■1.5リッターターボの粘り強さも氷雪路では武器になる
エクリプス クロスは、5ドアのスタイリッシュボディが特徴のクーペSUV。プラットフォームは「アウトランダー」や「RVR」と基本を共有するが、世代が新しい分、しっかりと改良&熟成が加えられている。
そこに搭載されるのは、新開発の1.5リッター直4ターボ。性能的には2.4リッターの自然吸気エンジンに匹敵するダウンサイジングターボで、8速のMTモードを備えたCVTを組み合わせる。
エクリプス クロスにはFF(前輪駆動)仕様もラインナップされるが、今回、氷雪路でドライブしたのは4WDモデル。三菱自動車といえば、古くはあの「ジープ」に始まり、RVブームの火付け役となった「パジェロ」、走行安定性とハンドリング性能を両立した「ギャラン VR-4」、そして、WRC(世界ラリー選手権)を制覇した「ランサー エボリューション」といった具合に、歴史的に見ても4駆システムには一家言持つメーカーだ。
もちろん、最新モデルであるエクリプス クロスにも、これまで培ってきた経験とノウハウがしっかりと息づいている。基本とするのは、必要に応じて、多板クラッチを介して後輪へ駆動力を伝える電子制御4WD。それを、ABS、滑りやすい路面での不安定な動きや車輪のスリップを防ぐ“ASC(アクティブ・スタビリティ・コントロール)”、左右のタイヤの駆動力や制動力をコントロールする“AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)”とともに統合制御する。
“S-AWC(スーパー・オール・ホイール・コントロール)”と呼ばれるこのシステムを基盤に、エクリプス クロスは「誰もが安心して気持ち良くドライブできる」ことを目指したというが、その一端は、今回の氷雪路ドライブでも鮮明に感じられた。
S-AWC自体は、2007年登場の「ランサー エボリューションX」で実用化されたものであり、その後、2世代目のアウトランダーや「アウトランダーPHEV」にも搭載されるなど、決して真新しいものではない。しかもエクリプス クロスでは、より軽く、より低コスト化を図るために、前輪のAYC機構にディファレンシャルギヤではなくブレーキを利用する。だが実際に乗ってみると、古さなどは一切感じられず、“廉価版”とは侮れないほど、雪や氷の上を楽しく走れた。
特に、滑りやすい氷雪路においては、クルマの向きが変わりやすいのが印象的だ。ハンドルを切り込むと、車体はコーナーのイン側へとスムーズに向きを変え、そこからアクセルを踏んでいった時の挙動も「できるだけクルマを曲げよう」という狙いが感じられるセッティング。他メーカーの4WD車で時折見られる、徹頭徹尾アンダーステアの超安定志向ではなく、滑りやすい路面でもなんとか曲がっていこうとしてくれる。
その分、リアタイヤはコーナーの外側へと膨らみがちだが、だからといって(もちろん限界未満であれば)後輪がズバッと一気に滑ってしまう気配はない。いつもドライバーの手のひらの上に、クルマがとどまっている印象だ。そして、そこからアクセルを戻すと、膨らんでいたラインは緩やかに内側へ。しかも、内側に戻ってからゆっくりアクセルを踏んでいくと、安定した姿勢を保ちながらしっかりと前へ進んでいく。こうした感覚は、アクセルペダルを踏む右足の動きで車体の姿勢をコントロールする、昔ながらのスポーツカーの楽しさにもどこか通じるものがある。
そんな軽快なフットワークを生み出しているのは、切り詰められた前後のオーバーハングや、軽量な1.5リッター直4ターボエンジンによる恩恵も大きいが、やはり一番は“S-AWC効果”だろう。エクリプス クロスの場合、コーナリング時にAYCが前輪の内輪側へとブレーキをかけて旋回力を高め、車体が曲がりやすい味つけとしているが、この時の、前後/左右輪への駆動力配分の“サジ加減”が絶妙なのだ。さらにS-AWCには、クルマが曲がりやすい分、常にコーナー出口へと視線を向けられるようになり、ドライバーが安心してドライブに集中できるという副次的メリットも。メカや電子制御による機構的なメリットはもちろん、膨大なデータに裏打ちされた、ドライバーの本性を踏まえたセッティングとが一体となって、軽快で楽しいドライビングフィールを生み出している。
もちろん、1.5リッターのダウンサイジングターボエンジンも、エクリプス クロスの印象的な走りをバックアップする。24.5kg-mという最大トルクを2000〜3500回転という広いレンジで発生するが、“ターボラグ”はほぼ感じられず、1500回転辺りからトルクの盛り上がりを実感できる。雪や氷で覆われた上にアップダウンの激しい状況では、走行中、エンジン回転数が落ち込んでしまい、ギヤを1段落とさざるを得ないケースが多く、実際に今回も「2速に落とさなきゃいけないかも」という場面に遭遇した。だがエクリプス クロスは、そんな状況でも3速のまま、事もなげに走りきったのだ。このような最新ダウンサイジングターボならではの走りの粘り強さも、氷雪路を始めとする悪条件下では有効に働くことだろう。
独創のS-AWCと最新のダウンサイジングターボに加え、175mmの最低地上高、20.3度のアプローチアングル、30.8度のデパーチャーアングルといった、SUVならではの機能性もしっかり押さえたエクリプス クロス。今回の氷雪路コースでも、走りのポテンシャルの高さを存分に感じさせてくれたが、こうなると気になるのが今後の展開だ。個人的には、ハイパワーエンジンの搭載や電動化による、高性能な“新時代のエボ”の誕生を期待せずにはいられない。それくらい、このクルマは可能性を秘めた意欲作であるし、そうしたイメージリーダーこそが、三菱自動車の真の復活には欠かせないと思うのだ。
<SPECIFICATIONS>
☆G プラスパッケージ(プロトタイプ)
ボディサイズ:L4405×W1805×H1685mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:1498cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:150馬力/5500回転
最大トルク:24.5kg-m/2000〜3500回転
価格:未定
(文/岡崎五朗 写真/&GP編集部、三菱自動車工業)
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