■かわいらしいデザインが多くの人を惹きつけた
20年ぶりに新型へとフルモデルチェンジした軽オフローダーのスズキ「ジムニー」が、爆発的な人気を集めている。
ジムニーは2018年7月5日に発表されたが、Webメディアなどを中心に、一時は「納車まで1年待ち」というウワサも広まった。実際、スズキの関係者に話を聞いても「かなりお待たせしてしまうことになる」とのことだった。もっともその後、スズキは製造ラインの対策を行ったようで、状況は改善されつつあるという。
それにしても、軽オフローダーという特殊なジャンルのクルマが、なぜこれほどの人気を集めているのだろうか? その理由の第一は、デザインにあると考える。
新型ジムニーのデザインがネット上に初めて流出した際には、SNSなどを通じてかなり拡散された。その顔つきに始まる、端的にかわいらしくユニークなルックスは、多くの人たちの間で即座に話題を呼んだ。しかも新型のデザインは、よく見ればかわいらしいだけでなく、オフロード4WDとしての機能を追求したカタチであり、どこか本格的な雰囲気が漂う。さらに、歴代ジムニーを彷彿とさせるような懐かしさを感じる点や、最近のクルマには少ない直線基調のデザインが新鮮に感じられたことも、人気を集めた理由のひとつといえるだろう。
また、新型のデザインが事前にリークされたことで、そもそも、ジムニーがフルモデルチェンジすることが明らかになり、ニュースソースの価値が高まったともいえる。デザインが流出するまで、ジムニーがフルモデルチェンジするということを多くの人は知らなかったし、逆にフルモデルチェンジが行われると分かり、おまけにそれが、実に20年ぶりという事実も広まったことで、さらに話題は盛り上がった。実際、新型ジムニー登場のウワサが流れるまで、メディアもクルマ好きも、偉大なるジムニーの存在を忘れてかけていた感はあったわけで、そうした事実が余計に、新型デビューの話題を加速させたともいえる。
そして、いざ発表されてみると、新型のデザインを見て「欲しい!」と感じた人は相当数に上ったようだ。関係者によれば、スズキのディーラーにはこれまでのユーザーとは全く異なる人たちが訪れているほか、女性ユーザーがジムニーを見に来るケースも増えているという。つまり新型のデザインは、それほどまでに多くの人の興味を惹きつけたというわけだ。
新型ジムニーのデザインに関しては「合理的でムダのない機能美。『プロの道具』をデザインする」というテーマが掲げられたという。スズキは新型ジムニーに関して“原点回帰”を謳っているが、デザインに関しても、実際に車両の姿勢や状況を把握しやすいスクエアなボディ、過酷な環境に負けないタフなパネル断面、走破性・積載性を高める細部の工夫といった、3つの要素を表現したという。この辺りは、ジムニーのデザインにのみ反応した人々には無縁の話かもしれないが、実は新型のデザインには、オフロード4WDとしての硬派な要素がてんこ盛りなのである。
しかしながら、新型のデザインが端的に、ひと目惚れするような要素を持っていたというのは、デザインのチカラが相当強いからだともいえる。スズキによれば、新型のデザインは「歴代ジムニーのアイコンだったエレメントをさまざまな部分に引用している」という。特に、新型の印象的な顔つきは多くの人々の興味を引いたわけだが、それも実は、かわいらしさを狙ったものではなく、過去へのオマージュだったという点も興味深いところである。
加えて、ボディカラーや素材に関しても「機能を表現するもの」とスズキは説明している。例えば、新色のキネティックイエローは、暗い森の中や悪天候下でも目立つことから、レスキューなどのプロに必要な性能として採用された。逆にジャングルグリーンは、隠れる性能を意識したカラーで、森に溶け込み、動物保護活動などのプロをサポートするのに有効な色として採用されたものだ。
さらに、水平基調のインパネデザインも、オフロード走行時に車体の傾きなどを直感的に判断しやすくするための、機能の一部。このように、新型ジムニーのデザインは、内外ともに本気を感じさせるものに仕上がっているのだ。
こうして、数々の機能的理由からデザインされた新型ジムニーだが、果たして実車を目にすると、ひと目でかわいいと感じ、愛着がわき、生活の相棒にしたくなるような感覚を誰もが覚えるものに仕上がっている。それと同時に、機能を徹底的に追求したデザインであるにも関わらず、新型ジムニーのそれは、現代のさまざまな叡智が集結した自動車デザインとは明らかに一線を画す、独自の魅力を提示している点も面白い。
結果、新型ジムニーは、これまでジムニーを乗り継いできたユーザーや、アウトドア趣味を持つ人々といった正統派の顧客にとどまらず、これまでジムニーとは無縁だった人々の注目も多く集め、話題をつくり、爆発的人気となっていったのである。