■新しい磁石に息づくトヨタのDNA
――レアアースは、廃車などからリサイクルすることはできないのでしょうか?
加藤さん:もちろん、そうした研究も行っています。自動車メーカーとして、磁石メーカーさんから部品を購入するだけでなく、技術者として、どうすれば技術課題を克服できるのかといったアイデアなども提案できるよう、心掛けています。
それらは、トヨタのDNAといいますか、伝統なのかもしれません。いろいろなものをサプライヤーさんから買ってくるだけでなく、なぜ? どうして? を技術研究部署でも考え、試行錯誤しています。磁石も、実際に実験室で作ってみて、分析などを行っています。トヨタには、物事のメカニズムをしっかり理解した上で、原理原則に基づいた研究開発を大切にしようとする風土があるのです。
もちろん、その結果、すぐに新しい材料が生まれたり、使われたりするわけではありません。原理原則に基づいた研究開発を踏まえ、その根っこからいろいろなヒントを得てさまざまなアイデアを膨らませていく、といった感じですね。省ネオジム耐熱磁石の開発でも、単に行き当たりばったりで作るのではなく、チームの仲間といっしょに考え抜き、その原理原則に基づいた技術を生かしていきたいと考えています。
私たちは単に「こんなモノが欲しい」というニーズを出すだけではなく、トヨタのDNAや伝統を残していくために、技術者として「こうしたらものになるかもしれない」といった技術アイデアを自ら試した上で、具体的なレシピを出して提案していきたいと考えます。それら原理原則に基づいた研究開発は、いわゆる“源流品質”にもつながりますからね。研究開発だけでなく、その後の品質を保証する上でどこが重要かを考える場合にも、そうしたプロセスが重要なポイントとなるわけです。
――省ネオジム耐熱磁石は日本初の技術だそうですが、使われている素材のアイデアは、どこから湧き出てきたのでしょう?
加藤さん:職業病なのか、ふと思いつくケースが多いですね。例えば、掃除機はゴミやホコリを吸い取るだけですが、それを逆にし、空気を噴き出してみたらどうだろうか? など、逆転の発想をすることがよくあります。また、夜、眠っている時でも、突然、何かを思いつき、忘れちゃいけないと思って枕元のノートに急いでメモを取ったり、食事をしている時に思いついたりと、どこかにヒントになる何かがないだろうかと、常に考えるようにしています。
――それではこの先、省ネオジム耐熱磁石はどのように進化していきそうですか?
加藤さん:省ネオジム耐熱磁石については、構造などを今まで以上に、より深く突き詰めていきたいと考えています。それを通じて、性能をさらに向上させ、従来の磁石と同等、あるいはそれ以上の強力な磁力を実現させながら、結果としてモーターを小さくし、さらに高性能化も実現させたいですね。
材料開発というのは、多くの場合、目標を立ててもなかなか思いどおりにスンナリと進んでいくものではありません。階段を1歩1歩上がっていく感じです。ネオジム磁石も、1982年に佐川先生たちが発見されて以降、新しい現象や発見があり、新たな知見が得られるたびに論文が出されました。そうした先人の努力があったからこそ、その上に、後進の研究者たちの成果が積み上げられ、結果として今の隆盛につながったと思っています。ですので、結果的に失敗に終わったとしても、解決策やひらめきを実験検証し、論文などで世に公表していくことで、自他ともにその先につなげられればいいと考えています。それらはきっと、なんらかの形で世の中の役に立つと信じています。研究に失敗はありません。失敗も成功の元だということが、日々の研究によって分かってきました。
そのためにも、日々積み上げていって、レベルアップさせていくしかありません。2020年の前半には、電動パワーステアリング用のモーターや電動車向けの駆動用モーターとして、省ネオジム耐熱磁石をなんとか実用化したい。そんな夢を抱き、日々、研究開発を続けています。日本には、高い技術力を持つ磁石メーカーさんが複数存在するという強みがあります。それをさらに強固なものにするために、省ネオジム耐熱磁石を起点に、技術開発をさらに発展させて価格を抑えつつバランスの良い磁石を作ることで、世の中の役に立てたらうれしいですね。
トヨタ車のパワートレインは、HV、PHV、FCV、EVと全方位型ですが、クルマのボディタイプやラインナップも、まさにすき間がないほどの全方位型。だからこそ、自分たちでできることは可能な限り行う、というDNAのお話には納得させられました。それにしても、まさか磁石まで開発してしまうとは…。
そして、今回お話をうかがった加藤さんは、一見、クールなように見えて、実は熱い思いの持ち主。今回のインタビューでも、実験を交えながら、難しい磁石の特性などを分かりやすく丁寧に説明してくださいました。現状、省ネオジム耐熱磁石の市販車への導入は、具体的には決まっていないそうですが、エコ磁石の分野でもトヨタが世界をリードすることを心から願っています。
でもトヨタには、省ネオジム耐熱磁石のように、まだ表には出ていない研究・開発の話題がたくさんあるのかも。実はトヨタって、私たちが思う以上に、面白い会社なのかもしれません。今回、加藤さんの磁石にかける熱意に触れ、その思いを強くしました。
(文/吉田由美 写真/村田尚之、トヨタ自動車)
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