【ジープ ラングラー海外試乗】驚きの連続!オフロードの聖地も軽々と走破:岡崎五朗の眼

■新しいJL型ラングラーも“ジープのお作法”を継承

――この夏、新型ラングラーでドライブされたルビコン・トレイルは、ひと言でいってどのようなコースなのでしょうか?

岡崎:ルビコン・トレイルは、ネバダ州からシエラネバダ山脈を抜け、カリフォルニア州のレイクタホに達する、険しい花崗岩で覆われたオフロードコース。コース全般に大小の岩が連なっていて、普通のクルマでは到底、走破できそうにない過酷な地なんだ。

そんな難コースで、ジープは40年以上にわたってオフロード性能を磨いてきた。ラングラーのラインナップには、悪路走破力を高めた「ルビコン」というグレードが設定されているけれど、それはまさに、ルビコン・トレイルから名づけられたもの。それくらいジープの開発陣は、このタフなオフロードコースでの性能を重視しているんだよ。

――ジープといえば、その起源は軍用車両ですよね?

岡崎:ジープの誕生は、1940年にまでさかのぼる。アメリカ軍は第二次世界大戦で使用する、小型・軽量で機動力が高く、牽引能力にも優れた4人乗りの軍用車両に関する規格を、複数の自動車メーカーに提示した。

それを元に、各社が思案したプランの中から選ばれ、翌1941年に誕生したのが軍用車両のジープ。大戦中、世界の戦地で使われたジープは、戦後1945年くらいから民生用としても使われ始めるようになる。その頃のジープは、今、全盛の時代を迎えているSUVの元祖というべきモデルだろうね。

――今年、話題を集めているスズキ「ジムニー」のネーミングの由来は“ジープ・ミニ”だとウワサされています。それくらいジープというクルマは、昔から世界のオフロード4WDやSUVからターゲットとされる存在だったわけですね。

岡崎:そうだね。そして今回ドライブした新しいJL型ラングラーは、まさにジープの現代版というべきモデル。ラダーフレームシャーシや前後のリジッドアクスル、パートタイム4駆など、悪路走破力を左右する“ジープのお作法”みたいなものは、従来モデルから継承している。

その上で新型は、前輪のアンチロールバーを車内のスイッチひとつでフリーにできる機構を導入したほか、アプローチアングルやランプブレークオーバーアングル、デパーチャーアングルといった走破力を左右するスペックを引き上げるなど、オフロード性能を一段と高めているんだ。

■ポルシェ「911」と同様、ラングラーはブランドの精神的支柱

――近年、SUVが持てはやされているせいか、ジムニーやメルセデス・ベンツ「Gクラス」といったリアルオフローダーと呼ばれるモデルも、オンロード性能をかなり進化させてきました。その点、新しいラングラーはいかがでしたか?

岡崎:今回の試乗会は、舗装路を走る機会がほとんどなかったから、オンロードでの本当の実力というのは、正直、体験できなかった。何しろ舗装路は、ホテルからルビコン・トレイルまでの、30分ほどの道のりを往復しただけだからね。

逆にオフロードは、ルビコン・トレイルでの1泊のキャンプを挟んで、計2日間、過酷なコースをずっと走りっぱなし。これまで世界各国、いろんなメーカーの国際試乗会に参加してきたけれど、今回の試乗会で記録した平均速度は、これまでで最も低いんじゃないかな。悪路で止まったり走ったりを繰り返していたから、平均速度は結局、5km/hに過ぎなかったと思う(笑)。

開発陣は「新しいラングラーは、オンロード性能も進化しています」といっていたけれど、その割に、その実力を体験する機会がほとんとない試乗会だったんだ。やはり、ラングラーの真価はオフロードにあり、と位置づけているんだろうね。

それでも新型には、オンロード性能の向上を期待できる要素が、多数盛り込まれている。新しいJL型ラングラーを見ると「あれ、どこが変わったのだろう?」と思うくらい、一見しただけでは従来モデルからの変化が分かりにくいけれど、細かく見ていくと“セブンスロットグリル”が刻まれたフロントパネルが、途中で“くの字”に折れ曲がっていることに気づく。こうしたデザインが採用されたのは、ジープとその後継モデルであるラングラーにとって、初めてのこと。実はこれ、空力性能を意識して採用されたものなんだ。個人的には、ついにジープも空力を意識してきたか、と感慨深かったね。

また、リアのドアをマグネシウム製にしたり、高張力鋼板やアルミを多用したりすることで、JL型ラングラーは先代に比べて、70kgほどのダイエットに成功している。さらにパワートレインも、新しく2リッター直列4気筒ターボ+8速ATの組み合わせを用意したほか、従来からの3.6リッターV6エンジンにはアイドリングストップを追加。そして北米仕様には、マイルドハイブリッド車も用意している。中でも、フィアットが開発したものをベースとする2リッターターボは、軽快でスポーティに回るし、8速ATとの組み合わせで、とても軽快に走ってくれる。

こうした空力改善、軽量化、パワーユニットの変更などは、さらなる排気ガスの清浄化と、省燃費対策の一貫であることは明白だよね。おまけに新型は、トレッドと呼ばれる、左右輪の間隔が広がっていて、オンロード走行時に踏ん張りが利くようになったし、その分、前輪が大きく切れるようになって小回りも効くようになっている。だから、オンロード走行を始めとする日常での使い勝手は、かなり向上していると思うよ。

――オンロード性能を向上させたからといって、オフロードでの性能を犠牲にしていない点は、いかにもジープらしい、ラングラーらしいところですね。

岡崎:それは、ジープブランドの中に「グランドチェロキー」や「チェロキー」、「コンパス」、「レネゲード」といったSUVが、複数ラインナップされているのが大きいだろうね。“軟派なジープ”が増えてきている分、ラングラーまで悪路走破力という点で日和ってしまうと、ジープ全体のブランドバリュー低下につながりかねない。そういう意味でラングラーは、ジープの「Go Anywhere , Do Anything〜どこにでも行けて、なんでもできる〜」という開発コンセプトに対し、妥協のないモデルといえるね。

――ラングラーは、ジープブランドのフラッグシップ、という位置づけなのでしょうか?

岡崎:考え方によっては、グランドチェロキーの方がフラッグシップなのかもしれない。けれど、ブランドの精神的な支柱は、やはりラングラーだろうね。例えばポルシェの場合、「パナメーラ」の方が高価であったとしても、やはりブランドのコアは「911」以外にありえない。同様にジープの場合も、ブランドアイコンはやはりラングラーだよね。

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