【ベンツ 新型Gクラス試乗】39年分の進化は伊達じゃない!走破力と快適性は新たな次元へ

■新型Gクラスの進化に“新時代の幕開け”を実感

数年前、Gクラスがいよいよモデルチェンジするというウワサが流れ始めた時「ついに、ひとつの時代が終わるな…」と、感傷的な気分になった人もいるのでは? 筆者もそのひとりですが、新型デビューの知らせとともに公開された写真を見て、まずはひと安心。従来型のイメージをしっかり受け継いだ新型の姿を見て、ホッと胸をなでおろしたのです。

従来型Gクラスが登場したのは、1979年のこと。NATO(北大西洋条約機構)の軍用車両という用途も考慮された4輪駆動車として、初代W460型がデビューを飾りました。その後、性能の向上や居住性の改善を図るなど進化を重ねますが、中でも大きなターニングポイントとなったのは、1989年のW463型でしょう。プロ向けツールとして継続生産されるW460型Gクラスをベースとしながら、フルタイム4WD機構やラグジュアリーな内外装が与えられたのです。

とはいえ、群を抜く走破力からは“最善か無か”、“質実剛健”というメルセデス・ベンツらしい信念が感じられましたし、そのデザインも“形は機能に従う”とばかりに、シンプルではあるものの、オフロード車らしい力強さを備えていました。

もちろん、今回の新型の開発に当たっては「デザインを大胆に変える」という手もあったはず。それでもあえて従来型のイメージを受け継いだのは、築き上げてきたイメージを守るという保守的な考えだけでなく、従来型への敬意、そして、オフローダーとしてのこだわりは不変、という開発陣の決意表明なのではないでしょうか。

前置きが長くなりました。期待に胸を弾ませて向かった富士山麓のオフロードコースで初対面した新型Gクラス。今回はテストドライブ用として、最高出力422馬力の4リッターV8ツインターボエンジンを積む「G550」と、最高出力585馬力の4リッターV8ツインターボを積む頂点モデル、メルセデスAMG「G63」、そして比較用として、従来型「G550」の3モデルが用意されていました。

20~30m離れた場所から眺めただけでは、違いをいい当てるのが難しいほど、そのたたずまいは誰もが思い描くGクラスそのもの。ちなみに、形式もW463型を継承していますが、従来型からキャリーオーバーしたパーツは3点のみ。ドアハンドルとスペアタイヤカバー、そして、ヘッドライトウォッシャーノズルだけとのこと。

確かに、エクステリアを細かく観察すると、フロントグリルやバンパー回りの造形が洗練されただけでなく、フロントウインドウやサイドウインドウも従来の平面ガラスではなく、かすかに湾曲したものに変更するなど、刷新が図られていることが分かります。何より、全く異なるのがボディサイズで、新型G550は全長4817mm(従来型比プラス53mm/欧州参考値)、全幅1931mm(同プラス64mm)、全高1969mm(同プラス15mm)、ホイールベース2890mm(同プラス40mm)と、ひと回り大きくなっています。

となると、車両重量の増加が心配になりますが、高張力/超高張力スチールやアルミなどの採用や、パーツ設計の最適化を行ったことで、2354kgと従来型と比べて約170kgの軽量化に成功しています。さらに、オフロード走破力の指標となるアプローチアングルは31度(従来型比プラス1度)、デパーチャーアングルは30度(同±0度)、ランプブレークオーバーアングルは26度(同プラス1度)と、基本性能の向上を図っています。

こうした数値からも分かるとおり、メカニズムは完全に刷新されているのですが、特に注目すべきは、ねじれ剛性55%アップを達成した新設計のラダーフレームと、リジッドアクスルから独立懸架のダブルウィッシュボーン式へと変更されたフロントサスペンション、そして、ボール&ナット式からラック&ピニオン式へと改められたステアリング機構でしょう。

これらはオフロード走行の実力を左右する大事な部分ですが、フレーム剛性の向上によるメリットは想像しやすいものの、クロスカントリー4WDに詳しい人であれば、サスペンション形式とステアリング形式の変更には疑問を抱かれるかもしれません。確かに、足回りはリジッドアクスル式の方が信頼性や整備性では有利ですし、地上高も確保しやすいという利点があります。また、ステアリングもボール&ナット式の方が外的要因を受けやすいオフロード走行では、キックバックが穏やかになるという長所があるのです。にも関わらずメルセデス・ベンツが刷新してきたということは、従来の形式に固執する以上のメリットがあるということ。そして、その選択が正解であったことは、走り出してすぐに納得できました。

まずはG550のキーを受け取り、オンロードへと向かいます。運転席へと収まる際、Gクラスを知る方なら、必ずニヤリとするだろう出来事がありました。ボタン式のドアノブを押し込み、ヒップポジションが高めのシートに腰を下ろし、ドアを閉じると「ガチャン」という懐かしい音が。そう、従来型と同じドアの開閉音が響くのです。実際は、同じ音が聞こえるよう徹底的にチューニングしたそうですが、そんな演出も、メルセデス・ベンツ流の余裕といえるのではないでしょうか。

インテリアはエクステリアとは異なり、最新モデルの流儀に沿った、ちょっと前衛的でモダンなデザインへと改められました。12.3インチのワイドディスプレイ2枚を使用したメーター回りはもちろん、サイドブレーキはレバー式から電磁スイッチとなり、ステアリングホイールのスポーク部にも多彩なスイッチが並びますが、近年のメルセデス・ベンツに慣れた目には、こちらの方が自然に映るかもしれません。

ステアリングコラムへと移動したシフトレバーでDレンジをセレクトし、路上へと歩みを進めますが、真っ先に感じたのは、滑らかなステアリングフィールとカドの取れた乗り心地。従来型は、ステアリングの戻りや中立付近の感触が独特、かつ鈍い印象でしたが、新型は一般的なサルーンから乗り換えても違和感を感じることはなさそうです。また、舗装の継ぎ目など、大きめの段差を乗り越えた際も、従来型は小さな身震いを感じることがありましたが、新型にはそうしたオフローダー特有のクセがありません。さらに、400馬力オーバーのパワー、約170kgの軽量化も効いているようで、発進から加速、コーナリングにおいて、動きはしっとりしているのに軽快、という走りを楽しむことができました。

これは、メルセデスAMGのG63にも共通する印象で、勇ましいエキゾーストサウンド、そしてあふれ出るほどのパワーがもたらすより一層力強い加速という個性が加わるものの、こちらも高級サルーンと十分渡り合えるだけの、上質な乗り味を実現しています。

では、舞台をオフロードコースに移すとどうなのか? この点もGクラスファン最大の注目点でしょうが、結論からいえば、こちらも想像以上の出来栄えでした。

新型Gクラスは、ドライブモードを5段階から選択可能で「コンフォート」、「スポーツ」、「エコ」、「インディビジュアル」のほか、オフロードモードとなる「Gモード」が搭載されています。Gモードは、ダンパーやステアリング、アクセル特性などの設定が変更され、最大限の悪路走破力を確保するというもの。さらに、360度カメラシステムを採用したことで、運転席からは見ることのできない車両周囲の状況を、モニターできるようになりました。

ちなみに、公表されているオフロード性能は登坂能力45度、傾斜角35度、最低地上高241mmと、従来型と同じ、または従来型をしのぐ値ですが、これらの数値を知っていても、狭い林間コースや大きな起伏を目の当たりにすると、思わずひるんでしまうもの。だからといって、歩いて上り下りするのも大変そうな本格オフロードコースでも、お馴染みのダッシュボードに並ぶセンター、リア、フロントのデフロックスイッチに触れる機会はわずかで、スムーズで路面の状況を正確に伝えるステアリング、大きくしなやかに動く足回り、そして、最新電子デバイスの巧みなサポートにより、全く不安なく走破することができました。

“期待に胸を弾ませて”臨んだテストドライブでしたが、本音では「Gクラスのカタチをまとった別物だったら…」という一抹の不安があったのも事実。確かに、従来型のかすかに残るワークホース感や道具っぽさも、趣味の対象としては魅力的に映りますし、ちょっと荒々しい乗り味だって、Gクラスの味だと思えるものです。しかし、メルセデス・ベンツ最新の快適性と、従来型をしのぐ驚異的なオフロード性能を見事に両立した新型の実力を身をもって体験し、ひとつの時代が終わることよりも、新たな時代の幕開けを素直に喜ぶべきだ、と思いを新たにしたのでした。

<SPECIFICATIONS>
☆G550
ボディサイズ:L4817×W1931×H1969mm(欧州参考値)
車重:2354kg
駆動方式:4WD
エンジン:3982cc V型8気筒 DOHC ツインターボ
トランスミッション:9速AT
最高出力:422馬力/5250~5500回転
最大トルク:62.2kg-m/2000~4750回転
価格:1562万円

<SPECIFICATIONS>
☆G63
ボディサイズ:L4873×W1984×H1966mm(欧州参考値)
車重:2485kg
駆動方式:4WD
エンジン:3982cc V型8気筒 DOHC ツインターボ
トランスミッション:9速AT
最高出力:585馬力/6000回転
最大トルク:86.7kg-m/2500~3500回転
価格:2035万円

(文&写真/村田尚之)


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