■CX-8は雪上でもしっとりとオトナの乗り味
マツダは先日、EV(電気自動車)に関して、トヨタやデンソーと協業して開発することを発表しました。その一方、内燃機関にもこだわり続け、技術を磨いて低燃費と楽しさを追求していくと明言しています。
中でも今、注目を集めているのが、低燃費と走りの楽しさを両立させる次世代のガソリンエンジン“スカイアクティブ-X”。ほかにもマツダは、リラックスできて体が疲れにくく、しかも安全性向上にも寄与するドライビングポジションを追求したり、“G-ベクタリング”で体の揺れやハンドルの修正操舵を減らし、快適で疲労の少ないクルマを目指したりしています。
いずれもちょっと地味な技術ですが、それらと真面目に向き合い、ネガの部分を改善してきた結果が、現在の高い完成度を持つマツダ車に結実しているのではないでしょうか。
さて、マツダがウインターテストを行うコースは、北海道の剣淵という町にあります。テストコースといっても、夏は村道。冬は通行止めとなるため、そこを冬季限定のテストコースとして利用しているのです。
それもあってか、入口ゲート脇の管理棟は簡素なプレハブ小屋。さすがに、テストコース内の建物は寒さ対策もあるのか、しっかりした建物になってはいますが、そうした飾らない部分も、私たちに親しみやすさを与えるのかもしれません。その証拠に(?)、試乗会場では近所に住むキタキツネがお出迎えしてくれました。
試乗会は、朝のプレゼンテーションから。前夜に「開発者の熱い思いを伝えきれないので、予定より15分早く始めたいのですが…」とのことで、前日より15分早いスタートとなりました。
今回のメインイベントは、先頃発売された「CX-8」と「CX-3」の雪上試乗。そして、マツダが新たにアピールしている、「マツダの深化」に欠かせない“躍度”を、「CX-5」で体験試乗するというもの。
躍度って、ちょっと耳慣れない言葉ですよね。
エンジニアの方がおっしゃるには、運転する際、私たちドライバーは、自分のアクセル操作に対して想定したとおりにクルマやカラダに重力がかかると「気持ちいいドライビング!」と感じるのだとか。
実はこの時の速度の変化率が“加速度”で、加速度の変化率が“躍度”。クルマの場合、アクセルを踏み込む量が“加速度”で、踏み込む速さが“躍度”といい換えることもできます。
例えば、新幹線は300km/h以上で走行しますが、私たちは、車内に平気で立っていられますし、流れる景色を楽しむ余裕もあります。つまり新幹線の場合、最高速度に達するまでの加速度こそ大きいのですが、最高速度に到達するまでの時間がゆっくりなので、躍度は小さい、ということになります。
一方、クルマの場合、例えば、高速道路で本線に合流する際などは、アクセルを深く、速く踏み込みます。その時に達するスピードは100km/h前後に過ぎませんが、短時間でそのスピードに達するため、躍度は大きくなるのです。そんなクルマの車内では、とても立ってはいられませんよね?
では、躍度が小さければ良いのか、というと、そういうわけでもないようです。躍度が小さくても加速に時間がかかってしまったら、じれったく感じますし、一気に加速すれば、それもまた不快。
つまり、バランスが重要で、マツダは適度な加速度と躍度によってカラダへの負担を小さく、疲れにくくしながら、気持ちのいいドライビングの実現を目指しているのです。そうしたことをとても丁寧に、かつ熱く説明してもらうための“プラス15分”なのでした。
そんな躍度の重要さを実感するために乗り込んだのは、ガソリンエンジン搭載のCX-5。
まずは、アクセル操作から試します。通常モードのアクセルと、レスポンスを過敏にしたアクセルとの乗り換えで、躍度の違いを確認。レスポンスが過敏なアクセルの場合、加速時やコーナーリングなどの操作を、より慎重に行わなくてはいけません。続いてはブレーキ操作。より慎重に操作しないと、クルマの挙動がすぐに乱れてしまいます。そして最後は、パイロンスラローム。制限速度40㎞/hで0.2Gを越えないよう、躍度計を確認しながらドライブします。
今回、改めて実感したのは、アクセル、ブレーキ、ステアリング、そして、操作するドライバーのバランスが整わないと、決して“気持ちのいい走り”にはつながらないということ。この微妙なバランスを整えるために、マツダのエンジニアの皆さんは、日々、努力されているのです。
ちなみに、躍度の重要度を実感したことは、後の“オートテスト”での「デミオ」、「ロードスター」、「アクセラスポーツ」でのタイムアタックでも効果を発揮。Gをできるだけ発生させず、パイロンで360度ターンするようなシーンでもタイヤを滑らせないよう運転すれば、タイムも上がることが分かりました。
そして最後は、公道でガソリンエンジン搭載のCX-3と、7人乗りSUVのCX-8をドライブ。
特に、CX-8は車重が1.9トンもあるのに、発進からスーッとスムーズに滑り出していきます。その様子はどこか、クルマの動きが体に馴染んでいく感覚。また、路面をしっかり捉えているのに変な突き上げはなく、むしろ、この重さと2930mmという長いホイールベースが、CX-8のしっとりとしたオトナの走りを実現しているのではないかと思います。特にセカンドシートの乗り心地が抜群! 雪道なのに、危ういシーンは一切ありませんでした。
雪道に強く、おまけにスタイリッシュでカッコいいCX-8。ミニバンブームの次に来るのは、7人乗りSUVになるではないかと思う今日この頃です。
(文/吉田由美 写真/村田尚之)
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