■厳冬期アウトドア服は普段着に応用可能
僕は厳冬期の北海道に、この20年間、夏と同じように今まで5回の厳冬北海道自転車キャンプ旅を経験している。
マゾとか変態とか呼ばれるし、確かに危険な目に合った事は何度もあるけど、自分的には楽しさの方が勝ってしまい、それほど冒険という意識もなく、ちょっと「変わった旅行」というスタンスだが、あまり理解はされない。
それでもまだまだ行きたいと思っていて、チャンスを虎視眈々と狙っている。
今まで経験した最低気温は夜間から早朝の-28度前後だと思う。
そんな中でキャンプをしたり自転車で走ったりするわけだけど、こういう旅で使用したアウトドア用の服装類は、旅が終わった後も普段着として活躍する場合がほとんどだ。
これらの装備は、最悪、東京で大災害があった場合でも役にたつものばかりなので、そんな事はないに越した事はないけれど、心の安心感はかなり違う。
この記事を№1と№2に分けて、1は服装に関して。2は主なアウトドア用品類に関して紹介してみようと思う。
■キッカケ
僕が最初に本格的な氷点下でのアウトドアを体験したのは1998年12月1日から撮影を開始した『白 THEWHITE』という映画の時だった。
この映画は『由美香』という映画から始まる北海道自転車三部作の完結編として制作された。
内容は真冬にひとりだけで自分の故郷・浜松から本州は太平洋側を、北海道は函館から中央を走り礼文島のスコトン岬まで、自転車とキャンプ装備で約2300キロの距離を走り抜けるロードムービーで「たった一人の映画」だった。
スタッフはいない。撮影も主演もスタッフも自転車走行もキャンプも、何もかもひとりでこなす映画だ。
僕は浜松育ちで東京在住、それまで北海道や東北などの氷点下や雪の生活の経験はなく、もちろん氷点下アウトドアの経験も皆無だった。
この映画での経験が初めてで、この時ばかりは自分にとって十分な「冒険」となった。
出発する前、植村直巳の著作はもちろん、南極や北極の各種冒険記録や冬季アウトドア系の本を読みあさり、道具の扱いなどを自力で学習し、アウトドア屋さんの店員にも意見を聞きながら装備を揃えていった。
地元の浜松から出発した理由は、いきなり氷点下に行くのではなく、初めての試みだったため登山で言う高度馴化を狙ったからだった。
この旅だけは、少しづつキャンプで寒さに慣れていこう、という作戦だったのだ。
そして、旅は無事成功し、映画も完成して2000年のベルリン映画祭にも招待された。
この撮影旅以降、僕は厳冬期の北海道そのものにも魅了され、夏と同じように、冬にも自転車キャンプ旅に出るようになったのである。
■着ているのは3枚だけ
まず、自分の場合は自転車による移動であり旅である。
かなり激しい運動となるので、寒くても汗はかくし、動きやすさや軽さは重要な条件となる。
キャンプなので、共通して使用可能なのは、冬山登山やスキーやスノボー用の服装類だった。
僕が冬の北海道行動中に着ている衣類は3枚だけ。
ミズノのブレスサーモの厚手の極寒地用アンダーウエア上下1枚。
ノースフェイスかパタゴニアのフリースを1枚
ノースフェイスの少し厚手のゴアテックスのアウター1枚
パンツはスノボー用のゴアテックスのスノーパンツを極寒地用アンダーに重ねる。
手はミズノの薄手のインナーグローブにゴアのウインドストップが入ったフリースのグローブの2枚重ね
足は同ミズノのブレスサーモの薄いインナーソックスと極寒地用のソックスで2枚重ね。
首と顔はモンベルの厚手のネックウォーマー(目出し帽みたいな)と頭は毛皮の帽子(アライグマ、またはスカンク、ビーバーなど)
靴は以前はゴローの長めのブーティLだったが、耐えられず膝下のスノーブーツとなった
これにテントの時、歩いたりあまり動かない時用に、アウターはダウンを用意している。パンツも休息用にフリースの楽なものを用意し、テントの外などにちょっと出る時のために、ダウンのテントシューズ(モンベルのちょっとだけ外に行けるタイプ)を使用する。
だいたいはこれでOKだ。
■最も重要なのはアンダーウエア
長年の冬旅で思うのは、アンダーウエアの重要さだった。
アンダーウエアがただの綿だと、氷点下での行動は自殺行為となる。
汗が冷えて乾かず体温を奪うからだ。
だから昔の登山などでは、なるべく早く着替えるか、汗をかかないような行動が重要視されたようだ。
しかし、今は化繊が発達しているので、その恩恵が受けられる。
自分が使用しているミズノのブレスサーモのアンダーウエアは、鳥の羽毛の構造からヒントを得て開発された発熱素材で、水分を吸収すると発熱する機能が付いている。
もちろん速乾や抗菌機能もあるので、着たきり雀になっても快適なのである。
インナーグローブも雪の中の作業時に手を擦ると発熱するので冷たくはならない。昔から大変重宝していて、厳冬期の必需品となっている。
また、アンダーウエアをしっかりした高機能のものにするだけで、上に着るものを薄手にできるのである。
薄手にできるという事は動きやすく、また、軽量化もできるのだ。
従ってアンダーウエアだけはケチってはいけない、というのが自分の考えだ。
ミズノのブレスサーモのアンダーウエアは極寒地用の厚手のものから薄手のものまで3種類あるので、用途により使い分けできるのが素晴らしい。
自分は薄手のものは夏の北海道で寒い時に使用していて、
他にも今はアウトドアメーカー各社から優秀なアンダーウエアがいろいろ出ているので、行動によって機能を照らし合わせて選ぶのがよいだろう。石井スポーツのオリジナルなどは体温を一定に保つ機能のものまであり、こちらもお勧めだ。
僕はこの極寒地用のアンダーウエアを普段の室内などで冬はトレーナーのように着て快適に過ごしている。もちろん都心の外でもこれ一枚着ていれば、比較的薄着でも快適に過ごす事が可能だ。
自転車などの激しい運動の場合、アンダーウエアは速乾能力の高いものを着用し、保温で中間着にフリース、その上に着用するアウターは汗を外に放出するゴアテックス素材が最適で、この機能を基本に主に風に対する防風機能、障害物などから体を守る丈夫な機能が重要となる。
ダウンのアウターは水に弱く、保温能力は最高だが、激しい運動用には不向きなので動かない時に着用する。
その他としては頭には毛皮の帽子が良い。
アライグマの毛皮が他よりは比較的安価で頑丈なので良い。
うさぎの毛皮は安いけど、耐久力がなく、すぐに毛が抜けるのでお勧めはできない。
暖かさで言えばこれ以上のものはなく、また、雪を弾いてくれるので雪国のツーリングでは素晴らしい活躍をする。
自分は「尻革」と呼ばれる巨大な一枚の毛革も使用している。
これは今でも自衛隊やマタギが雪の中で使用するもので両側に紐を通し腰に巻く。これで雪の上に座ると雪や氷を通さないので冷たくはならないのだ。
雪上で行動する場合の重要装備のひとつで、その他、自転車の荷物の上に被せたり(雪を弾くので)テント内でマットの上に敷けば雪の冷たさをシャットアウトしてくれたり、寝袋に入れるなど、いろいろと使っている。
■東京で外に放り出されても平気
これらの衣類は東京ではオーバースペックなものも多いけど、アンダーウエアやフリース、ソックスやダウンジャケットなどは、都心でも快適だ。
快適すぎて、ついダラダラと過ごしてしまうほど。
アウトドア衣類を着すぎて廃人になるなど、洒落にならん、と思いつつも、やはり体は正直で、一度快適さを味わうと、そればかり着てしまう。
僕はこれらの装備さえあれば、真冬に部屋を放り出されても、何食わぬ顔で平気で立派な浮浪者になれるだろう。
むしろ、この生きづらい世の中だ。
いっそ、東京が壊滅してくれないか?などと夢想したりする。
その時は、僕の各種アウトドア装備は最大の威力を発揮するだろう。
※次回は、№2 氷点下での各種アウトドア用品について。
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(文・写真/平野勝之)
ひらのかつゆき/映画監督、作家
1964年生まれ。16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。18歳から自主映画制作を始める。20歳の時に長編8ミリ映画『狂った触覚』で1985年度ぴあフィルムフェスティバル」初入選以降、3年連続入選。AV監督としても話題作を手掛ける。代表的な映画監督作品として『監督失格』(2011)『青春100キロ』(2016)など。