■10kWの小型モーターで力強い出足を演出したe-BOXER
ーー新型フォレスターには、インプレッサに先行導入され高評価を得ているSGPが採用されました。
岡崎:SGPで車体剛性が大幅にアップし、それに伴い、サスペンションの構成も一新されたおかげか、新型フォレスターをドライブしてみると、1ランク、いや、2ランクくらい走りがレベルアップしたように感じるね。
走行中のクルマの動きがより滑らかになって、コーナーを自然に、そしてきれいに曲がっていく。身のこなしが、ドライバーの意思に対してより忠実になった印象。ハンドルを切ったら切った分だけ素直に曲がってくれるし、ハンドルを切った時の“初期応答”にも遅れが感じられない。
だからといって、クルマの向きがクイックに変わり過ぎることもなく、早すぎず遅すぎず、ちょうどいいタイミングでドライバーの思ったとおりに曲がっていく。本当に良くできたフットワークだよね。
ーー曲がり過ぎる、クイック過ぎるとった過敏な反応ではなく、ドライバーがクルマと一体になったかのように気持ち良く曲がっていきますよね。これぞ大人のためのクルマ、といった乗り味でした。
岡崎:単にスパイスを効かせてごまかしたような味じゃなく、ベースとなるルーの部分からきちんと作り込んだカレーを食べた時のような、奥深さを感じるフットワークだよね。
ーー新型フォレスターの走りに関して、真新しい機構といえば、なんといっても「アドバンス」グレードに採用された“e-BOXER(イー・ボクサー)”だと思います。2リッターの水平対向4気筒DOHC直噴エンジンにモーターを組み合わせた、一種のハイブリッド機構ですが、モーターの最高出力は10kW(13.6馬力)に過ぎません。これで、どのようなメリットを得られるでしょうか?
岡崎:発進時や低速走行時はモーターだけで駆動するし、下り坂では積極的にエンジンを止めてくれるe-BOXERだけど、一般的なハイブリッドカーのように、いかにも「モーターで走ってます!」といった感覚は薄いね。
10kWというモーター出力は、ハイブリッド車としてはとても小さい。だから燃費に期待しちゃうと、ちょっとガッカリするかもしれないな。つまりe-BOXERは、燃費だけを追い求めたハイブリッド機構ではないということ。
では、モーターの10kWをどのように活用してきたのか? モーターのメリットとして一番分かりやすいのは、レスポンスがいいこと。スバルの開発陣はその美点をうまく利用し、分かりやすい形でe-BOXERならではの走りを演出していると思う。特に、走行特性を自在に使い分けられる独自のドライブアシストシステム“SI-DRIVE(エスアイ・ドライブ)”で「S(スポーツ)モード」を選んで走っていると、アクセルペダルを軽く踏んだだけで、クルマがスッと前に出て行く感覚がある。
比較用に用意されていた、先代フォレスターの2リッター自然吸気エンジン搭載車の場合、エンジンがドライバーの意思に反応してくれるまで、一瞬、タイムラグがあり、そこにCVT独特の反応遅れも重なって、正直いって、アクセルペダルを踏んでからクルマが加速してくれるまで、1.5テンポくらいの遅れを感じた。e-BOXERはそうしたタイムラグを、モーターがうまくカバーしている印象だよね。
ーースバル独自のパワーユニットが持つ弱点みたいなものを、モーターが上手に補完していますよね。
岡崎:例えば、2リッター自然吸気エンジンを積む先代フォレスターのオーナーが、街中でe-BOXERに乗ったとすると、排気量などは同じはずなのに「これは全然違うパワーユニットだ!」と驚くんじゃないかな。交差点で信号が赤から青に変わった時の出足や、高速道路を巡航中にアクセルペダルをスッと踏み込んだ時のレスポンスなどは、自然吸気エンジンよりも明らかに良くなっている。
ハイブリッド車というと、燃費が良くなるのと引き換えに、走行フィールに違和感を覚えるクルマも少なくない。けれど、e-BOXERはそうした違和感もなく、モーターの美味しいところを上手に使いながら、自然に気持ちよく走れるように仕立てられたパワーユニットだといえるね。
ーー「ツーリング」、「プレミアム」、「X-BREAK(エックス・ブレイク)」の3グレードに搭載されるもうひとつのパワーユニット、2.5リッター水平対向4気筒DOHC直噴エンジンの印象はいかがでしょう?
岡崎:個人的には、2.5リッターの方が好きだね。アクセルペダルを踏み込んだ直後のレスポンスこそe-BOXERの方に分があるけれど、2.5リッターの場合、その後も加速が長続きし、自然にスピードが伸びていく感覚がある。e-BOXERの場合は、モーターアシストの恩恵で出足こそいいけれど、その先の加速は、結局、2リッター自然吸気エンジンのレベルでしかない。頭打ち感というか、なんとなく息切れしてしまう印象があるんだよね。
ーーe-BOXERは、アクセルペダルを踏んでしばらくの間は、クルマが押し出される感覚が強いのですが、その先の領域になると、ちょっともどかしく感じることもありました。
岡崎:2.5リッターは、上の回転域で“プラス500cc”のゆとりを感じられて、直線的にスピードが伸びていく。だから、ドライバーが望むだけの加速を、より自然なフィーリングで手に入れられるんだ。それに4気筒とはいっても、スバルの水平対向エンジンはすごく滑らかに回るし、高回転域まで回してもイヤな雑味が感じられないから、すごく気持ちいいよね。そうした点も、2.5リッターの魅力だと思う。
交差点などのストップ&ゴーが多く、全開加速のシーンがさほど多くない街中をキビキビ走れるのはe-BOXER、高速道路や山道、ワインディングロードなど、いろんなシーンを走って気持ちいいのは2.5リッター、というのが、新型フォレスターにおけるパワーユニットの位置づけだね。
ーーちなみに新型フォレスターでは、歴代モデルに設定のあったターボエンジンがなくなってしまいました。この点については、どのようにお考えですか?
岡崎:できれば設定して欲しかった、というのが正直なところ(苦笑)。でも、2.5リッターでも速さは十分だし、ステーションワゴンの「レヴォーグ」と差別化を図るという点でも、今回のスバルの決断は納得できるかな。
ーー個人的には「レヴォーグに設定があるのなら、フォレスターにも用意してよ」と少し残念に思いました。
岡崎:仮定の話に過ぎないけれど、もし将来的に、レヴォーグで人気のスポーツグレード「STIスポーツ」がフォレスターにも用意されたなら、それにターボエンジンを積むのはアリかもしれないね。多くを望み過ぎるのは、スバルに対して酷な話かもしれないけれど。
ーーSTIスポーツなら、車高を下げてオンロードを意識したモデルになるでしょうから、パワーユニットの面でも特別感を出して欲しいですね。