【検証2017-2018年の注目車③】“華のない”スズキ「スイフト」が“クルマ通”にウケる理由

■欧州志向でクルマ“通”の支持を得た2世代目スイフト

いきなりハナシは飛びますが、体育系、文科系を問わず、物事の上達は「階段状」だといいます。習い始めは練習とともにグングン上手くなるけれど、いつしか頭打ちになり、どれだけ練習しても、壁を打ち破れない時期が来る。それでもめげずに頑張っていると、ある日突然、次のステージに立っている自分に気がつく…らしいです。

クルマ(の開発)にも「そんなことがあるのだなぁ」と感心したのが、2004年に登場した2世代目スイフト(グローバルモデルとしては初代)を見た時でした。

ちょっとエラそうで恐縮なのですが、それまでのスズキの小型車といえば、ボディサイズは普通車だけど、なんというか「大きな軽自動車」といった感じ(スイマセン!)。スタイリング、内装の質感、そして、実際にハンドルを握ってのドライブフィール。どれも実用要件は満たしているけれど、それ以上でも以下でもない、と。

ですから、2世代目スイフトをドライブした時には、ビックリしました。失礼ながら「これ、本当にスズキ車か!?」と思ったほどです。ハンガリーを拠点に、ヨーロッパ市場にも積極的に展開され、自動車専門誌風に述べると「ヨーロッパ基準のコンパクトカー」として高い評価を受けた2世代目スイフト。実用ハッチとしてはもちろん、後から加わったスイフトスポーツが、一部のエンスージアストから熱烈歓迎され、カルトな人気を得たことも、記憶に新しい。

でも、このクルマがノミネートされた2005年は、3世代目マツダ「ロードスター」にカー・オブ・ザ・イヤーをさらわれてしまいました。うーん、残念。ロードスターはニッポンが誇るスターモデルなので、まあ、仕方ないといえば、仕方ないかも。

そして、キープコンセプトの3世代目スイフトを経て、2017年初頭から販売が開始された最新の4世代目(グローバルモデルとしては3世代目)は、またひとつ大人の階段を上った(!?)クルマになりました。

歴代スイフトのイメージを上手に投影したスタイル。1トンを切る軽さにして、しっかりした高剛性ボディ。134万3520円からというリーズナブルな価格。欧州仕様のワイドボディをスイフトスポーツに与え、一方“ノーマル”スイフト用には、わざわざ日本市場向けのナローボディを用意したところも立派です。

後者のエンジンラインナップは、1リッターの3気筒ターボ(102馬力/15.3kg-m)と、1.2リッター4気筒(91馬力/12.0kg-m)の2種類。面白いのは、純粋なエンジン車のほか、2種類のハイブリッドモデルをそろえていることです。

当初は、ブレーキ時の減速エネルギーを“ISG(モーター機能付発電機)”で電気に変換してバッテリーに回収。加速時に再利用する、いわゆるマイルドハイブリッドモデルのみでしたが、追って、より本格的な(ストロング)ハイブリッドモデルがラインナップされました。スズキのスタッフによると「市場(販売店)からの強い希望があった」そうです。

スズキのマイルドハイブリッドは、ムダのない手堅い構成で、モデルライフを通じてユーザーの懐に貢献しそうです。一方、今回の試乗車である後発のストロングハイブリッドは、なかなか野心的な仕組みを採っています。

まず、トランスミッションが、マイルドタイプのCVTから、シングルクラッチ式の自動ギヤたる“AGS(オートギアシフト)”に変更されました。効率をアップしつつ、ドライブ時のダイレクト感を得るためですね。

これに、より強力な駆動用モーター(発電機も兼ねる)“MGU”が組み合わされます。MGUは、減速時のみならず、エンジンの効率がいい巡航時にも積極的に発電し、専用のリチウムイオンバッテリーに蓄電。発進・加速時に「すきがあればモーターが加勢する!」といった構えです。

興味深いのは、シングルクラッチの弱点を、電気モーターが巧妙にカバーしているところ。このタイプのトランスミッションは、ギヤを変える際に、ともするとトルクの断絶が生じ、乗員の上体が前後に舟を漕いだりしがちになる。ところが、スイフトハイブリッドでは、シフト時のトルクの谷間をモーターの駆動力で埋めてやり、トルコン式ATと見まがうばかりにスムーズなシフトを実現しています。「その手があったか!」とヒザを打ちたくなるグッドアイデアです。精緻なモーター制御を成功させたスズキの技術陣に、拍手!

また、減速時や低中速での一定走行時には、エンジンを停止させた上、専用のクラッチでエンジンを動力系から切り離し、ムダなフリクションロスを抑えています。

ハンドルを握ってドライブしていても、こうした機能の切り替えは、ほとんど気になりません。たまに、停止していたエンジンの再始動に気がつく程度。よくできています。

では、巧妙なシステムの結果としての燃費はどうでしょう? 今回、都市部、高速道路、そして峠道と430kmほど走って、ドライブコンピューターは“17.6km/L”を表示していました。カタログ燃費が32.0km/Lなので、できれば20kmオーバー/Lの数値を出したかったところですが、燃費に一切頓着しないで走っての結果ですから、妥当な数字といえるのではないでしょうか。参考までに、マイルドハイブリッドモデルのカタログ燃費は、27.4km/L(4WDは25.4km/L)です。

ちなみに、嘱望されて市場に投入された本格派ハイブリッドモデルではありますが、現場での売れ行きは、残念ながら(!?)マイルドハイブリッド車の後塵を拝しているとのこと。カタログ上の、4.6km/L程度の差は「実燃費ではあまり変わらない」と捉えられているのでしょう。

価格差も微妙です。マイルド「ML」が162万5400円、ストロング「SG」が166万8600円。上級版であるマイルド「RS」がセーフティパッケージ付きで178万7400円(素では169万1280円)。ストロング「SL」はセーフティパッケージを標準装備して194万9400円。MLとSGはともかく、ハイグレードモデルの価格差は、ちょっと大きいですね。

もうひとつ。個人的に気になったのは、ストロングハイブリッドモデルの荷室の狭さです。床下にリチウムイオンバッテリーとインバーターを置くため、どうしても床面が高くなる。コンパクトなボディゆえ、限られた前後長を最大限取って、かつ天地を大きくして荷室容量を稼ぐはずが、パワーパックを収める関係上、物理的に難しくなる。新型スイフトの大きな改善点のひとつが「ラゲッジルームの拡大」でしたから、コレは痛い。自分を含め、実用コンパクトとしてスイフトを求めるユーザーの方々は、マイルドハイブリッドタイプを選ぶはず、です。

…と、ちょっと厳しい結論になってしまいましたが、では、ストロングタイプのハイブリッドモデルがムダになったかというと、そんなことはありません。エンジンとモーター、そしてシングルクラッチ式MTを有機的に組み合わせたシステムを実用化し、市販した実績は、スズキの開発陣にとって大きな財産になるはずです。「スズキ、やるな!」と感じた他社のエンジニアの人も多かったでしょう。ニューモデル開発の次のステップアップは、思いのほか近いのかもしれません。

<SPECIFICATIONS>
☆ハイブリッド SL
ボディサイズ:L3840×W1695×H1500mm
車重:960kg
駆動方式:FF
エンジン:1242cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:5AT(シングルクラッチ式MT)
エンジン最高出力:91馬力/6000回転
エンジン最大トルク:12.0kg-m/4400回転
モーター最高出力:13.6馬力/3185〜8000回転
モーター最大トルク:3.1kg-m/1000〜3185回転
価格:194万9400円

(文&写真/ダン・アオキ)


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