、コンセントも、テレビケーブル端子も、アナログ電話回線のジャックも備わっています。「ここは居住空間ではありませんが、ご自由にお使いください」というのが、マンションデベロッパーが位置づけた納戸の巧みな立ち位置なのです。

シートもシートベルトもウインドウも備わっていますが、ワタシにはS660の助手席は納戸、ラゲッジスペースに見えてしまうのです。人を乗せるところではなく、そこは荷物を置くところ…。

ワタシがそう思うのは、なぜなのか? S660をドライブする時、助手席に人を乗せては面白くないのです。車重830kgに同乗者の60kgを加えると900kg。この60kg増がS660の痛快なドライビングフィールを大幅にスポイルするのです。加速、そしてハンドリングの両面において。いやもう、S660をエンジョイするなら断然ひとりがいい! S660はピュアにドライブを楽しむためのマシーンなのです。

反論、いや反感を覚悟の上でいえば、S660は(荷物も積める)シングルシーター。ひとり乗りの軽自動車? 疑問に感じるどころか、非日常性を全面的に肯定し、圧倒的な勢いでS660をレコメンドしたくなります。これほどまでに日常をブッチギリで置き去りにする軽スポーツ、いやピュアなスポーツカーなんて、そうそうありませんからね。

さて、まとめます。アルト ターボRSは“日常の中のスポーツ”。普段使いにも満足しながら楽しめるスポーツカーです。対してS660は“日常を超越したスポーツ”。ドライバーがドライビングを楽しむためのピュアスポーツカーです。

どちらを選んでも満足度は高し。軽スポーツ、本当に面白くなってきました。次は何が出ますかね?

<SPECIFICATIONS>
☆スズキ アルト ターボRS
ボディサイズ:L3395×W1475×H1500mm
車重:670kg
駆動方式:FF
エンジン:658cc 直列3気筒DOHC+ターボ
トランスミッション:5速AT
最高出力:64馬力/6000回転
最大トルク:10.0kg-m/3000回転
価格:129万3840円

<SPECIFICATIONS>
☆ホンダ S660 β
ボディサイズ:L3395×W1475×H1180mm
車重:830kg
駆動方式:MR
エンジン:658cc 直列3気筒DOHC+ターボ
トランスミッション:6速MT
最高出力:64馬力/6000回転
最大トルク:10.6kg-m/2600回転
価格:198万円

(文・写真/ブンタ)

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