■最新の電子デバイスの恩恵で悪路だってガンガン進む
のっけから個人的な話で恐縮ですが、筆者の周りには、クルマ好きの友人・知人が多くいます。いうまでもなく、顔を合わせれば新車やヒストリックカー、チューニングカーなど、クルマ談義に花が咲くわけですが、最近は老若男女の別なく「ジムニー見てきた?」、「ジムニー乗った?」という話題が、会話の枕ことばになっています。
そんな日常からも新型ジムニーの人気ぶり、注目度は実感していましたし、先代モデルの元オーナーでもある筆者としては、新型に試乗できる日を心待ちにしていました。そして待望の試乗当日。今回はオンロードだけでなく、オフロードコースでも本領を試すチャンスに恵まれました。
試乗車は、ジムニーの5速MT車と、ジムニーシエラの4速AT車。ジムニーはオンロードとオフロードコースを、ジムニーシエラはオンロードのみをドライブしました。
早速、試乗に移りたいところですが、その前に、両モデルのスペックを簡単におさらいしておきましょう。
●ジムニー
全長:3395mm/全幅:1475mm/全高:1725mm
エンジン:658cc 直列3気筒 DOHC ターボ(最高出力:64馬力/最大トルク:9.8kgf-m)
●ジムニーシエラ
全長:3550mm/全幅:1645mm/全高:1730mm
エンジン:1460cc 直列4気筒 DOHC(最高出力:102馬力/最大トルク:13.3kgf-m)
トランスミッションは、全モデルに5速MTと4速ATが設定されており、駆動方式はパートタイム4WDのみ、というのが大まかな仕様です。
■オンロードの印象:ジムニーは軽快、ジムニーシエラはしっとり
最初にキーを受け取ったのは、小型車規格のジムニーシエラ。グッと張り出したフェンダーと、車体に対して大きく映る195/80R15サイズのタイヤが、たくましさを感じさせます。本格派の4輪駆動という生い立ちを考えると妥当な選択ではありますが、1090kgという車重からすると、足まわりがドタバタするのではないか、とか、動きが鈍重なのでは、といった不安もありました。でもそれらは、全くの杞憂でした。ステアリング操作に対し、フロントノーズはスムーズに向きを変えますし、大きめの段差を通過しても、軽く身震いする程度で、足周りが忙しなく動くこともなく、落ち着いた身のこなしが印象的でした。
対するジムニーはというと、175/80R16というタイヤサイズに対して、車重は1030kg。トレッドは、シエラが前1395/後1405mmであるのに対し、前1265/後1275mmという寸法です。そのフットワークは、シエラよりも軽快、というのは想像どおり。タイヤが細く、トレッドも狭い分、オンロードのタイトコーナーで若干「おっとっと…!」と感じるシーンありますが、不安を感じるほどではありません。
何より意外だったのは、軽自動車とは思えない快適な乗り心地で、前後リジッドアクスル方式でありながら、十分なストロークが確保されたサスペンションと、十分なハイトのあるタイヤは、フロアやシートに微細な振動を伝えてくることもありません。また先代では、荒れた路面を走ると上下に揺すられたり、ブルブルという振動を感じたりすることがありましたが、新型はラダーフレームが強化されたことや、フレームとボディとのマウンドが改良されたことなどにより、走行中の不快さをしっかり排除しているようです。
■エンジンの印象:パワーは必要にして十分。刺激はないけど扱いやすい
大胆な刷新を図った内外装と同様、先代と比べて「変わったなぁ…」と感じたのは、エンジンです。先代シエラは、排気量1.3リッターで最高出力は88馬力でしたが、新型は1.5リッターで102馬力と、排気量も出力もアップしています。先代では、グッと右足に力を込め、軽くうなるエンジン音を聞きながら加速…という印象でしたが、新型はというと、右足に力を入れずとも十分な加速を得られますし、何より静粛性が大きく向上しています。
走り出した直後こそ「もう少しパワーがあれば…」と感じることがありましたが、メーターを見ると十分なスピードが出ています。錯覚といってしまえばそのとおりですが、エンジン音自体が静かになり、さらに遮音性も向上したこと、また、パワーの出方がフラットになったこともあり、加速が穏やかに感じるのです。また、4速ATのシフトアップやロックアップが洗練されたことも、こうした印象をより強くしているようです。とはいえ、1.5リッターの自然吸気エンジンですから、4速50km/h前後からの加速や上り坂では、もうひと声パンチが欲しいというシーンも。でもそんな時も、オーバードライブのスイッチを解除してやれば、十分な加速を得られますのでご安心ください。
本家の軽ジムニーも、エンジンやギヤボックスはかなり洗練された印象です。絶対的なパワーではシエラに及びませんが、心地良いビートを伴う吹け上がりを楽しみつつ、ストロークこそ長めですがカチリと決まるギヤボックスを操ってのドライブは、なかなか痛快。3000回転から5000回転辺りにかけてはトルク感もあり、オンロードの長距離ドライブでも不満を感じることはなさそうです。
■オフロードの印象:素性の良さ×電子デバイスで難所も楽々クリア
オフロードコースでの走行は、ジムニーのみでのトライ。こちらも結論からいえば、想像以上の走破力が実現されていました。ジムニーといえば、日本国内の林業関係者などが愛用する、一種の“プロツール”としての顔も持っていますが、実はヨーロッパにおいても、同様の業務に当たる人々にとって、欠かせない存在になっているのだとか。そこで、新型の開発に際しては、日本国内だけでなく、ドイツの森林協会なども対象に、ヒアリングやテストを行い、走破力や信頼性のさらなる向上を図ったそうです。
今回は、大きなアップダウンのある林間コースのほか、不規則な大きなコブが続くモーグルコース、すり鉢状のバケツコース、積み重ねられたタイヤを超えるタイヤセクションなどが、テストコースとして設定されていました。
林間コースの荒れた長い下り坂や、乾いた土のバケツコースを下るというシーンは、オフロードコース経験者でも恐さを覚えるもの。スピードを落とそうとブレーキを踏んでしまいタイヤがロック、そのままズルズルと滑ってしまう、なんてこともあるのです。
その点、新型ジムニーには、そんなシーンでエンジン出力とブレーキを自動制御する“ヒルディセントコントロール”が新採用されており、アクセルもブレーキも操作することなく、一定速度で斜面を下れるようになりました。その制御はなかなか巧みで、長めの下り坂でも速度調整はクルマ任せ。ドライバーは、コース取りとステアリング操作に専念できます。もちろん、下り坂につきものの精神的な不安が大きく軽減されるのは、いうまでもありません。
上り坂においても、その性能は大きく向上。林間コースにある傾斜のキツい荒れた路面や、バケツコースの細かい砂状の土の上、4輪のグリップを均一に保てないタイヤセクションなどでも、難なくクリアしていきます。こうしたシーンでは、空転した車輪にだけブレーキを作動させ、もう一方の車輪に駆動力を伝える“ブレーキLSDトラクションコントロール”や、坂道発進時にブレーキから足を離しても、2秒間は車両を保持する“ヒルホールドコントロール”といった電子デバイスが、ドライバーの操作を的確にサポートしてくれます。そのため、例えば、スリップしやすい上り坂での発進でも、地面をつかむように、じわりじわりと歩みを進めることが可能です。
とはいえ、オフロードで何より心強い理由は、しなやかによく動く足回りと十分な最低地上高といった、ジムニーの素性に起因するものであるのは間違いないでしょう。例えば、モーグルコースの大きなコブにも、前後サスペンションはしっかりと追従。地面をなめるように動くので、タイヤが不意にスリップするようなこともありません。
確かに従来モデルでも、十分過ぎるほどの走破力を実現していましたが、そこには、ドライバーの経験値や腕に左右される、といった一面があったのも事実。しかし新型では、腕に左右されていた部分を最新の電子制御がしっかりカバー。今回のテストコースは、鼻歌を歌いながらでも走破できました。
本格4WDという生い立ちに、電子制御というサポートが加わった新型ジムニーは、クラスを超えた走破力と安心感を実現したといっても過言ではありません。クルマの真価は、やはり触れてこそ分かるモノ。“百聞は一見にしかず”とは、よくいったものです。
<SPECIFICATIONS>
☆ジムニー XC(5速MT)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1725mm
車重:1030kg
駆動方式:4WD(パートタイム式)
エンジン:658cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:5速MT
最高出力:64馬力/6000回転
最大トルク:9.8kgf-m/3500回転
価格:174万4200円
<SPECIFICATIONS>
☆ジムニーシエラ JC(4速AT)
ボディサイズ:L3550×W1645×H1730mm
車重:1090kg
駆動方式:4WD(パートタイム式)
エンジン:1462cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:4速AT
最高出力:102馬力/6000回転
最大トルク:13.3kgf-m/4000回転
価格:201万9600円
(文&写真/村田尚之)
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