■マツダの技術陣が着目したのは“人間の動き”
新世代スカイアクティブのエンジン“以外”の要となるのが、スカイアクティブ ビークル アーキテクチャーと呼ばれるボディやシャーシ構造。そこには、サスペンションやシートも含まれ、いうなれば“駆動力”を除いた走りに関わる要素を広く含んだ技術である。
ボディやサスペンションを開発するに当たって、マツダが着目したのは“人間の動き”。例えば、歩行中の人間は、首から下が極めて複雑な動きをしているにもかかわらず、頭部はしっかりと進行方向を見定めてブレることがない。同様にクルマでも、サスペンションはしっかりと動かしつつ、ボディは安定させ、乗り心地も操縦性も高めていこう、という狙いだ。
新世代のボディづくりで特徴的なのは“多方面の環状構造”を採用していること。現在でも、スカイアクティブボディの断面を見ると、BピラーやCピラー部分がぐるっと1周、骨格がキャビンを囲んでいる。これが環状構造の一例だ。
次世代ボディでは、まず左右方向の断面だけでなく、前後方向や前後ドア開口部のまわりもぐるっと覆うように骨格が入る。加えて、サスペンションの取り付け部なども強化した上で骨格につながる構造としたことで、サスペンションからの入力をボディ全体で受け止めるよう計算されている。
この構造によってボディ剛性がアップするのはもちろんのこと、サスペンションからの入力が対角(フロント・助手席側からの入力であれば、リア・運転席側)まで遅れなく力が伝わり、衝撃をボディの一部ではなく、ボディ全体でいなす。それとともに、ハンドル操舵時の反応遅れがなくなり、挙動が伝わりやすくなることで、車体とドライバーとの一体感も高まるのだという。
ここでのブレイクスルーは“ボディの減衰”である。“ジェネレーション2”と呼ばれる新世代のスカイアクティブボディは、ボディ剛性を高めるだけでなく、全体で積極的に衝撃を減衰し、入力をいなす仕掛けを組み込む。
今回の試作車両には、振動を吸収するのに効果的な部品どうしの間を中心に、減衰のための樹脂部品が16個組み込まれ、入力をいなすことで不快な共振を抑え込み、乗り味を高める工夫が施されていた。また、パネルを“減衰ボンド”と呼ばれる振動を抑え込む素材で固定するなど、新テクノロジーも投入している。いずれも、走りと乗り心地を高めるためのアイデアだ。
近年、ボディ剛性を高めるだけでは理想的な乗り味を生み出せないということが、クルマ業界では広く知れ渡っている。そのため、車体前後の端に車体のねじれをいなすダンパーを装着する例も見られるが、ボディ自体にここまで減衰を重視した設計を施した例は珍しい。
一方、車体を支えるシャーシやサスペンションの考え方は、従来の「バネ上に伝える力の大きさを低減する」から「バネ上へ伝える力を時間軸で遅れなく滑らかにコントロールする」に進化した。
ここでのポイントは、サスペンションが理想的にストロークし、コーナリング時に理想的なロール姿勢をつくり出す一方、歩行中の人間の頭部のように、ボディをブレなくフラットに保つこと。そのためにマツダが行った逆転の発想が、これまで高剛性化するのが常識だったタイヤ側面を、柔らかくしたことだ。これには当初、タイヤメーカーも困惑したという。しかし、路面からの衝撃を和らげるというタイヤ本来の目的を引き出す効果が高く、逆転の発想とはいいつつ、実は本来の目的に忠実というのが興味深い。
試作車が装着していたのは、もちろん“柔らかいタイヤ”。これまでにない発想のタイヤであるため、マツダはタイヤメーカー4社を巻き込んで開発を進めている。そして、実際の乗り味は、それまで半信半疑だったタイヤメーカーの担当者も納得するほどの出来栄え。ちなみに試乗車のタイヤサイズは、215/45R18だった。
果たして、そんな“常識外”のアイデアを盛り込んだ、マツダの次世代ボディ&シャーシの乗り味はどんなものだったのか?
今回、マツダのテストコースで、試作車両と同クラスの現行車(現行「アクセラ」)とを比較しながらドライブしたが、まずは乗り心地の滑らかさに驚いた。路面の舗装の継ぎ目など段差を超える時や、荒い路面を走る時にドライバーに伝わってくる振動が明らかに少なく、快適な乗り心地だ。
一方、ハンドリングは過剰なクイック感や切れ味といった分かりやすい特性は皆無だが(スポーツカーではないため当然ではあるが…)、ドライバーの操作に対してしっかりと応えてくれるフィーリングは、現在のマツダ車の延長線上にありつつ、さらにレベルアップした心地良さだった。
マツダはしばしば、自社のクルマの走行フィールを“人馬一体”=ドライバーとクルマとの一体感が高まった状態と表現するが、スカイアクティブ ビークルアーキテクチャーでは、その感覚がより濃厚になったといえる。ハンドルを切り始めるとスーッと思いどおりに曲がり、長い直線では頻繁にハンドルを操作して進路を修正しなくてもまっすぐ走る。ドライバーが思ったとおりにクルマが反応する…そんな当たり前の乗り味(実はコレが、なかなか上手につくり込めていないクルマが多い)を、とても高いレベルで実現しているのだ。いうなれば、人間の感覚と車体の挙動にズレがないのである。
ちなみに、リアサスペンションの構造は、現行モデルが採用するマルチリンク方式ではなく、操縦性にとっては不利とされているトーションビーム方式だったが、そのネガを意識することは全くなかった。それも驚くべきことだ。
また、試作車両のブレーキシステムは、一般的な油圧式ではなく、電気信号に置き換えて制御する電気式(バイワイヤ)だったが、そのフィーリングに全く違和感がなかったこともお伝えしておこう。
今回試乗した車両は、いわば“先行試作車”と呼ばれるものだが、実はその中身は、次期アクセラそのものといっていい。エンジンは、世界初の実用化を予定している圧縮着火方式のスカイアクティブ-Xだし、車体も次期アクセラとして設計されたもの。そこに、現行アクセラの外装パネルを貼り付けた車両というのが、今回のテストカーの正体だ。次期アクセラのデビューは2019年といわれているが、そこへ向けて走りなどを煮詰めていくための車両でもある。
それにしても、超機密扱いの特別な車両をメディアの人間に試乗させてしまうなんてことは、本来であれば常識外。この辺りからも、マツダのチャレンジ精神を見て取れた。
(文/工藤貴宏 写真/マツダ)
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