■V8エンジンにも似たドロドロとした響きが迫力満点
VWで最もコンパクトなモデルであるup!に、ついにGTIが追加された。2018年1月に、フランスのニースでひと足先に試乗してきたので、その感想をレポートしよう。
まずup!GTIは、ひと目でVWのGTIであることが分かるエレメントが、あらゆる部分に散りばめられている。フロントグリルには、GTIのロゴとともに、赤いストライプが与えられ、ラジエターグリルにはハニカムパターンが採用される。
また、フロントフェンダー上には、他のGTIモデルと同じバッジが与えられるほか、サイドシルの上にもダブルストライプが与えられ、スポーティな印象を強調。ほかにも、大径ホイールの中に赤いブレーキキャリパーが備わり、ルーフエンドにはスポイラーがしっかりと鎮座する。
一方インテリアでは、GTIでは定番といえるチェック柄のスポーツシートに始まり、各部にレッドステッチが施されるなど、VWのGTIならではの設えが、各所に展開されているわけだ。
搭載されるエンジンは「ポロ」や「ゴルフ」のノーマルモデルにも搭載される、999ccの3気筒直噴ターボ“TSI”。最高出力は116馬力/5000〜5500回転、最大トルクは20.4kg-m/2000〜3500回転とされており、そこに6速MTが組み合わせられる。
このエンジンの注目は、ガソリンエンジン用の粒子フィルターを装着した最初のモデルであること。粒子排出量を最大95%も削減しているのがポイントだ。加えて燃費性能は、カタログ数値で21.0km/Lと優秀。それでいて、静止状態から100km/hまでの加速タイムは8.8秒、最高速は196km/hというハイパフォーマンスを実現している。
こうしてみると、up!GTIはコンパクトかつ身近な性能だということが分かる。実際にそのボディサイズは、かつての初代ゴルフGTIとほぼ同じで、性能も近い。開発に携わったスタッフも「up!GTIの開発では初代ゴルフGTIへのオマージュを込めた」という。かつて、大衆車ながらもアウトバーンの追い越し車線を走れる性能を与えられ、スポーツカーを民主化した初代ゴルフGTIのスピリットが、現代のヤンチャなコンパクトハッチにも込められているわけだ。
走らせてみての第一印象は、想像以上に快適性が高い、ということ。最もコンパクトなハッチバックをベースに、GTIの名にふさわしいハードなサスペンションを与えたはずだが、乗ってみると、不思議と硬さは感じない。むしろ、サスペンションはよく動く印象だ。
もちろん、路面の継ぎ目や段差ではビシッといった入力があるが、高速道路などではそのコンパクトさには似つかわしくないほど、落ち着いたフラットライドが得られ、矢のように突き進む。
エンジンも好印象。わずか116馬力/20.4kg-mというスペックだが、全域で最大トルクに近い数値を得られるため、加速はどこからでも頼もしいのだ。しかも、ユニークなのはボリュームアップされた排気音で、3気筒独特のビートが重低音を伴って届けられる。それは、どこかV8エンジンにも似たドロドロとした響き。だから思った以上に迫力があるし、走っていて楽しくなる。
ハンドリングは当然、ノーマル比でスポーティに仕立てられており、身のこなしは実にキビキビしている。このところ、この手のスポーツモデルには、走行モード切り替え機能が与えられるケースが増えているが、UP!GTIは何もナシ。このセッティングこそがすべてで、スポーツドライビングから街乗りまでをこなすわけだ。
そう考えると、味つけは絶妙なところに落とし込んだものといえる。意外なほどにコンフォート性が高いと先述したが、乗り味は全体的にスパルタンというよりも、質の高いスポーティさが表現されている。それは、エンジンにもいえることで、単にハイチューンというよりも、扱いやすいフレキシビリティを備えながら、スポーツテイストを併せ持つ。
この感覚は…と思い巡らせると、今回、up!GTI同時に上陸した新型ポロGTIや、GTIの元祖であるゴルフGTIに共通するテイストだと気づかされる。up!GTIは、VWのGTIの中で最もヤンチャな1台に位置づけられる。だが、他のGTIモデルと同様「日常性を犠牲にしないスポーツモデル」を実現しているのだった。
<SPECIFICATIONS>
☆GTI(写真は欧州仕様)
ボディサイズ:L3625×W1650×H1485mm
車重:1000kg
駆動方式:FF
エンジン:999cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6MT
最高出力:116馬力/5000〜5500回転
最大トルク:20.4kg-m/2000〜3500回転
価格:219万9000円
(文/河口まなぶ 写真/フォルクスワーゲン グループ ジャパン)
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