■CX-3を進化させるべく1.8リッターディーゼルを新開発
新型CX-3でまず驚いたのは、静粛性を高めるための細かい改良。前後ドアのアウターパネル(外側の鉄板)を0.65mmから0.7mmに厚くし、リアドアのガラスも3.5mmから4.0mmへと板厚アップ。さらに、天井の内張りも6mmから8mmへと厚くするなど、聞いた瞬間「そんなところまでやるの?」とびっくりしてしまうほど、細かい場所まで手が加えられている。
もちろん、普通のマイナーチェンジでは、ドア外板の厚さまで見直すことなどない。CX-3の今回の改良は、もはやエンジニアの執念といってもいいレベルだ。そして、単に外から車内に入る音を減らすだけでなく、居住空間の反響特性まで考えて静粛性を高めてきたという。
こうした静粛性向上だけに留まらず、今回の改良メニューを見ているだけで「最良のモノを作ろう」というこだわりが、ひしひしと伝わってくる。新しくなったことをアピールするためには、エクステリアデザインを変えるのが手っ取り早い手法だ。しかし、今回のCX-3の改良において、外観の変更はごくわずか。意匠が変わった箇所は、ラジエターグリルやリアコンビネーションランプ、そして、アルミホイール程度とさり気ない。
実は、フォグランプベゼルやピラーガーニッシュ、サイドガーニッシュモールがグロスブラック化され、上質感を高めるのにひと役買っているのだが、パッと見て従来モデルとの違いを見分けられるほどの大きな変化は生じていない。だから外観における新型のアピールは控えめだ。
しかし、といってはなんだが、インテリアの変更箇所は少なくない。最大のトピックはセンターコンソールの刷新で、パーキングブレーキがレバー式から電動式に切り替わったことが大きなポイントとして挙げられる。その背景にあるのは、追従型クルーズコントロールの進化。渋滞時の自動停止&停止保持まで行う全車速対応型へとバージョンアップされたことで、パーキングブレーキの電動化が必須になったからだ。
電動式のパーキングブレーキは、レバー式のそれに比べて車内で占めるスペースが小さくて済むため、副産物として従来モデルにはなかったセンターコンソールボックスが追加された。こうしたセンターコンソールひとつとっても、単に見た目で新鮮さを演出しようというのではなく、しっかりとした機能面の裏づけがあった上で新意匠となっているのだ。
とはいえそれも、あくまで“目に見える進化のひとつ”でしかない。見た目は変わらないけれど、実は中身が大きく変わっているのが、新しいフロントシートだ。改良モデルでは、座面に“高減衰ウレタン”を採用。これは全体の強度が高く、人が座った際に一部ではなく、全体がたわむという特性を持つ。そのため、体圧分布が均一化され、乗る人がお尻全体で体重を支えられるようになっている。また高減衰ウレタンは、振動減衰性が高い分、車体の振動が分散されて乗る人へ伝わりにくいというメリットを持つほか、表面自体も柔らかいのでフィッティングがいいなど、長所の多い素材なのだ。
また改良版CX-3は、昨今のクルマ選びにおいて欠かすことのできない、安全性能についても一段と進化している。最新のマツダ車は、どれも自動ブレーキなど先進安全装備のテスト成績が良く、業界でも一目置かれる存在となっているが、新しいCX-3は、自動ブレーキにおける夜間の歩行者検知機能をマツダ車として初めて採用するなど、さらなるアップグレードが図られた。そのほか、車両周囲をモニターで確認できる“360°ビューモニター”を全グレードにオプション設定するなど、日常における運転のしやすさも、ひと際高い水準へと引き上げられている。
こうした多岐にわたる改良の中でも、ハイライトのひとつといえるのが新エンジンの導入だ。CX-3にはガソリンとディーゼルが用意されるが、前者には今回、新形状のピストンやインジェクターなどを採用。燃焼室形状の変更による耐ノッキング性能の向上、燃料噴霧の進化、そして、冷却水制御の変更などにより、全域でトルクアップを果たすとともに、実用燃費を改善している。
正直なところ、今回の試乗では、トルクアップの恩恵を体感するのは難しかったが、ドライバビリティを高めた上に実用燃費も良くなっているというのだから、これからガソリン仕様のCX-3を買おうという人にとってはうれしい進化といえるだろう。
一方のディーゼルエンジンは、排気量を従来の1.5リッターから1.8リッターへと拡大した。マツダにはこれまで、1.8リッターのディーゼルエンジンは存在しなかったが、CX-3を進化させるべく新開発したのである。
さすがに排気量が2割アップすれば、従来モデルとの実力の違いはよく分かる。特に印象的だったのが、高速道路走行中の追い越し時や、インターチェンジなどにあるETCゲート通過後の加速など、いわゆる中間加速域でアクセルペダルを踏み込んだ際の反応の良さだ。1.5リッター時代よりも反応がいいだけでなく、スーッと加速していくように感じられる。最大トルクは従来モデルと変わらない(最高出力は11馬力アップ)が、エンジンのレスポンスが良くなったことの恩恵なのだろう。
そして、今回の改良におけるもうひとつの大改革が、サスペンションの味つけを変えたこと。開発主査の冨山道雄氏によると「従来モデルは乗り心地が悪いとの指摘を受けたため、新型では路面から伝わる衝撃を和らげるよう配慮した」という。
変更点は、前後サスペンションのダンパー応答性のアップや、スプリングの変更(柔らかくした)だけでなく、リアアッパーマウント変更による減衰性の向上、フロントスタビライザーの小径化など、広範囲に及ぶ。またタイヤも、サイド面の剛性を柔らかくした専用構造のものを、CX-3だけのために新開発するなど、かなり力が入っている。
では、それらの改良によって、目的は達成できているのだろうか? 確かに、段差を超えた時などの突き上げは和らげられていて、シート上でカラダを揺すられる大きさがマイルドになっているのをしっかり体感できた。開発陣の狙いはしっかり果たせているから、この改良はファミリーユーザーなどには喜ばれることだろう。
ただ一方で、衝撃を受けた後の振動の収まりは、従来モデルよりも長引く状況(収束性の悪化)がわずかに感じられるシーンもあった。これは乗り心地に対する好みの問題だが、中には、衝撃こそ大きかったものの、締まりがあった従来モデルの方が嗜好に合う、と感じる人もいるかもしれない。
いずれにせよ、マツダのクルマに向き合う真摯な姿勢、そして、クルマをどんどん良くしていこうというこだわりには、頭が下がる思いだ。見た目の新鮮さではなく、エンジンやサスペンション、そして、静粛性や乗り心地といった部分にまで細かく手を入れてきた新型CX-3に触れ、そんな思いがますます強まった。
<SPECIFICATIONS>
☆20S プロアクティブ Sパッケージ(ブルー/FF/6AT)
ボディサイズ:L4275×W1765×H1550mm
車重:1250kg
駆動方式:FF
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:6速AT
最高出力:150馬力/6000回転
最大トルク:19.9kg-m/2800回転
価格:243万円
<SPECIFICATIONS>
☆XD Lパッケージ(レッド/4WD/6AT)
ボディサイズ:L4725×W1765×H1550mm
車重:1370kg
駆動方式:4WD
エンジン:1756cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:116馬力/4000回転
最大トルク:27.5kg-m/1600〜2600回転
価格:306万2080円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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