■BMWとの共同開発でクルマ作りの原点に立ち返れた
次期スープラを見られると聞いて、ワクワクしながら会場へと向かったジュネーブモーターショー2018。会場ではついに、そのコンセプトモデルが世界初お披露目となりました。とはいえ、今回発表されたのは市販モデルではなく、レースバージョンのGR「スープラ レーシング コンセプト」。
スポーツカーの伝統ともいうべき、ロングノーズ&ショートデッキのフォルムをまとったスープラ レーシング コンセプトは、レーシングカーの定番素材である軽くて剛性の高いカーボンコンポジット材を多用していて、さらに、優れた空力性能と走りを実現するために、張り出した左右のフェンダーや大きなリアウィング、リアディフューザーなどが採用されています。
そのほか、レーシングカー専用のサスペンション、ホイール、タイヤ、ブレーキなどを採用。インテリアも、ロールケージやバケットシート、パドルシフト付きのステアリング、後方確認用モニターなど、レース向けのアイテムを満載しています。
まさに、戦闘意欲が満々といった感じのスープラ レーシング コンセプト。市販モデルではなかったので個人的にはちょっとガッカリだったのですが、気を取り直して、次期スープラに関する疑問などを、チーフエンジニアの方にうかがってきました。
答えていただいたのは、トヨタ自動車の多田哲哉さん。「86(ハチロク)」のチーフエンジニアとしてもお馴染みの“あの”多田さんです。
――今回はなぜ市販モデルではなく、レースバージョンのお披露目となったのでしょうか?
多田さん:次期スープラは、初めからレーシングカーにすることを念頭に開発してきたからです。その方が、量産車をベースにレーシングカーへとモデファイした時に、はるかにマシンとしての完成度が高い。つまり、レースで速く走るために、ベースとなる市販車を磨き込んできたのです。ちなみに次期スープラは、耐久レースのレーシングカー規定である“LM-GTE”クラスに合致させることを目指しています。
――次期スープラの開発はいつ頃からスタートしたのでしょうか?
多田さん:86を発売した直後ですね。2015年に86のヨーロッパ向け試乗会をスペインで開催した時に、会長の内山田竹志から「みんなには内緒で、ドイツ・ミュンヘンのBMWへ行ってこい!」という指令が出たのです。でも、本当に誰にも何も告げず、現地へ向かったので、後で大騒ぎになりました(苦笑)。
BMWとは本当に、互いの意見を出し合いました。今はようやくいろいろと分かってきましたが、BMWとトヨタとでは、まずはクルマ作りに対するアプローチからして違うんです。当初私たちは、BMWとなるべく同じクルマを作り、エンブレムとボディカラーを変えるくらいのつもりでいました。でも彼らは「互いに作りたいクルマが違うのだから、それぞれ のベストなクルマを考えよう。その上で、共通化できる部分と、そうじゃない部分とを見出していこう」といってきたのです。また、開発に投じる期間や予算など、すべて私たちが考えていたものとは違いました。“クルマの作り方”が違ったのです。
――今回、共同開発されてみて、BMWの走りの秘密というのは分かりましたか?
多田さん:BMWのクルマは、ハンドリングや走りがいいと評価されていますが、なぜいいのか、その秘密は分かりません。でも、クルマ作りの関するすべてのやり方が、トヨタとは違うということは分かりました。
彼らは、開発のスタート時点で、ものすごいエネルギーを注ぎ込むのです。クルマの走りの方向性というのは、ホイールベースとトレッドの数値で8〜9割決まります。これまであれこれ考え、やってきましたが、純粋に走る、曲がる、止まるを左右するそれらの黄金比をしっかり決めて、それを軸に、エンジンなどのメカをレイアウトにしていく。そんな基本的なことをきちんとやるのが肝心だということに、今回、立ち返れたと思います。
――スープラとZ4、それぞれが目指している方向性を教えてください。
多田さん:トヨタは、スープラをピュアスポーツカーにしたいと考えていますし、BMWは、Z4をラグジュアリーなスポーツカーにしたいと考えていて、それぞれが互いのベストを目指しています。
トヨタは86を世に出したことで、世界中のスポーツカーファンの情熱を呼び覚まし、それが最終的に、スープラ待望論となりました。特にアメリカ市場からの要望は高かったです。でも、次期スープラは、かつてのモデルのリバイバルではなく、現代のテクノロジーや時代に合ったクルマにしたいと考えました。その結果ぶつかったのが「スープラってどんなクルマ?」ということ。そして、いろいろと考えた結果、ふたつの結論が出ました。ひとつは、搭載するエンジンが直列6気筒であること。そしてもうひとつは、FRレイアウトであるということです。
――次期スープラを開発されるに当たって、ベンチマークにされたクルマはありますか?
多田さん:ズバリ、ポルシェですね。私はスープラを芸術作品にするのではなく、あくまで工業製品としてのスポーツカーにしたいと考えています。そう考えた時に、ポルシェというのはものすごい存在なのです。ポルシェに乗ってすごいなぁ、と感じされられるのは、ハンドリングやエンジンの官能さ。これは次期スープラの開発においても、とても参考になりました。
――ちなみに、次期スープラにMTは用意されますか?
多田さん:現時点では、デュアルクラッチ式のトランスミッションだけでも良いのではないか? と思っています。次期スープラのように大パワーのクルマは、MTだと楽しくないのではないかと思います。エンジンのトルクを上げるとシフトフィールが悪くなりますからね。そう考えると、MT仕様が必要かどうは、とても疑問です。ただし、レーシングカーに搭載されるシーケンシャルタイプのトランスミッションを一般の方にも味わってもらうというのであれば、MT採用の意味はあると思いますね。
ちなみに、私が待望する市販バージョンのお披露目は、2018年の秋くらいになりそうとのこと。いずれにせよ、次期スープラのデビューが今から楽しみです!
(文/吉田由美 写真/吉田由美、トヨタ自動車)
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