■三菱自動車ならではのこだわり4WDメカを搭載
さて、いきなりですが「エクリプス」といえば、2ドアのスポーティクーペを思い浮かべる方も多いのでは?
かつて北米では、小洒落たクーペが“セクレタリカー”と呼ばれ、オシャレ女子たちに愛用されていました。エクリプスも、そんなクルマの1台でした。
その後、時代とともに小柄クーペの人気は廃れ、自動車マーケット全体でSUVの人気が急上昇。SUVモデルの多様化を受け、SUVのスタイルを採りつつ、乗用車との融合が進んだモデルは、時にクロスオーバーと称されるようになりました。
エクリプス クロスもその流れに乗ったクルマで、ガンガンとアウトドアで酷使するというよりも「トレンドに沿ったスタイルを楽しみたい」というライトユーザーを主要なターゲットとしています。タフでゴツめのアウトランダー、より使い勝手&スポーツに振ったRVR(北米名は「アウトランダースポーツ」)に対し、エクリプス クロスはルックスを重視したクーペ的なポジションというわけです。
3車とも基本的な車台を共用するため、ホイールベースは全車共通の2670mm。とはいえ、キャラクターに合わせて上屋を上手につくり分けているので、そんな事情など感じさせません。車体寸法も、エクリプス クロスは全長4405mm、全幅1805mm、全高1685mmと、アウトランダーとRVRの中間的な大きさとなります。
クーペを意識した流麗なスタイルと聞くと「リアシートが狭いのでは?」と心配になりますが、エクリプス クロスは健闘しています。同車のリアシートは“臨時用”の枠を大きく超えた広さを持ち、175cm前後の身長なら不自然な姿勢を取ることなく座れるはず。リクライニング機能を備えることも、特筆事項です。
あえてケチを付けるとすると、フロントシートを支えるフレームの脚が太いため、後席乗員の足先を前席下に入れにくいこと。ボディサイドが上にいくほどすぼまる“タンブルフォーム”を採っているため、頭まわりに実際以上の圧迫感を受ける、という2点が挙げられます。大人用としても十分実用的ですが、やはりエクリプス クロスは“おしゃれなふたりのためのクルマ”。日常的にリアシートに人を座らせようとは、考えない方がいいでしょう。一方、リアシートは200mmのスライド機構を備えます。シチュエーションによって、後席と荷室の広さを案配できる点は、ありがたいですね。
ちょっと説明が前後しますが、エクリプス クロスは室内装備の充実にも意を注いでいます。これまで三菱車が苦手としてきた、スマートフォンとの連携を実現し、Apple CarPlayやAndroid Autoなどが使えるようになりました。操作内容を、センターコンソールのディスプレイと連動して表示させるほか、フロアコンソールにはタッチパネルが用意され、指先の操作でオーディオ類をコントロールできます。
メーターフード上面に、ヘッドアップディスプレイが設けられたのも新しい。車速やアクティブクルーズコントロールの状態に加え、ナビの矢印情報などを確認できます。
試乗車には、クロスと革、2種類のシートが用意されていました。最初に乗ったのは前者。当たりの柔らかなシート地で、クッション感も豊か。優しい座り心地が好印象で、早速ロングツーリングに出掛けたくなりましたが、そうもいきません。ホテルの広い駐車場に設定された特設の試乗コースを走ります。
輸出向けには、2.2リッターのディーゼルターボも用意されるエクリプス クロスですが、日本国内で販売が予定されているのは、新開発の1.5リッター直4ターボのみ。CVTと組み合わされ、(前輪駆動をベースに)4輪を駆動します。
他社に先駆け、シリンダー内に直接燃料を噴射する直噴エンジンを商品化した三菱自動車ですから、新エンジンも、もちろん直噴タイプ。ただし、旧来のポート噴射(MPI)も兼用し…というか、負荷の低い状態ではもっぱらMPIで走り、必要に応じて筒内に燃料を吹くシステムになりました。
しかも、かつての売りであったリーンバーンこと希薄燃焼は廃止され、できるだけ理論空燃比で燃やすことに。いうまでもなく、エンジンからのアウトプットや、NOx抑制などの排ガス対策を考慮した結果でしょう。「GDIは遠く、なりにけり」です。
シリンダーごとに、ポート用と直噴用、2本のインジェクターを備えた4気筒ターボの最高出力は、150馬力/5500回転。最大トルクは24.5kg-m。過給器付きエンジンらしく、2000回転という低い回転数から3500回転まで、広い回転域で発生します。これは2.4リッター自然吸気エンジンに匹敵する力強さで、エクリプス クロスをスムーズに運びます。
もっとも、印象に残ったのは、むしろトランスミッションの方。CVTながら、あえてトルコンATのようなギヤが擬似的に切られ、ペダル操作と速度、そしてエンジン音がキレイにリンクします。全力加速時には、例えばアウトランダーやRVRでは、回転数が上限に張り付いて、後から速度が付いてきますが、エクリプス クロスでは、勢いよく階段状の加速を見せます。理論的には、最適な回転数を保つようにした方が効率がいいはずですが、クルマは人が運転するもの。自然なドライブフィールは大切ですよね。
どちらかといえば、都会派を目指す(!?)エクリプス クロスですが、そこは4輪駆動システムに一家言ある三菱のクルマ。エンジンから取り出された駆動力は、前輪をメインとしながらも、必要に応じて電子制御多板クラッチを介して、後輪にも渡されます。
4WDのモードは「オート」、「スノー」、「グラベル」の3種類。グラベルなどと聞くと、未舗装路を、砂煙を上げながらカッ飛ぶイメージがありますが(ワタシだけ!?)、エクリプス クロスの場合は、後輪への駆動力を増やし、悪路走破性やスタック時の脱出力をアップさせる設定です。
三菱自動車のエンジニアによると、通常はオートで十分ですが、例えば、突然の豪雨など路面の状況が急激に変化した時にグラベルを選ぶと「安定性が向上するのでお勧め」とのこと。こういった、三菱車ならではの専門的な機能を、一般ユーザーの使用方法にどう馴染ませるか、また、いかにして違和感なく使ってもらうかが「今後の三菱自動車の課題なのではないか?」と、僭越ながら感じました。
ちなみにエクリプス クロスでは、空転した車輪の駆動力を接地している車輪に移す機能=差動制限は、空転しているタイヤにブレーキをかけることで機械式LSDに代えています。各輪のブレーキを個別にコントロールするシステムは、オフロードに加え、オンロードでも活かされるようになりました。“S-AWC”と名付けられた機能は、コーナリング時に、必要なだけ内輪側にブレーキをかけることで、旋回性を向上させるのです。
試乗会場では、45度の急坂を余裕で上り…いや、登り、ボディがねじれるような障害物に音を上げることもなく、階段の上がり下りを難なくこなし、走破力の高さと、それを根本的に支えるボディの強さをアピールしたエクリプス クロス。最新モデルらしく、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報システム、死角に入ったクルマを警告する“ブラインドスポットウォーニング”といった予防安全技術も、しっかり搭載してします。
まさに、久々のニューモデルにして、渾身の意欲作。日本での販売開始が今から楽しみです。
<SPECIFICATIONS>
☆G プラスパッケージ(プロトタイプ)
ボディサイズ:L4405×W1805×H1685mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:1498cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:150馬力/5500回転
最大トルク:24.5kg-m/2000〜3500回転
価格:未定
(文&写真/ダン・アオキ)
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