■大排気量車のような“ゆとり”ある加速
クリーンディーゼル車とは、日本の“ポスト新長期規制”もしくは、欧州の“ユーロ6”と呼ばれる厳格な排出ガス規制をクリアしたディーゼルエンジンを搭載するクルマのこと。この規制をクリアしないと、日本や欧州ではディーゼル車の販売自体ができないため、現在、各メーカーがラインナップしているディーゼル車は、すべてが厳しい規制をクリアしたものといえる。
先日ドイツからの報道で、裁判所が「ディーゼル車の市街地への進入禁止を実施することは合憲」という判断を下したというものがあったが、その対象はあくまで、古いディーゼル車。もちろん、最新のクリーンディーゼル車は対象外だ。ちなみに日本では、ススの入ったペットボトルを振るという、石原慎太郎元都知事のパフォーマンスをきっかけに、ディーゼル車の排出ガス規制が大幅に強化されてきた。
一方、VWのディーゼル車といえば、避けてとおれないのが“あの事件”だ。2015年、アメリカ市場向けVWのディーゼル車において“排ガス規制逃れ”が発覚。制御システムの不正なプログラムによって、排出ガスのテスト時は作動する排ガス浄化装置が、公道走行時などはきちんと作動しない設定になっていた。結果として、排出ガスに含まれるNOx(窒素酸化物)の量が、意図的に基準を超えていたのである。
もちろんテストとは異なり、実際の走行時には(テスト時の排出ガス基準を守っていたとしても)排出ガスが基準を超えることも少なくない。しかし、国との約束はしっかりと守る必要があり、VWは排出ガス浄化装置の作動を意図的に止めていたことが問題視されたのである。
発覚当初は、排出ガス基準があまりにも厳しいため、技術開発が追いつかずに不正を働いたのではないか、という憶測もあった。しかし実際は、燃費性能やエンジンフィーリング、加速性能などを良くし、顧客満足度を高めたいというのがVWの狙いだったようだ。ちなみに、排出ガス浄化システムはエンジン本来の性能を低下させてしまうため、ディーゼルエンジン開発の現場では、日々、エンジン性能追求と排出ガス浄化性能追求とのせめぎ合いが繰り広げられているという。
というわけで、ついに日本へ上陸したパサートのディーゼル仕様に話を戻そう。エンジンは、2リッターの排気量から最高出力190馬力、最大トルク40.8kg-mを発生。
クリーン性能を高めるべく、PM(粒子状物質=スス)の除去にはDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)を、NOxの抑制には尿素(約1万~1万5000km走行ごとに高品位尿素水“AdBlue”の補充が必要で、メーター内におおよそ残りの走行可能距離を表示)を使用する。
DFC型と呼ばれるディーゼルユニットは、アメリカで不正が発覚したエンジンの次世代型に相当し、完全に新設計されたもの。先の事件は、エンジン本体ではなく、制御の不正が問題となったが、今回日本に上陸したものは、それとは全く異なるエンジンだ。もちろん、それでも心配だという人はいるだろうが、さすがにVWも、あの事件には相当懲りたはず。それを証明するかのように、試乗に先だって行われた商品説明では、ドイツ自動車連盟が行った実走行における測定で、ライバル車よりもNOxの排出量が少なかったことをアピールしていた。
さて、日本に上陸したディーゼル・パサートには、セダンとステーションワゴンの“ヴァリアント”が設定されており、いずれも中級グレードの「エレガンスライン」と上級仕様の「ハイライン」を用意。価格はガソリン車に対し、それぞれ35万円高となる。
ただしディーゼル車は、購入時に取得税と重量税が免税となり、購入翌年の自動車税も減税されるため、ディーゼル補助金(2018年度も継続される見込み)と合わせて15万円以上の差額が相殺される。さらに、ディーゼル車は燃費がいいだけでなく、燃料自体の価格がハイオクガソリン比2/3ほどで済むため、長く乗れば乗るほど車両価格の差が縮まり、かつ走行距離の多い人は、車両価格や維持費の総額が逆転する可能性もある。ディーゼル車を選ぶか否かは、ディーゼルエンジン魅力である力強い走りに加え、そうしたおサイフ事情も決め手となってくるだろう。
さて、気になる走りはどうなのか?
まずは静粛性について。ディーゼル・パサートは、特にアイドリング時において、しっかりとディーゼル車であることを主張してくる。ガラガラというディーゼルエンジン特有のノイズは、その特性上、取り除くのが難しいものだし、どんなディーゼル車でもある程度は聞こえてくるものだ。とはいえパサートのそれは、最新のクリーンディーゼル車としては少々大きめ。ある程度、車速が乗ってくると気にならなくなるが、正直なところ、アイドリング時から微低速域にかけてのガラガラ音は、ちょっと耳障りな印象を受けた。これは、絶対的な音量が大きいというよりも、音質自体の問題かもしれない。音自体が少々尖った感じがするのだ(エンジン単体というよりも、遮音対策に原因があるのかもしれない)。また、一定の速度で巡航中の状態から、ゆっくりとアクセルペダルを踏んでいった際にも、高まってくる音によって、ディーゼル車に乗っていることを強く意識させられる場面が多々あった。
一方、ガソリンの自然吸気エンジンに例えれば、排気量4リッタークラスに相当する極太トルクのおかげで、アクセルペダルを踏み込んでいくと、後ろから押し出されるかのような力強い加速を得られる。回転が上昇していく時のフィーリングも、ディーゼルエンジンとは思えない滑らかさ。そのためこのエンジンを「スポーティ」と評する人が多いのもうなずける。
ディーゼル・パサートで個人的に気に入った点は、例えば、信号が青になった際などにアクセルペダルを少しだけ踏み、スーッと加速していくような場面。ゆったりしているのに速度はしっかり上がっていくという、まるで大排気量車を運転しているかのような“ゆとり”には、爽快感さえ感じた。
それと、やはり燃費だろう。セダンを運転中に高速道路で計測してみたところ、前を行くトラックのスピードに合わせて左車線を走ると、特別な省燃費運転などを駆使しなくても、平均でカタログ記載値(20.6km/L)を超える24.0km/Lに届いた。また、ペースの速い追い越し車線の流れに乗っても、燃費は20.0km/Lを少し下回る程度。この実力の高さはさすがである。
さて、ディーゼル・パサートが似合うのは、どんな人だろうか? 郊外に住んでいる人、もしくは、都会に暮らしていても市街地ではあまり乗らず、週末にまとまった距離を高速移動する、そんな人とのマッチングがいいように思う。そうした使用環境なら、燃料代が安いというメリットを実感しやすいし、渋滞の中を走る機会が少なく、高速巡航が多ければ、このクルマの最大のネガというべき極低速時のガラガラ音も、あまり気にならないからだ。
さらにいえば、個人的にはセダンよりもヴァリアントの方が魅力的に映る。月並みなイメージではあるが、パサート ヴァリアントならではの広いラゲッジスペースにたっぷりと遊び道具を積み込み、リゾートへ出掛けるといったシーンに、ディーゼルエンジン特有の大トルクと優れた経済性がちょうどマッチするからだ。
それにしてもディーゼル・パサートは、玄人受けするモデルだと思う。なぜなら最も売れ筋の「ゴルフ」ではなく、あえてパサートを、VWの記念すべき日本市場向けクリーンディーゼルの第一号車に選んできたからだ。十分過ぎる居住スペースとラゲッジスペースを備える上に、輸入車として考えると車格の割に価格も抑えめ。そんなパサートに最新のクリーンディーゼルを搭載してきたのだから、特に“隠れ名車”に目がない玄人のクルマ好きたちは、注目しないわけにはいかないはずだ。
<SPECIFICATIONS>
☆ヴァリアント TDI ハイライン
ボディサイズ:L4775×W1830×H1510mm
車重:1610kg
駆動方式:FF
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7AT(DSG/デュアルクラッチ式)
最高出力:190馬力/3500~4000回転
最大トルク:40.8kg-m/1900~3300回転
価格:509万9000円
<SPECIFICATIONS>
☆セダン TDI ハイライン
ボディサイズ:L4785×W1830×H1470mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7AT(DSG/デュアルクラッチ式)
最高出力:190馬力/3500~4000回転
最大トルク:40.8kg-m/1900~3300回転
価格:489万9000円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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