【ジープ コンパス試乗】日本市場にちょうどいい!“泥臭くないジープ”の乗り味が激変

■アメリカで生産されない2世代目コンパス

ここに採り上げる新型「コンパス」は、そんなジープの最新モデル。そして、このコンパスほど、ジープにとって革命的かつ意欲的なモデルはないといえる。なぜなら初代モデルの頃から、車体構造と悪路走破性に関する考え方が、従来のジープとは全く異なっているのだから。

その歴史が始まって以来、ジープは悪路走破性を第一に車体設計を行ってきた。車体はラダーフレームで、エンジンを縦置きにレイアウト。そして、後輪駆動をベースにした4WDには、直結が可能、もしくはデフロックできるシステムを搭載する。その硬派な機構を駆使し、道なき道をしっかり進んでいくのが当然だった。

しかし、2006年に登場した初代コンパスは、そのすべてをひっくり返した。車体は、エンジンを横置きに搭載する、乗用車系プラットフォームを使ったモノコックタイプだし、駆動方式はFFをベースとしたオンデマンド式の4WD。おまけに前期モデルのトランスミッションは、CVTだった。こうしてメカニズムの要素を並べただけでも、ハイレベルな悪路走破性を狙って作られたクルマでないことは明らか。いい方を変えれば「史上初の泥臭くないジープ」であり、いわゆる、シティオフローダー(今でいうクロスオーバーSUV)。新たなる時代に向けたジープの意欲作だった。

ブランドを進化させるために自らの殻を打ち破り、新たな方向性を提示したジープ。それが間違っていなかったことは、昨今の小型クロスオーバーSUVマーケットの広がりをみれば明らかだ。ジープはその後、コンパスの兄弟車である「パトリオット」を発売したのに続き、「チェロキー」のフルモデルチェンジ時には、エンジン横置きのFF乗用車系プラットフォームを使ったモノコックボディを採用。そして2014年には、小型の都会派SUV「レネゲード」を発売するなど、時代に合わせてその商品作りを大きく変化させている。

さて、フルモデルチェンジして第2世代に生まれ変わったコンパスは、果たして何が変わったのだろうか?

まず変わったのは、デザインとメカニズムだ。フロントマスクから、ジープの最上級フラッグシップSUV「グランドチェロキー」を連想させるのは、初代の後期モデルに共通する点だが、モチーフとしたグランドチェロキーは、旧型から新型に変化した。メカニズムは、三菱自動車系のプラットフォーム(初代コンパスの開発時、ジープと親会社のクライスラーは三菱自動車と提携関係にあったので「アウトランダー」などと血縁関係が濃い)から、レネゲードと同様、現・親会社のフィアット系シャーシになっている。

またボディは、先代モデルよりも全長が75mm短縮され、都市部で扱いやすいサイズになったのも興味深いポイントだ。一方で、居住スペースは広く確保されている。特にリアシートの足元にはかなり余裕があり、ファミリーニーズにも十分対応できる。この辺りはふたりで乗るシーンをメインに考えられた、弟分のレネゲードとしっかりと差別化が図られている。

エンジンは2.4リッターの自然吸気。駆動系は、ベーシックグレードの「スポーツ」と中間グレードの「ロンジチュード」が6速ATを組み合わせたFFで、上級の「リミテッド」は9速ATに4WDの組み合わせとなる。電子制御により、必要に応じてリアタイヤへトルクを送るオンデマンド式の4WDは、燃費にも配慮した洗練のシステムといえる。

しかし、試乗して分かったのは、新型になって最も大きく変化したのは、そういったスペックやメカニズムではなく、乗り味だということ。

もちろん、初代モデルもオンロード重視の仕立てであり、それは新型も変わらないが、その味つけはまるで異なる。初代は、路面の衝撃を包み込むように吸収するサスペンションと、ゆったりと巡行する際に落ち着く中立付近が寛容なステアリングフィールの組み合わせで、“アメ車らしさ”を裏切ることのない乗り味だったものの、ヨーロッパの高速道路における“速い流れ”では、やや心もとない操縦性だった。

しかし新型は、それがガラリと変化。硬めのサスペンションに、中立付近のしっかり感が印象的なステアフィールによって高速域での安定感が高く、高速道路などを走行中は、芯のある抜群の直進安定性が印象的。速度が高まっても、レールの上を走っているかのような落ち着きと安心感があり、まるで出来のいいヨーロッパのハッチバックのように、ハイスピードのロングツーリングでも難なくこなす仕立てになっている。アメ車を代表するジープなのに、欧州車的なグローバルモデルになっているのだ。

グローバルといえば、もうひとつ、生産にもその波が押し寄せている。コンパスの生産工場は、ブラジル、メキシコ、インド、そして中国の4カ所で、なんとアメリカでは作られない! アメ車を代表するジープなのに!! ちなみに、日本仕様はインド、そして、アメリカ仕様はメキシコで作られるが、これに関しては、常々「アメリカでモノを売りたいならアメリカで製造しろ」といっているトランプ米大統領の耳に入らないことを祈るばかりだ。

かつてのジープは、アメリカという土台の上に成り立ったブランドであり、アメリカにとってはいわば「輸出もするドメスティックモデル」だった。しかし、新型コンパスは、ジープブランドの未来を見据え、グローバル化を図った世界戦略車へと進化したのだ。実は、そうしたブランドの変化が顕著に表れていることが、新型コンパスで最も注目すべきポイントなのかもしれない。

ジープといえば、驚きのニュースをもうひとつ。なんとジープは、グランドチェロキーのハイパフォーマンスモデル「トラックホーク」を、ここ日本でも正式に販売するという。驚くのはそのパワー。なんと707馬力もあるのだ! これは、先日上陸したスーパーSUV、ランボルギーニ「ウルス」のそれ(650馬力)よりも過激で、もう笑うしかない。これからのジープブランドは、決してあなどってはいけない。

<SPECIFICATIONS>
☆リミテッド
ボディサイズ:L4400×W1810×H1640mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:2359cc 直列4気筒 SOHC(マルチエア)
トランスミッション:9速AT
最高出力:175馬力/6400回転
最大トルク:23.4kg-m/3900回転
価格:419万円

(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)


[関連記事]
【趣味のためのクルマ選び】都会的でも冒険心をくすぐる!ジープ レネゲード

岡崎五朗の眼☆三菱「エクリプス クロス」の真価を雪上で実感。“新時代のエボ”誕生に期待!

吉田由美の眼☆イタリアからモンスターSUV、ランボルギーニ「ウルス」がやってきた!


トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする