■海外生産バイクながらデザインやクオリティは上々
スズキ「ジクサー(GIXXER)」は、同社のインド法人であるスズキ・モーターサイクル・インディアが手掛ける、154cc単気筒エンジン(14馬力)搭載モデルです。2014年にデビューし、主にインド、東南アジアで販売されていました。日本でも一部のバイク好きの間で話題になっていましたが、昨2017年、ついに日本でも発売されました。
…いきなり話がズレますが、その前年である2016年に、4輪車のスズキ「バレーノ」が国内に導入された時には「ついにインド製の完成車が日本で販売される!」と、クルマ業界とその周辺では、ずいぶんと話題になりました。
でも、2輪ユーザーの中には「何を今さら!?」と感じた人も多かったのではないでしょうか。国内メーカーの2輪ラインナップは、ベーシックなモデルを中心に、アジア諸国からの輸入バイクなしでは構成できない。そうなって久しいですから。
日本国内の2輪マーケットは、40万台にも届かない約37万台。目をアジアに転ずると、タイが174万台、インドネシアが556万台、中国が799万台、そして、世界最大のバイク市場たるインドは、なんと1764万台!(いずれも2016年)。これはもう、ビジネスの軸足を国内外のどちらに置くべきか、論ずるまでもありませんね。
ユーザーが多ければお金が集まり、開発費が回り、人材がそろい、モータリゼーションの熱気とともにバイクのクオリティが上がり、バリエーションも広がる…。やたらと風呂敷を広げましたが、それはともかく、かつては“アジアンバイク”と軽く見られていたモデルたちが、今では日本産と比較してなんら遜色ない製品となりました。むしろ、個性的なバイクを比較的リーズナブルに購入できるありがたい存在に! 今って、実はバイク乗りにとっては意外といい時代なのかもしれません。
ジクサーの希望小売価格は32万1840円。150ccクラスにして、一般的な125ccモデルよりお安い価格です! 念のために復習しておくと、150ccクラスは“軽二輪自動車”として高速道路を走れますが、125ccは“原動機付き自転車(第二種)”なので高速道走行は不可。どちらのクラスも、車検はありません。
実車を前にすると「ちょっとイタリアン入ってる?」と思わせる(←個人の感想です)スポーティなルックスが印象的。ジクサーがインド市場に現れたのは2014年なので“パリパリのブランニューモデル”というわけではないのですが、そのスタイルに古さはありません。
テールランプはLED。メーターパネルは、スマートフォンを模したというフル液晶デジタル。しっかりポイントを抑えています。
早速シートにまたがってみると、シングルエンジンのバイクらしく、車体が細い。後ろ目に座ると、タンクをホールドするのが難しいくらい。ライディングポジションは、楽ですね。わずかに手前斜め上方に向けられたバーハンドルを握ると、背筋を伸ばし気味にしたアップライトな姿勢になります。
シート高は意外に高い785mm。身長165cm(足短め)の自分では、両足つま先立ちになります。さらに悪いことに(!?)、前後一体となったタンデムシートは、座面が後方に向かうに従ってゆるく上方にスロープしているので、後ろ目に座ると、シート高がさらに高くなる。左右方向に傾斜が付いた(歩道側が低くなった)道路などでは、停車時に思いのほか地面が遠くて(涙)、一瞬、ドキッとします。ボディが135kgと軽いので大過はないけれど、試乗中、何度か冷や汗をかいたことを報告しておきましょう。
いざ走り始めると、154ccの単気筒ユニットは、野性味ある鼓動を響かせながら野太く回ります。カタログによると、14馬力の最高出力発生回転数は8000回転だけれど、普通に走っていると、そこまでは回さない。もちろん、意識して回せば1万回転付近まで引っ張れます。でも、自らはあまり回りたがらないシングルカムユニットゆえ、最大トルクを発生する6000回転付近までエンジンをうならせれば、もう「お腹いっぱい」。さっさとシフトアップするが吉ですね。
反面、極低回転域から街中で常用する4000回転前後のトルクは実に豊かで、うっかりすると“150ccクラス”であることを忘れてしまうほど。ジクサーに使われるSEPユニットは、ボア×ストローク=56.0×62.9mmのロングストロークタイプ。スタート時には、クラッチをつないでスロットルをひねった瞬間、ドッと太い駆動力が繰り出されます。「オッ!」と思わせる力強さがあって、135kgの軽量ボディをグイグイと走らせる。絶対的には“際立って速い”わけではないと思うのですが、中回転域を使ってトルクでジクサーを駆り立てるのは、なかなか爽快! 元気が出ます!!
操作系は、総じて軽い。クラッチが軽いのは助かるけれど、右手のブレーキフィールが軟調で、手応えが弱いのに最初は戸惑いました。制動力自体は十分なので、慣れの問題といっていいかもしれません。ちなみに、フロントのブレーキキャリパーには、ブレンボ由来の“バイブレ”がおごられています。歓喜。
乗り心地は、スポーティなルックスにふさわしい、しっかりしたもの。インナーチューブ径41mmという太めのフロントフォークの恩恵で、ステアリング周りの剛性感が高いのが、意外な隠し味になっています。リアサスペンションには7段階の調整機能が備わりますが、おそらく多くのオーナーの方は“つるし”のまま乗ることでしょう。やや硬めとはいえ、一般道でも不満はありません。
ジクサーの後輪には、このクラスのバイクとしては珍しく、標準でラジアルタイヤが装着されます(前輪はバイアスタイヤ)。トルクでグイグイと行くタイプなので、性能面はもちろん、タイヤライフの面でもありがたい選択です。
ジクサーをお借りするにあたって、スズキのスタッフの方に「どんな人が買っているんですか?」と尋ねたところ、まず「最初のバイクとして学生さんが」とのこと。納得。背伸びしないバイクライフ、楽しそうですね。
続いて「ツーリングにも行きたいけれど、置き場所がないので大型はムリといった人」。なるほど。150ccなら高速に乗れますからね。勝手な想像ではありますが、スペースの問題に加え、お小遣いの問題もあるのでは。限られた予算で複数の趣味に勤しむ場合、手頃な価格で万能性に優れるジクサーは、まさに“賢い買い物”といえましょう。
そして、最後の答えが興味深かった。「高速道路…というより、有料道路を使えるバイクが欲しいお客さま。家の近くに有料道路があって、それが使えると便利だから」と。ジクサーの購入理由として、ヒザを打つ回答ですね!
スズキのジクサーは、イケメンルックで乗ると楽しいバイクだけれど、そのベースは高い実用性にある。疲れにくい姿勢と使いやすいエンジン特性。休みの日のツーリングもいいけれど、毎日の通勤・通学に使ってこそ、ジクサーの真価は発揮されるのかもしれません。
ジクサーのトランスミッションは、コンベンショナルな5スピード。単気筒をフルスケール回すと、4速で100km/hに達します。高速道路での100km/h巡航は7250回転。余裕が感じられて扱いやすい6000回転では、トップギヤで約85km/h。この辺りが実用的な巡航速度でしょう。
高速道路でも実用的なジクサーですが、軽量モデルの宿命として、横風には気を遣います。時に突風によって進路を乱されることも。毎日のアシとして同車を愛用している、または、しようとしている方々、どうぞ風の強い日にはご用心ください。
<SPECIFICATION>
☆ジクサー
ボディサイズ:L2005×W785×H1030mm
車重:135kg
エンジン:154cc 単気筒 SOHC
トランスミッション:5速MT
最高出力:14.0馬力/8000回転
最大トルク:1.4kg-m/6000回転
価格:31万6440円
※ジクサーは2018年5月に新色を発表。性能諸元などは不変ながら、ボディカラーが「赤/銀」、「黒/青」、「黒」の3色に。なお試乗車のカラーリングは、それ以前のもの
(文&写真/ダン・アオキ)
[関連記事]
【ホンダ クロスカブ 110試乗】実用バイクの王者がアウトドアテイストでグッとおしゃれに!
【ホンダ CRF1000L アフリカツイン試乗】納期未定!?デカいツアラーバイクがバカ売れの理由
【試乗】“駆け抜ける歓び”はバイクも健在!先進的なBMWモトラッドの真価とは?
- 1
- 2