■素の状態でもスタックすることなく難なく走破
――ルビコン・トレイルでの様子を拝見する限り、川を渡ったり険しい岩場を走破したりと、ハードなルートだったようですが、その時、車内のドライバーや乗員は、どのような状態なのでしょうか?
岡崎:川を渡る際は、実はものすごく快適だったよ。何しろ新型ラングラーのルビコンは、深さが最大76cmの川でも渡れるだけの性能を実現しているからね。たださすがに、岩場を抜けていく時は車体が上下・左右に大きく揺すられるし、たまにはアンダーガードを岩に打ちつけることもあるから、結構、大変な思いをしたよ。
ちなみに、ラングラーは助手席の前にアシストバーが付いているんだけど、ハンドルを握っていない助手席の人は、バーを握って身体を支えていないと、体が大きく揺すられて大変。今回、ルビコン・トレイルを走ってみて、初めてバーの必要性が分かったよ(笑)。
――ルビコン・トレイルはものすごくタフなコースみたいですから、さすがのラングラーでもスタックを経験されたのではないですか?
岡崎:ところが、スタックするようなことは、一切なかったんだ。もし、片方の2輪が地面から浮いてしまっても、センターデフをロックさせると難なく脱出できるし、仮に3輪が浮いてしまっても、前と後ろのデフをロックさせればタイヤの空回りを抑えられるから、1輪だけでも走破できる。とはいえ実際は、そのデフロックを使う機会さえ、ほとんどなかったほどなんだ。
今回はルビコンをドライブしたのだけれど、素の状態でもサスペンションがよく伸びるし、最低地上高も十分過ぎる量が確保されている。おまけに、ローレンジのギヤ比が他のグレードよりも低く設定されているから、タフなルビコン・トレイルのコースでも、全く問題なく走破することができた。
おまけに、過酷なオフロードを走る時というのは、一般的にタイヤの空気圧を低くし、できるだけトラクションを稼げるようセッティングするものなんだけど、今回はタイヤの空気圧も、ディーラーから持ってきたままの状態。開発陣は「こうしておいた方が、ルビコン・トレイルから帰る前にエアを入れ直す必要がなくていいだろう?」と笑っていたけど、ちょっと驚いたね。
それでいて、普通のクルマじゃ絶対に走れないような難コースでも苦もなく走れてしまうのだから、本当にラングラーの悪路走破力はすごいと思う。オフロードを走るプロでもない僕たちが、過酷なルビコン・トレイルをラクに走破できてしまうというのは、本当に驚きだった。
■日本マーケットにおける新型ラングラーの大いなる可能性
――五朗さんは、これまでのラングラーに対し、どのような印象をお持ちでしたか?
岡崎:4ドア仕様の「アンリミテッド」が登場して以降、ラングラーはSUVとしての魅力がかなりアップしたよね。2ドアは確かにカッコいいけれど、とにかく車内が狭い。アンリミテッドもリアシートこそ狭かったけれど、子どもなら十分座れたし、ラゲッジスペースも大きくなっていた。その上で新型ラングラーのアンリミテッドは、先代モデルの弱点だったリアシートが広くなっている。これはオーナー予備軍に対して、大きなアピールポイントになるだろうね。
そういう点から見ても、新しいラングラーはものすごいポテンシャルを秘めたクルマだと思う。実際、日本のマーケットでは、ラングラーの販売台数がジープ全体の35%くらいを占めていて、世界で一番、ラングラー比率の高い国となっている。全方位的に進化した新型の登場で、そんなセールスに一段と弾みがつくんじゃないかな。
――確かに、日本人にとってはジープ=ラングラーという印象が強いですもんね。
岡崎:これまで「ラングラーの良さは確かに分かるけれど、自分にはちょっとハード過ぎる」と感じていた人は、グランドチェロキーやコンパスを選んでいた。でも、本物が欲しいと思う人は、やはりラングラーを選びたいところだよね。そういう点で新しいラングラーは、オンロード性能もアップしているし、ジムニーやGクラスのフルモデルチェンジでリアルオフローダーに注目が集まっている中での上陸だから、日本でも相当売れるんじゃないかな。
もちろん、中には「オフロードなんてどうせ行かないから、そんな性能は不要」なんて声もあると思う。同様に、スポーツカーのサーキットにおける性能も「どうせサーキットには行かないから不要」と切り捨ててしまうのは、簡単なこと。でも「どうせあんなことしないよね」「これはいらないよね」なんて具合に性能を削っていき、それが行き過ぎてしまうと、世の中は後ろ向きのプロダクトばかりになってしまう。その結果ユーザーは、味気ないクルマ選びを強いられてしまうんだ。
例えばポルシェを買った人が、何かの機会に「やはり市販車開発の聖地・ニュルブルクリンクを7分30秒で走れるクルマはすごい!」と実感できれば、自分のクルマのことをもっと好きになるだろうし、愛車に対して誇りを持てるようになる。同様に、ジープもあのルビコン・トレイルを難なく走破できるクルマだと知れば、オーナーの愛車に対する誇りは、格別のものになると思うんだ。
クルマというのは、単なる移動手段ではない。だからこそユーザーには、もっと本物に触れて欲しいし、本物を欲しがる人がさらに増えていって欲しいと思う。そういう点で新しいラングラーは、まさに本物だし、折に触れてすごさを感じられるクルマ。カタチだけのSUVが全盛を迎えている今だからこそ、こういった本物は高く評価したいと思う。
(文責/&GP編集部 写真/岡崎五朗、FCAジャパン)
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