青森のたい焼き「あげたい」は、なぜ揚げちゃったの?【全国ソウルフード探訪】

■「テレビもねぇ!ラジオもねぇ!」街には、絶品グルメがある!

青森県の日本海側、津軽の西部に位置する五所川原市。冬の平均気温はマイナス1℃と積雪量の多い極寒の地であり、多くの市民は毎年8月に開催される「立佞武多(たちねぷた)祭り」で踊り跳ねるのを、短い夏の楽しみに暮らしています。

▲こちらはミニチュア版立佞武多ですが、実際の高さは約20mと圧巻です(五所川原市:立佞武多の館にて撮影)

五所川原市民が愛し続けているソウルフード、それがたい焼きを油で揚げた、あげたいです。「普通に食べても美味しいたい焼きを、何でわざわざ揚げるの?」と思っている方にこそ、ぜひとも食べていただきたい! そのあげたいを作っているお店が、五所川原駅から徒歩10分にある「あげたいの店みわや」。

▲ 黄色い看板が目印。暑い夏も寒い冬も1年中、あげたいを作り続けています

もちろんオーソドックスなたい焼きも販売していますが、8割以上の注文があげたいだという「みわや」さん。老若男女問わず、ひっきりなしにお客さんが訪れる人気店です。

■自家製たい焼きは、ぜひとも“揚げたて”を

1977年に先代からお店を引き継いだという、2代目店主の神千代茂さん。

▲好きな演歌歌手は三橋美智也と村田英雄。往年の演歌を好みます

現在は神さんが1人でお店を切り盛りしているそうで、毎朝6時から仕込みがスタート。小豆を炊いて煮詰める自家製の餡や、小麦粉をブレンドしての生地作りなどの仕込みが終わったら、朝9時のオープンに向けて手際よくたい焼きを作っていきます。

▲41年間変わらず、神さんが愛用し続けている鋳鉄製の焼き型。表面に刻まれているのは、五輪のマーク!

▲先代から神さんが受け継いだという焼き型は、東京オリンピックの頃に製造されたもののようです

試行錯誤メニューを考案していくなかで、現在あげたいのメニューは、あんこ、クリーム、チョコレート、カレー、バーガーの5種に落ち着いたそう。

▲ メニューのなかで目を引く“バーガーあげ”については、後ほど実食で

いざたい焼きを揚げる工程は、お客さんの注文が入ってから。もっとも美味しい揚げたてを提供するのが、神さんのこだわりです。

▲180℃のサラダ油で、じっくりと揚げていきます。夏場には若干油の温度を下げたりと、長年の経験で揚げ方のコツは熟知しています

かつてブームになった「およげ!たいやきくん」では、たいやきくんが鉄板の上で焼かれることを嘆いていましたが、まさか油のなかを泳ぐことになるとは、たいやきくんも思わなかったはず。

▲目が赤い真ん中のあげたいはあんこ味。何味か分かるように食紅で色をつけています

油の海を泳ぎきって、こんがりとキツネ色に焼き揚がったあげたい。店内のテーブル席でアツアツのうちにいただきます!

■外はサクサク、中はモチモチと絶妙なバランス!

今回オーダーしたあげたいは、あんこ、クリーム、チョコレート、そしてバーガーの4種。バーガー以外には砂糖がまぶされています。

まずは王道のあんこ(税込120円)から。

▲実際には「がーっぱあっちぃ(訳:すごく熱い)」と叫びながら、揚げたてを半分に分けています。

ご覧のように中の生地がフワフワ。外のカリカリと、中のフワフワとした食感が楽しめるように、生地の割合は多めです。もちろん餡の甘さもしっかりと味わえます。これぞ昔から慣れ親しんだ味!

こちらは王道のクリーム(税込140円)。

▲「めったらだなぁ(訳:おいしそう)」と言いながら撮影しています

油で揚げることによって、中のクリームがよりトロットロ。カスタードクリームが口のなかでとろけて、生地とマッチしていきます。「サクッ、フワッ、トロー」っといろんな食感が楽しめるので、ペロッといけちゃう!

続いてチョコレート(税込140円)。

▲「なもかなが(訳:あなたも食べなさい)」と編集カメラマンに言いながら、撮影しています

こちらも中のチョコレートクリームがとろけて贅沢なスイーツを堪能している感覚に。でも安心価格の税込140円! 甘さが重すぎないので、子どものみならず大人にもオススメです。この時点でカロリーという概念を忘れて、3つ平らげています。

そして、オリジナルメニューのバーガーあげ(税込120円)へ。

▲「わいはっ!なんだばこれ!(訳:ビックリ!何これ?)」

ハンバーグのタネとなる、ひき肉や玉ねぎなどの具材がたい焼きのなかに詰まっていました。半分に分けた瞬間に肉汁が出てきて、とてもジューシー。甘めの生地と相まって、後を引く美味しさです。ちょうどお店に訪れていた地元の女性客がバーガーあげを注文していたので、お話を聞いてみると、「甘いものが苦手なので、私はバーガーあげをよく注文しています」とのこと。甘党でない人でも、バーガーあげなら食事感覚でいただけます。

■そもそも、なぜたい焼きを揚げたのか?

神さんがあげたいを考案したのは、お店を始めて間もない頃。すでに40年以上、あげたいは販売され続けています。きっかけは、売れ残ったたい焼きがもったいないという思いだったそうです。

「どうしてもたいやきは時間が経つとおいしくなくなってしまう。これを油で揚げて、砂糖をまぶしてみたらどうだろう」

早速実践し、まずは近所の子どもたちに試食してもらったら大好評! 近年では、鯛をさらに“あげる”ということで、受験生や選挙シーズンなどに、験担ぎとしてあげたいを買っていく人が多いそうです。

▲地元民はこの緑の包み紙を見ただけで「あげたいだ!」とテンションがアガります。

もちろん買ってすぐのアツアツをほうばるのがベストですが、手土産にもオススメのあげたい。青森へ旅行に訪れた時は、男をアゲるための験担ぎとして「あげたい」をほおばってみてはいかでしょうか?

>> 「あげたいの店 みわや」
青森県五所川原市字上平井町99


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(取材・文/蝦名育美)

青森県つがる市出身のライター。東京に出て15年以上経過しても、周囲からは青森のことばかりよく聞かれる。かつて地元に4階以上の建物がなかったため、展望台やタワーなどの高所を好む。

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