キーを受け取ったのは、ミサノレッドと呼ばれる鮮やかなパールレッドのボディカラーをまとった「S5クーペ」。
このクラス以上のアウディといえば、モノトーンやダーク系のカラーという印象が強かったのですが、なかなかどうして。昼間の日差しを受けて際立つ、前後フェンダーの緩やかなカーブ、シャープなエッジが立ったボンネットフードなど、新型クーペを象徴するディテールとの相性も良さそうです。
フロントまわりの造形は、従来モデルのイメージを継承しているように見えますが、立体感とワイドさを強調した造形となっています。また、64段階の光量調整を行う“マトリクスLEDヘッドライト”、S5専用となるダブルスラットを配した“シングルフレームグリル”、スポーティマスクを演出する“Sスポーツバンパー”などが採用され、精悍さにも磨きが掛かっています。
メカニズムの点においても、新世代プラットフォーム“MLB evo”の採用に加え、新開発ボディの導入で70kgの軽量化を実現。さらに、半自動運転を可能とするアシスト機能やインフォテイメント機能といった電子デバイス、安全装備も最新スペックへと進化を遂げています。そして駆動方式には、アウディ自慢のフルタイム4WDシステム“クワトロ”を採用していることはいうまでもありません。
大きなドアを開けてコクピットへと収まります。シートは肩や腿部分のサポートが大きく張り出したハイバックのスポーツ仕様ですが、サイズがたっぷりしていて、体をガッチリ固定するというよりも、全身をピタリと適切にホールドするタイプです。座り心地は、ドイツ車らしく硬めではありますが、レザー表皮のやわらかなタッチ、キルティングを思わせるダイヤ模様のステッチといったあしらいにより、インテリア全体の雰囲気はイギリスやイタリア製の豪奢なグランドツアラーにも通じるものがあります。
一方、オプションではありますが、インストルメントパネルの12.3インチTFTモニターにメーター表示やナビ画面を映し出す“バーチャルコクピット”、ナセル上の“ヘッドアップディスプレイ”といった装備も用意。アウディが得意とする未来感の演出にも抜かりはありません。
インテリアは、2ドアクーペらしく低めのポジション。そして、程良い包まれ感がありますが、カーボン製パネルがあしらわれたダッシュボードのデザインは、「A4」シリーズにも通じる水平基調で、視覚的に狭さを感じることはありません。実際、数値的にも、先代モデルより室内長(プラス17mm)や前席ショルダールーム(プラス26mm)、後席ニールーム(プラス23mm)が拡大されたほか、ラゲッジスペース容量もプラス10Lの465Lを確保するなど、快適性の向上が図られました。
さて、クーペといっても実用性が気になるリアシートですが、身長175cmほどの大人が座っても窮屈さを感じることはなさそうです。もちろん、余りあるスペースではありませんが、日帰りドライブなら快適に過ごすことができそうです。また、後席にもエアコンの調整機能や吹き出し口も用意されており、アウディが2+2以上の居住性を実現させようと工夫していることがうかがえます。
いざエンジンを始動させると、音量こそ控えめではありますが、高性能モデルらしく金属的でハイピッチなビートを伴い、エンジンやエキゾースト系から高めのサウンドを発します。もちろんこれは、冷間時だけのことで、ウォームアップが完了すると、4本出しのマフラーが低めの排気音をかすかに奏でる程度。とはいえ、マルチシリンダーらしい粒の細かいサウンドは、それだけでもいいモノ感にあふれています。
V6ターボエンジンの最高出力は354馬力、最大トルクは51.0kg-mと、スペックはまさに一線級のスポーツモデルに匹敵。しかし、トルコン式の8速AT“ティプトロニック”をDレンジに入れ、そろりそろりと市街地を走る限り、その立ち振る舞いはとても紳士的ですし、乗り心地も255/35R19というタイヤサイズから想像されるような硬さはなく、路面の段差を通過する際も身構えるような振動を伝えることは一切ありません。
S5は、走行特性を変えられる“Audiドライブセレクト”を備えています。ダンピングコントロール機能付きのスポーツサスペンションをはじめ、スロットルやステアリング、トランスミッションなどの設定を切り替えられ、「コンフォート」や「オート」に設定しておけば、市街地はもちろん、長距離走行でもサルーンに匹敵する快適なクルージングを楽しめます。
とはいえ、ひとたびドライブセレクトで「ダイナミック」を選択すると、S5は新たな一面を披露します。アイドリング時のサウンドは野太く、また、アクセルペダルを強く踏み込んだ時の反応や音質もグッとシャープさを増すだけでなく、足まわりもより締まった設定に。そして、ステアリングのレスポンスも向上し、操舵力も(かなり)ズッシリとした手応えになります。
こう書くと、荒々しい古典的スポーツカーのようなエンジンフィールや乗り味を思い浮かべるかもしれませんが、そこは知性派のアウディ。もちろん、静止状態から100km/hまで4.7秒で到達するスペックからもお分かりのとおり、真正スポーツカーにも匹敵するパフォーマンスを秘めており、右足に力をこめれば背中でGを感じる加速も得られます。
しかし、高速コーナーでも、常識的なスピードの範囲では不安を感じるような何かが起こることはなく、意図したラインをピタリとトレースします。フルタイム4WDと最新の電子制御デバイスは、恐らくドライバーでは計り知れない緻密なコントロールを行っているはずですが、それを感じさせない点もまた、最新アウディの美点といえるでしょう。単なる演出ではなく、サルーンとスポーツモデルというふたつのキャラクターを使い分けることができるのは、やはりクルマとしての基本がしっかりできているのでしょう。
そしてもうひとつ、完成度の高さを感じさせられたのが“ドライビングアシスタンスシステム”です。約10~85km/hの速度において、危険を予測すると警告やブレーキ介入を行う“アウディプレセンスシティ”、先行車を追尾する“ストップ&ゴー機能付きアダプティブクルーズコントロール”、それに連携して65km/h以下の渋滞においてステアリング操作もサポートする“トラフィックジャムアシスト”など、実に多彩かつ、現在の法規に則したアシスト機能が搭載されています。
さらに、後進時に危険を察知すると警告を発する“リヤクロストラフィックアシスト”、右折時に対向車を監視し、危険な状況を検知した場合にはクルマを停止させる“ターンアシスト”など、先進機能を挙げれば枚挙に暇がないほど。基本的には、先行デビューしたA4シリーズに準じた装備ですが、改めて実感したのは、こうしたデバイス類の動作や連携が、極めて自然で緻密な点です。
首都高速など走行車両が多く、速度の変化が大きいシチュエーションでも、S5の所作はとても自然で、いわゆる半自動運転状態で走っていても、同乗者がそれを感じることはないでしょう。例えば、先行車が本線を離脱し、減速から再加速に移った際のスピードの増減や、緩やかなカーブでのスムーズなステアリング操作など、まるで違和感がありません。こうした制御の出来栄えはトップレベルだと思われます。
4名で長距離ドライブに出掛ける、ひとりでストイックにワインディングを駆け抜ける…といった、あらゆるシーンに応える柔軟な動力性能。自らステアリングを握っても、先進デバイスを使ったクルージングでも、破綻のない自然な操縦感覚。オーセンティックなクーペであるのは間違いありませんが、ドライブを楽しむという点においても、S5はかなり贅沢な1台でした。
<SPECIFICATIONS>
☆S5 クーペ
ボディサイズ:L4750×W1845×H1365mm
車重:1680kg
駆動方式:4WD
エンジン:2994cc V型6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:354馬力/5400~6400回転
最大トルク:51.0kg-m/1370~4500回転
価格:913万円
(文&写真/村田尚之)
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