■マツダは「21世紀のMT王国」(!?)
かつては多数派だった3ペダル式のMT(マニュアルトランスミッション)ですが、最近では、少量生産の特殊なスポーツモデルや、趣味性の高いグレードに限定的に設定されることが多くなりました。そうしたクルマは、普通より高めのプライスタグが付けられ、伝統技能(←MT車の運転)を活かせる車種として、今後も細々と生き残りそうな雰囲気です。一方、いよいよ絶滅が危惧される種族があります。そう、実用車の、廉価グレードのMTモデルです。
冒頭のフレーズを耳にしていた頃は、最も安いグレードはMTというのが常識で、場合によっては、商用車としても重宝されました。当時としても、MTは“枯れた技術”になりつつあり、つまり、大きな開発費や新規の生産設備が不要なので、安く使えたのです。
しかし、それでも国内のMT市場は縮小を続け“エンスージアスト御用達ブランド”と見なされていたスバルでさえ、現行の「インプレッサ」にはMT車を設定しませんでした!! あらためて、国産コンパクトカーのMTモデルをチェックしてみると…。
レクサス「CT」は、なし。トヨタ「アクア」は、なし。「オーリス」には、ややとがったスポーツモデルとして、6MTの「RS」が設定されます。「ヴィッツ」も同様に、特別なグレードとして、5MTの「GRスポーツ」あり。
日産自動車の「ノート」や「マーチ」も、スポーツグレードの「ニスモS」に5MT車が用意されます。
ホンダ「フィット」をチェックして、初めて廉価版としてのMT車が登場しました! 5MTの「13G F」がそれ。価格はフィットの中で最も安い142万8840円。対極的に、スポーツを売りにしたグレード「RS ホンダセンシング」にも、6MTモデルあり。こちらは205万0920円です。
スバルのインプレッサには、前述したとおりMTモデルはなし。趣味性の高い「WRX STI」(6MT)をお求めください、ということでしょう。
三菱自動車の「ミラージュ」にも、MT車の設定はありません。
スズキは、「スイフトスポーツ」はもちろん、実用ハッチバック「スイフト」にも廉価MTグレード「XG」(5MT/134万3520円)などがあります。「ワゴンR」「ハスラー」「アルト」といった軽自動車にも、それぞれMTモデルあり。
ところが、スズキの好敵手たるダイハツの実用モデルには、MTは設定されません。対照的な品ぞろえですね。
そんな中、マツダはMT王国ですね! コンパクトモデルの「デミオ」はもちろん、そのSUV版である「CX-3」、上位の「アクセラ」、4ドアセダン/ステーションワゴンの「アテンザ」まで、MTモデルがカタログに載ります!!
まさに、21世紀のMT王国となった(!?)マツダに敬意を表して、デミオの6MTモデルに乗ってみました。
「ディーゼルエンジン+MT」という、国内では珍しい車種もラインナップするマツダですが、今回の試乗車は、1.5リッター自然吸気エンジン(116馬力/15.1kg-m)に6MTを組み合わせた「15MB」。M=モータースポーツ、B=ベースモデル、つまり“モータースポーツを気軽に楽しむためのベースモデル”という位置づけです。ちなみに今回の個体は、153万3600円の車両本体価格に、6万4800円のユーティリティパッケージ(ダークティンテッドガラス、分割可倒式リアシート、16インチアルミなど)を追加装備した仕様で、日常の使い勝手にも配慮した1台になっていました。
グレーと白のストライプが部分的に入った洒落たファブリックシートと、ステアリングホイールの位置を丁寧に調整すると、ピシッとした運転姿勢を取れるのがデミオの美点。自然に伸ばした足先にオルガン式のアクセルペダルが生えているのも、贅沢です。
スムーズな6スピードのギヤボックスを操作し、エンジンをフルスケール回して加速すると、ローで約50km/h、セカンドで約90km/h、そしてサードで早くも法定速度を超えてしまいます。15MBのエンジンは、4000回転で最大トルクを発生する設定で、セカンド以降はギヤチェンジのたびに4000回転以上のところにタコメーターの針が落ちるので、力強く、伸びのある加速を味わうことができます。
1.5リッター直列4気筒ユニットの最高出力は、116馬力/6000回転。自然吸気仕様らしい素直な特性の持ち主で、「常にピークパワーを絞り出す!」というよりは、日常的に使う回転域で、ドライバーの意志に沿った「俊敏ながら穏やかなレスポンスを楽しむ」運転が合っているようです。マツダらしい、精緻なエンジンコントロールはMTモデルでこそ堪能できる!…というのは、スイマセン、ちょっといい過ぎですが、ドライバーがより積極的にクルマをコントロールしている気分に浸れるのは、やはりMTモデルならでは。そして、15MBはモータースポーツ向けのベースモデルと謳いつつも、レースとは無縁の人でも十分に楽しめます。
今後、クルマ社会が自動運転に向かうとすると、ドライバーがエンジンコントロールに介入しなければならない…、いい換えると、クルマが自動で制御できる範囲が狭い3ペダル式のMTモデルは、ますます不利な状況に置かれるはず。風前の灯火、といっていいかもしれません。クルマ好きの皆さま、実用車のMTモデルに、今のうちに乗っておくのはいかがでしょう?
<SPECIFICATIONS>
☆15MB
ボディサイズ:L4046×W1695×H1500mm
車重:1030kg
駆動方式:FF
エンジン:1496cc 直列4気筒
トランスミッション:6MT
最高出力:116馬力/6000回転
最大トルク:15.1kg-m/4000回転
価格:153万3600円
(文&写真/ダン・アオキ)
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