■美しくカッコいい新型V60のデザイン
まずは、新しいV60の立ち位置について解説したい。
ボルボは車体の大きさを、車名にある2桁の数字で表している。最も大きなモデルが「90」シリーズ、そして、一番コンパクトなモデルが「40」シリーズで、「60」はその中間に位置する。
一方、数字の前に付くアルファベットは、各モデルのジャンルを表現。例えば「XC」ならばSUV、「S」であればセダン、そして「V」ならステーションワゴンといった具合だ。つまりV60は“中間サイズのステーションワゴン”というわけである。
ちなみにV60のライバルは、メルセデス・ベンツの「Cクラス ステーションワゴン」、BMW「3シリーズ ツーリング」、そして、アウディ「A4アバント」など。日本でもお馴染みの、ドイツプレミアムブランドのCセグメント・ステーションワゴンである。
■後席と荷室が格段に広くなった
正直に告白すると、その第一印象の時点から、僕は新型V60に心を奪われてしまった。デザインの好みは人それぞれだが、柔らかい面で構成され、シャープなエッジを使ってディテールを引き締めたV60のデザインは、美しくカッコいい。それだけで十分な購入理由になるのでは? そう感じたほどだ。
もちろん、新しいV60の魅力はデザインだけにとどまらない。まずお伝えしたいのは、今回のフルモデルチェンジで実用性が大幅に高まったことだ。
先代モデルと比べると、新型は全長が125mm延びているが、その恩恵を一番受けたのは、リアシートの居住性。リアシートは足元のスペースが大きく広がり、先代モデルに比べてヒザ周りのゆとり、つまり、リアシートに座った際のヒザから前席背もたれまでの距離が、実に36mmも拡大した。これは、かつて売られていた兄貴分の「V70」をも上回る数値だ。
さらに、ステーションワゴンの真価ともいえるラゲッジスペースも、格段に広くなった。先代モデルの荷室容量は後席使用時で430Lだったが、新型は先代比で99Lも広がり、529Lとなっている。これは、Cクラス ステーションワゴンの460L、3シリーズ ツーリングの495L、そして、A4アバントの505Lを凌駕する値。ちなみに「驚くほど広くて実用性が高い」と評価されていたV70最終モデルの荷室容量は575Lだったから、新型V60はその領域に近づいたといえる。
そしてもうひとつ、新型V60の実用性に関して外せないトピックが、車幅の話。実は先代モデルよりも全幅が15mm狭くなっているのだ。実はこれ、インポーターであるボルボ・カー・ジャパンからのリクエストを、本国の開発陣が聞き入れた結果、決定した値だという。
新型V60の全幅は、1850mm。この数値は、ここ10年ほどの機械式立体駐車場(マンションやタワーパーキング)における、入庫可能車両の最大寸法と合致する。つまり、先代モデルは収まらなかったけれど、新型なら入るという機械式立体駐車場が、日本にはたくさん存在。これまでV60が欲しくても、駐車場の事情で買えなかったという人でも、新型なら買えるようになったわけだ。いずれにせよ、日本の駐車場事情を反映してインポートカーの車体サイズが決められた、というのは珍しい話である。
■2種類のプラグインハイブリッドを設定
新型V60で意外だったのは、パワートレインのラインナップ。発表されたパワートレインは、2リッターの“ガソリンターボ”仕様と、そこにスーパーチャージャーを追加してエンジンを強化し、さらにモーターをプラスした“ハイブリッド”仕様の2タイプ。ボルボといえば近年、日本でもディーゼルエンジン車を積極展開してきたが、新型V60のバリエーションには見当たらない。インポーターによると「海外仕様には存在するが、日本市場にはこの先も導入予定はない」という。
実はこれ、ボルボの電動化戦略の一環で、日本市場においては「大型車にはガソリン車やハイブリッド車に加えてディーゼル車も用意するが、小型車と中型車はガソリン車とそのハイブリッド仕様の展開になる」(インポーター担当者)という。ちなみに60シリーズの場合、先行上陸しているSUVの「XC60」にはディーゼル仕様がラインナップされているが、そのXC60と今回のV60との境目が、パワートレイン・ラインナップの“分岐点”になったのだ。
一方、ハイブリッド車には新しい仕様が登場した。
ボルボのハイブリッドはすべて、強力なモーターと大きなバッテリーを積み、家庭にあるコンセントから充電可能な上に、近距離であればエンジンをかけずに電気自動車感覚で走れるプラグインハイブリッドである。
従来、ボルボのプラグインハイブリッド車は、最高出力318馬力の強力なエンジンにモーターを組み合わせた「T8ツインエンジン」のみの展開だったが、新型V60には、モーター性能は同一で、エンジン出力を253馬力に抑えた「T6ツインエンジン」が新設定されている。グレードはいずれも上級の「Inscription(インスクリプション)」となり、T8が819万円、T6が749万円というプライスタグを掲げる。
T8は「動力性能はかなりすごいが高価」で、新設定のT6は「動力性能は少し大人しいけれど身近な価格」と考れば分かりやすい。もちろん、T6の動力性能は控えめとはいえ、253 馬力のエンジンに87 馬力のモーターを組み合わせているのだから、一般的な基準でいえば「けっこう速い!」という印象なのは、いわずもがな。
ちなみに、今回試乗が叶った「T5 Inscription」と、ボトムグレードの「T5 Momentum(モメンタム)」には、ハイブリッド仕様ではなく“普通”の4気筒ターボエンジンが搭載されるが、こちらも254 馬力と、動力性能的には十分以上。
ライバル勢のボトムグレードには出力控えめのエンジンが搭載されているが、ボトムグレードでも上級グレードと変わらないパワフルなエンジンが搭載される点は、新型V60における魅力のひとつかもしれない。
■ステーションワゴン本来の価値を追求した新型V60
ボルボのワゴンといえば、多くの人が思い浮かべるのは「850エステート」、もしくはその後継モデルである「V70」ではないだろうか。
先代V60は“V70との差別化”という意味もあって、スポーティなスタイルを採用。例えば、ステーションワゴンのキャラクターを象徴するリアピラーは、傾斜角の大きいデザインだった。その点、新型V60は大きく方向転換。先代とは違って垂直に近いリアピラーを採用し、ラゲッジスペースの広さや使い勝手を重視するなど、ステーションワゴン本来の価値を追求する方向へと軌道修正が図られた。
こうしたコンセプトは、850エステートやV70にも導入されていた、ボルボワゴンの伝統的な開発思想そのものだ。V70は、フラッグシップワゴンの「V90」にその座を譲り廃止となったが、新型V60に触れて、乗って、ドライブしてみると、典型的なボルボのステーションワゴンだったV70の姿が重なって見えた。
<SPECIFICATIONS>
☆T5 Inscription(オプション装着車)
ボディサイズ:L4760×W1850×H1435mm
車重:1720kg
駆動方式:FF
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:254馬力/5500回転
最大トルク:35.7kgf-m/1500〜4800回転
価格:599万円
(文&写真/工藤貴宏)
[関連記事]
【ボルボ XC60試乗】受注の半数を占める人気者。“ディーゼル+4WD”が待望の新上陸!
【ボルボ XC40試乗】1stロットはもう完売!ボルボの新しい扉を開く新世代SUV
【趣味のためのクルマ選び】使い勝手良好、走りも◎!BMW340iツーリング
- 1
- 2