■決定的な違いはないけれど、やっぱり違うFRと4WD
ここへ来て、プレミアムブランドへと大きく舵を切ったアルファロメオ。ジュリアはその第1弾であるとともに、伝統を継承しつつ新たなブランドイメージを築くという重責を担っています。一方で、象徴ともいうべき頂上グレード「クアドリフォリオ」の印象が強く、他グレードはその影に隠れがち…というイメージがあるかもしれません。
しかし、以前のレポートでも触れましたが、クアドリフォリオ以外のジュリアは決して徒花(あだばな)などではなく、新世代のアルファロメオが目指す軽快な走り、艶やかさや上質さを味わうことができます。また、仕様やグレードによってキャラクターが異なる点も「上位グレード至上主義」のドイツ系ブランドとは異なる魅力といえます。そうなると、新たに加わったFRヴェローチェはどんな走りを見せてくれるのか、どんなキャラクターなのか、気になるというものです。
早速、テストドライブへと出掛けたいところではありますが、まずは、日本市場向けに用意されるジュリアのラインナップについて、簡単に復習してみましょう。
◎クアドリフォリオ
V型6気筒 DOHC ツインターボ
最高出力510馬力、最大トルク61.2kg-m
FR/8速AT/右ハンドル
1132万円
◎ヴェローチェ(4WD)
直列4気筒 DOHC ターボ
最高出力280馬力、最大トルク40.8kg-m
4WD/8速AT/左ハンドル
597万円
◎スーパー
直列4気筒 DOHC ターボ
最高出力200馬力、最大トルク33.7kg-m
FR/8速AT/右ハンドル
543万円
◎ベースグレード(受注生産)
直列4気筒 DOHC ターボ
最高出力200馬力、最大トルク33.7kg-m
FR/8速AT/右ハンドル
446万円
というのが、従来のグレード展開でした。
ここに新たに加わったのは、上位グレードであるヴェローチェ、つまり280馬力のエンジンを搭載するモデルのFRバージョンですが、駆動方式が違うほか、ハンドル位置も4WD仕様が左ハンドルなのに対し、FRは右ハンドルとなります。
また、駆動方式の変更に伴い、タイヤ&ホイールは4WDの225/45R18という前後同径サイズから、フロント225/45R18、リア255/40R18へと改められました。エクステリアやインテリアは4WDモデルに準じており、違いはといえば4WD仕様であることを示す“Q4”エンブレムの有無、フットレストの材質が異なる程度です。
ジュリアはアルファロメオのフラッグシップサルーンとして、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのドイツ御三家に真っ向勝負を挑むモデルですから、各種装備も充実しています。ヴェローチェでは、歩行者検知機能付きの前面衝突警報や自動緊急ブレーキといった先進安全装備はもれなく搭載されますし、アダプティブクルーズコントロールやブラインドスポットも標準装備となります。
インテリアは、電動調整機能の付いたスポーツタイプのレザーシート、14スピーカーの“ハーマンカードンプレミアムオーディオシステム”が備わるなど、プレミアムスポーツセダンを名乗るのに十分な設えとなっています。さらに、ドライバーズカーであることを意識させるメーターパネルの意匠や、マテリアルやカラーのコーディネーションも、どこか生真面目さを捨てきれないドイツ御三家とは異なる、大人の遊び心を感じさせる部分かもしれません。
エクステリアは手堅くまとめられており、プレミアムサルーンらしい落ち着きあるたたずまいとなっています。とはいえ、ひと目でアルファロメオと分かる盾形グリルは主張を感じますし、街中にあふれるライバルの中にあっても、そのたたずまいは思わず目を惹きます。また、ヴェローチェはスポーティさをアピールする専用形状の前後バンパーが与えられているのも特徴です。
といった具合に、内外装も魅力的ではありますが、やはり注目したいのはその走り。エンジンそのものはFR、4WDともに共通の、2リッター直4 DOHC ターボを搭載しており、最高出力は280馬力、最大トルクは40.8kg-mを発生します。クアドリフォリオの510馬力はシリーズにおいて突出していますが、280馬力という数値はドイツ御三家のライバルに比べると、大きなアドバンテージを有しています。
それでは、実際に公道へと歩みを進めましょう。ドライブモードを切り替える“Alfa DNA”を「N(ナチュラル)」もしくは「A(アドバンスドエフィシエンシー)」にセットしておけば、サルーンらしい落ち着いた走りを披露します。とはいえ、そこはやはりアルファロメオ。走りと燃費を両立したNモードでも、アクセルペダルを踏み込めば右足の動きにリンクしたスムーズで力強い加速を味わえますし、タコメーター上のレッドゾーンである5500回転までよどみなく回ります。また、8速ATの反応も良好で、変速も極めてスムーズ。ステアリングコラムに備わるシフトパドルの操作感も良く、積極的にマニュアル変速を楽しみたいと思わせる感触です。
とはいえ、その本領が発揮されるのは、やはり「D(ダイナミック)」モードに切り替えた時でしょう。エンジンの反応はひと際シャープになりますし、ステアリングやブレーキ、電子制御系も、よりダイナミックで機敏な反応を見せるようになります。
ひとたび右足に力を込めれば、心地良いビートのエキゾーストサウンドを伴って、周囲のクルマたちを瞬く間にリードしますし、ワインディングロードや高速道路のコーナーでも、こぶしひとつ、ふたつ分のステアリング操作だけで、ノーズがスッと方向を変えるのは快感ですらあります。
では、4WDヴェローチェとの違いはどこにあるのでしょうか? 今回、市街地、ワインディングロード、高速道路とさまざまなシチュエーションを走りましたが、結論からいえば「決定的な違いはないけれど、やっぱり違う」という微妙なところ。
動力面やフィーリングに影響しそうな要素としては、駆動方式のほか、車両重量が1630kgと4WD仕様より40kg軽量であるということ。数値でみればわずか2%ほどの違いですから、明確にカラダで感じるということはありません。体感できる数少ない相違点としては、コーナリング中にアクセルをオン/オフした時のノーズの動き、ステアリングの反応などが挙げられますが、FRモデルの方がより自然で滑らかな感触に仕上がっています。だからといって、4WDモデルの反応に“雑味”があるのかといえば、そんなことはありませんし、雨天のコーナーなどでは、ステアリングを通じてかすかに伝わる“フロントタイヤが駆動している”という感触が心強くもあります。
そのほか、些細な点ではありますが、コロコロとビートを刻むエンジンサウンドは、4WDモデルの方がより明確で、スポーティなドライビングシーンでは気分が盛り上がるかもしれません。ただしこの辺りは、製造タイミングによる仕様変更や改良による違いといった可能性もありますし、価格差はわずか10万円ですから、ご試乗の際は両モデルの乗り比べは必須かもしれません。
ともあれ、ドイツ御三家がマーケットを席巻するプレミアムサルーンクラスにあって、ジュリア ヴェローチェの個性的なたたずまいと、軽快かつ力強い走りは大きなアドバンテージであるのは間違いありません。些細な違いではありますが、FRモデルでアルファロメオらしいドライビングの楽しさを取るか、4WDモデルの安心感・安定感を取るか…と真剣に考えてしまう辺り、冷静さを失わせるというアルファロメオのヘビ毒が、筆者の体にはすっかり回ってしまっているのかもしれません。皆さまもご試乗の際はご注意を。
<SPECIFICATIONS>
☆ヴェローチェ(FR)
ボディサイズ:L4655×W1865×H1435mm
車両重量:1630kg
駆動方式:FR
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:280馬力/5250回転
最大トルク:40.8kg-m/2250回転
価格:587万円
<SPECIFICATIONS>
☆ヴェローチェ(4WD)
ボディサイズ:L4655×W1865×H1435mm
車両重量:1670kg
駆動方式:4WD
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:280馬力/5250回転
最大トルク:40.8kg-m/2250回転
価格:597万円
(文&写真/村田尚之)
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