先日ご紹介した“お手軽”キャンピングカー「CX-5 ポップアップルーフ」の記事でも触れましたが、マツダE&Tは福祉車両や教習車の開発・製造を手掛けるマツダのグループ企業です。同社の事業内容は、大きく分けてふたつ。ひとつは、マツダ車全般の車両開発や各種試験。そしてもうひとつが、特装車の企画・開発・生産です。
アクセラの教習車もマツダE&Tが手掛ける車両のひとつであり、マツダの宇品工場内に位置するE&T社のファクトリーで生産されています。特装車の工場というと、どこか町工場のようなたたずまいを想像しがちですが、さにあらず。E&Tは製造部門だけで6500㎡という工場を有しており、特装車両の開発に当たっては、マツダ本体の開発部門と共同で行っているそうです。ちなみに、最近、街中でも見掛ける機会が増えている軽自動車の福祉車両は、専用の製造ラインが用意されており、なんと1日当たり12台という結構なペースで製造されています。
さて、話を教習車に戻しましょう。2014年3月に販売がスタートした現行型アクセラの教習車は、一般ユーザー向けに販売されるモデルではありませんが、れっきとしたマツダのカタログモデルとしてラインアップされており、同年6月には、初代からの累計生産台数が1万台を突破したそうです。
これから運転免許証を取得しようという人にとって、教習車はドライビングの原体験となるクルマですから、教習所としてもクルマ選びは慎重に行います。そんな中で、アクセラの教習車がこれほど厚い信頼を得ているのはすごいことだと思いますが、マツダE&Tの工場で実車に触れてみると「なるほど、納得!」と思わされる部分が多数ありました。
ベース車となるアクセラのセダンは、全長4580mm×全幅1795mmというボディサイズからも想像できるとおり、大き過ぎず、小さ過ぎず、街中でも扱いやすいクルマ。アクセラの教習車は、そんなベース車に補助ブレーキや補助ミラーを取り付けただけでなく、アクセラ本体の開発段階から、各種専用装備の装着を前提に設計しているのだそうです。
もちろん「教習生が乗りやすく、正しいドライビングを身につけ、そして、クルマ本来の楽しさを感じて欲しい」というのが、マツダが専用車を開発している最大の意図なのですが、加えて、指導員の使いやすさにも配慮しているとのこと。
例えば、教習車用装備を装着しやすいよう、フロアパネルの一部が専用品に変更されていたり、共用部品も大きな加工を施さず、装備を装着できる設計になっていたりするそうです。指導員席のお馴染み“補助ブレーキ”にしても、素早い操作ができる位置に配置されるのはもちろん、長時間に渡って乗車する指導員が疲労を感じることがないように、フットレストのレイアウトなどが最適化されています。
また、灯火類の作動状態やスピードを表示する“指導員用モニター”も、視認性や操作性にこだわりつつ、ダッシュパネルと一体感のあるデザインとするなど、細部まで手抜きなしのこだわりぶりなのです。
そして、何よりも注目すべきはそのエンジン。現行のアクセラといえば、最新のスカイアクティブテクノロジーを採用したエンジンとトランスミッションを搭載。後者のラインナップも、6速MTまたは6速ATという設定です。でもアクセラの教習車は、輸出向けに継続生産されている従来型の1.6リッターエンジンを搭載しており、トランスミッションの設定も、5速MTと4速ATという組み合わせ。さらに、教習車として扱いやすいよう“アイドリングストップ”機能や“坂道発進アシスト”機能を非装着とし、専用の低速チューニングなどを施しています。
その理由は、最新のテクノロジーに頼ることなく、基本的な運転操作をしっかり身につけてもらうため、というのがまずひとつ。さらに、発進と停止を繰り返し、低速走行が多い教習車の特性を考え、扱いやすさに加えて整備性や耐久性も考慮した結果でもあるのだとか。確かに、最新の6速ATはシームレスで滑らかに変速しますが、教習においては「今は何速?」、「あ、今シフトアップしたな」といった分かりやすさも、また重要なのです。
正直いって「そこまでやる!?」というほどの“作り分け”ですが、E&T社とマツダの開発チームの思いはしっかりと教習生にも伝わっているようで、教習所に「免許を取ったらアクセラに乗りたい」との声が寄せられることも、少なくないのだそうです。