EV&セダンが大盛況も、影の主役はマクラーレン!北京モーターショー2018練りある記

■ショー会場を埋めた“本気”のEV

中国に来ると「政府の施策によって売れるクルマのジャンルが変わる」のがよく分かる。政府が「EVを売る」といったら、それに従うことが、かの国での成功への近道。そうした事情を反映し、中国のモーターショーでは数年前から、EVが多数出展されていた。でもこれまでは「お付き合い程度でやっています」とか「とりあえずつくってみましたが」レベルの車両がほとんど。中には「本当にEVなの?」と思えるクルマも多く、本気度をあまり感じられなかったのだ。

ところが今回は違った。展示してあるEVに本気度が感じられたのだ。それが冒頭の“本気のEV祭”の正体である。

中国は、数年間で自動車大国のアメリカを抜き、世界一の自動車マーケットに成長した。だから世界の自動車メーカーは、それこそトヨタやフォルクスワーゲンといった大衆車メーカーから、メルセデス・ベンツやBMWといったプレミアムブランド、そして、ランボルギーニやマクラーレンといったスーパーカーメーカーまで、中国市場を目指す。もはや中国市場抜きでは商売を考えられないし、極端ないい方をすれば、誰もが中国のご機嫌をうかがっているのだ。そして今や、毎年交互に開催される北京モーターショーと上海モーターショーが、世界で最も注目されるショーのひとつになったといっても過言ではない。

ちなみに、中国で人気のジャンルはSUVとセダン。そして、政府が売りたいのはEV。自ずと展示車両はそれを踏まえたジャンルのクルマが多かった。ここからは、そんな北京モーターショー2018で発表された、気になるモデルをご紹介したい。

◎レクサス「ES」

ついに日本での販売が正式にアナウンスされたラージセダン。全長4975mmというボディサイズを生かした、伸びやかなプロポーションが新型の特徴で「GS」よりも大きく、もはやフラッグシップモデルの「LS」に迫る大きさだ。

これまで日本で発売されてきたレクサスの大型セダンとの違いは、駆動方式をFR(後輪駆動)ではなくFF(前輪駆動)としていること。FFのメリットは、キャビンを広く確保できることで、新型ESも大きなボディを活かし、ゆとりある後席空間を実現。乗員の快適性にこだわった1台だ。日本では2018年秋の発売を予定していて、日本仕様のパワートレインは2.5リッターのハイブリッド。日本デビューが今から楽しみだ。

◎日産「シルフィ ゼロエミッション」

中国市場専用モデルとして日産自動車がお披露目したEVがこれ。プラットフォームやEVユニットは「リーフ」用のものを使い、そこに「シルフィ」のボディを被せた、いわば“シルフィの皮を被ったリーフ”だ。

フロントデザインも日本で販売されているシルフィとは異なり、リーフと同じイメージ。生産は中国で行われ、バッテリー容量はリーフと同様の40kWh。航続距離は中国基準のモードで338㎞を実現している。このクルマもまた、中国マーケットでのセダン人気を反映したモデルであり、日産自動車のEVに対する本気度を感じさせる1台。

◎BMW「コンセプトiX3」

BMWが電気自動車ブランドとして展開する「iシリーズ」初のSUVで、2020年に発売とアナウンスされている。70kWh超という大容量のバッテリーを搭載し、1充電当たりの航続距離は400㎞を上回る。

注目は、iシリーズとして初めて“専用ではない”ボディを採用していること。現在発売されている「i3」や「i8」はカーボン製の専用ボディを採用するが、この「iX3」は市販されている「X3」(ボディはスチール製)をベースに電動化されている。ブランド立ち上げからこれまで、専用開発の車体で特別感を主張してきたiプロジェクトだが今後は「BMWの標準車とボディを共用し、さらなる普及を目指すステップに入った」ことを示唆しているのかもしれない。

◎メルセデス・マイバッハ「ビジョン・メルセデスマイバッハ・アルティメート・ラグジュアリー」

上記したように、中国マーケットでは今、セダンとSUVに勢いがある。だから、セダンとSUVを掛け合わせたクロスオーバーモデルが登場するのは、素直な考えといえるかもしれない。でもそれを、メルセデス・ベンツの最高峰ブランドであるメルセデス・マイバッハがやってしまったのだから驚いた!

最高峰のセダンでありながら、従来とは一線を画し、乗員は周囲を見下ろす視界の良さを手に入れた。もちろん、インテリアは贅を尽くした仕立てで、後席には茶器一式が用意されているのも、中国市場を意識した演出といえる。

このクルマもEVで、容量80kWhのバッテリーを搭載。4つのモーター、最高出力750馬力、航続距離500kmという各スペックは、ちょっと“眉唾”な感もあるが、デザインの完成度が高いだけに、ガソリンもしくはハイブリッドモデルとして市販化される可能性はありそうだ。

◎ポールスター「1」

ポールスターというブランドは、まだあまり知られていないかもしれない。本来は、ボルボのスポーティ仕様を担当するボルボ傘下の組織だった。しかし昨2017年、ボルボにおける“電動車専門ブランド”への転身をアナウンス。その第1弾となるのが、このポールスター「1(ワン)」だ。

大部分がカーボン製だとアナウンスされている専用のクーペボディに搭載されるのは、前輪をエンジン+モーター、後輪をモーターのみで駆動するプラグインハイブリッドシステム。基本的には「XC90」などの“T8ツインエンジン”と同じシステムだが、エンジン排気量が2リッターであるにもかかわらず、モーターと合計したシステム出力がなんと600馬力だというから驚かされる。これは市販予定モデルで、2019年の中頃から生産がスタートするそうだ。

* * *

以上、北京モーターショー2018の注目モデルを紹介したが、実は会場で最も人垣ができていた(あくまでプレスデーでの印象だが)のは、スーパーカーであるマクラーレンのブース。

ニューモデル、マクラーレン「セナ」の人気は別格だった。ブースを囲む“柵”の外には何重もの人垣ができていて、一眼レフではなくスマホで写真を撮っている人、つまり、個人的な写真を記録している人が多かったように見えた。

まるで、EVの洪水のような北京モーターショー2018の会場だったが、会場に訪れた多くの人々の本音は「見たいクルマはEVではなかった」ようだ。

(文&写真/工藤貴宏)


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